「起業家のように企業で働く」とは【小杉俊哉倉重公太朗】第3回

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あなたの周りに「妙にツイてる」「いつもチャンスをモノにする」というラッキーな人はいませんか? 小杉俊哉さんの著書である『ラッキーをつかみ取る技術』に書かれているのは、「ラッキーが起こる人には、ラッキーが起こるべくして起こっている」ということ。彼らはみんな共通する考え方、行動を取っているそうです。幸運を呼び込み、自分のものにする秘訣を伺いました。

<ポイント>

・ラッキーな人はとらえ方、考え方が違う

・「リーダーシップ4.0」の世界とは?

・自律さえすれば、今の環境でできることはたくさんある

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■ラッキーは誰にでも訪れる

倉重:今はコロナもあって社会的に非常に不安が蔓延している時代で、会社もいつまでもつのか分からないし、終身雇用ができるかどうかは誰も分かりません。ただ、自分の行動として、幸運の確率を上げていくという意味では、先生の「ラッキーをつかみ取る技術」が大事なのではないかと思うのです。

小杉:いろいろ振っていただいてありがとうございます(笑)。かつてラッキーを研究していて、『ラッキーをつかみ取る技術』と『ラッキーな人の法則』という2冊を著しました。端的に言いますと、まず日本人は「ラッキーはたまたま偶然起きるものだ」と思っている人が圧倒的に多いのです。

倉重:降ってくるものだと思っています。

小杉:そうですね。ラッキーになる確率を上げる人は、みな同じような行動を取っているのです。例えば、宝くじを当てるには、「買う」ということが第一歩ですね。

倉重:確かに、買わなければ当たりませんから。

小杉:そうです。「いつか金持ちになりたい」と思っているだけではダメなのです。棚からぼたもちとも言いますが、餅が落ちてくるのを待っていても、自分のところに落ちてくるか、落ちたタイミングでつかめるかどうか分かりません。だから、台に登って手を伸ばして棚の上をまさぐらないといけないわけです。

倉重:それが第一歩ということですね。

小杉:そういう行動を取るということが重要です。よく言われるようにラッキーは誰にでも起こります。これを調査したのですが、ラッキーな人にラッキーなことばかり起こっているかと言いますと、全然そんなことはありません。最初にわたしの話もしましたが、結構苦労の連続だったりするわけです。

倉重:そうですよね、大変な時期もありましたよね。

小杉:ちなみに、わたしのラッキーテストの結果は98点です。まあ自分で調査票を作って書いたので高いのは当たり前なのですが(笑)。ラッキーな人はとらえ方、考え方が違うだけなのです。

倉重:どう違うのですか?

小杉:何が違うのかと言いますとラッキーに備えているのです。ラッキーに備えて、自分の力を高めるための努力を惜しみません。

倉重:いつラッキーがきても、それを掴める状態なのですね。

小杉:準備をしていないと,いざというときにひるんでしまうのです。あとはラッキーを呼び込むこと。ラッキーは人が運んでくるものなので、やはりどれだけネットワークを広げているかということが重要です。よく言われるのは弱い紐帯の強み、“The strength of weak ties” ということです。いい仕事というのは直接の知り合いではなくて、ごく薄いつながりの人や、知り合いの知り合い、そのまた知り合いぐらいからくるというのは、昔から実証されています。どれだけ幅広く、多様なネットワークを持っているかというのは、ラッキーになるためにとても重要です。

倉重:それは同じ業界だけの話ではありませんよね。

小杉:そうです。企業研修でネットワーク分析をしてもらうと、皆さんものすごく狭いのです。でも実はヒントや良いアイデアは、仕事とは全然関係ないところからくることが圧倒的に多いのです。

倉重:確かにそうですね。わたしも弁護士だけでつるんでいたときは全然ネットワークが広がりませんでした。

小杉:やはり思考パターンが似ていますので、面白い発想は出ないのです。ご存じのようにイノベーションは新機軸ですから、全然違うところとの組み合わせでできます。「辺境から来る」と言われる由縁です。

倉重:越境学習のように、違う業界の人が入るとそういう視点もあるのだと気づきますよね。

小杉:あとは、ラッキーを見つけるセンサーです。よくラッキーには後ろ髪がないと言いますよね。

倉重:「チャンスの女神は前髪しかない」と言いますね。

小杉:ラッキーだと思えるかどうかは、センスを磨いておかないと判断できません。

倉重:「ラッキーがくるぞ、くるぞ、いつきても大丈夫なようにしよう」と常に思っているかどうかですね。

小杉:そういうことです。投資でもそうですが、失敗もあります。「掴んだけれどもこれはダメだ」ということもあるのです。それがあまりに甚大な被害になってはいけませんが、人と会ったときには「1回ぐらいはだまされてもいい」と思うぐらいのつもりでいます。

倉重:死なない程度にだまされるということですね。

小杉:そうです。財産を失わない程度に、捕まらない程度に。そうするとだんだん自分のセンサーが磨かれていくのです。自分でラッキーを取りに行くことも必要になります。

倉重:多くの人と接していると、あるところから自分の中で統計的な判断がたまってきて、何となく第一印象で「こんな感じなのでは」と思うとそんなに外さなくなってきますよね。

小杉:そんなに外さないです。ですから今改めて注目されている直感というのは、データの解析よりも、ものすごく優れていることなのです。まとめると、ラッキーに対して備えて呼び込み、見つけて取りに行ってモノにするという行動を取っています。

倉重:自分の中にある直感を大事にするというのは、先が読めない今の時代だからこそ、超大事ですね。

小杉:超大事です。これだけネットにいろいろな情報が溢れていて、いくらでもアクセスできるようになっていますので。

倉重:先輩と同じことをして成功できる保証はどこにもないですから。

小杉:どこにもないですし、むしろそれはやってはいけません。

■「リーダーシップ4.0」の世界

倉重:チャンスをつかんで何か事業を始めたとすると、今度は人を率いる立場になるわけです。『リーダーシップ3.0』の先生の本でも話が出てくると思いますが、こういう時代だからこそ、リーダーシップはどのように考えればいいですか?

小杉:『リーダーシップ3.0』は支援型なわけですけれども、リーダーシップの原型である1.0は、権力を背景にコマンドアンドコントロールの専制君主型です。2.0のチェンジリーダーは、変革型。その時代背景以外に、組織の成熟度合、置かれている環境によって、求められるリーダーシップの型が異なります。

例えばオーナー系の企業は、1.0の絶対君主的なものが多く、社長が答えを持っています。それでうまくいっている企業にダメ出しをするつもりは毛頭ないのです。ただ、一般のビジネスパーソン、特に内部昇格で部門責任者、トップになったような人が、1.0や、2.0をできるわけではありません。

変革のリーダーについては、90年代の日本企業トップはみな意識していたけど、すごく苦手でことごとく失敗しました。生え抜きのトップが、痛みを伴うリストラクチャリングをタイミングを逃さず行うことが出来なかったのです。これだけ変化の激しい時代に忘れてはいけないのは、たとえトップであっても「自分が答えを持っているわけではない」ということです。

誰もがコロナ禍の環境は初体験です。それなら「寄らば文殊の知恵」ではないですが、一人ひとりと向き合って、みんなの力を引き出す側に回ったほうが成功の確率は上がるのではないでしょうか。そういうリーダーシップのあり方のほうが今の時代には合っているかもしれません。それが支援型の3.0のリーダーシップなのです。

倉重:これはサーバントリーダーシップとも言われているものですね。

小杉:ええ。一番有名なのはサーバントリーダーシップですが、オープンリーダーシップやコラボレイティブリーダーシップなど、いろいろな言い方をしています。羊飼い型リーダーシップなどとも言われています。

倉重:最近のティール組織などもこの一緒なのですか。

小杉:ティール組織はそれが実践されている組織のことで、まさに自律型組織のことです。階層を少なくしてコントロールしない、管理しないというものです。

倉重:この3.0は冒頭の話で、小杉さん自身がユニデンでやったことではないですか。

小杉:たまたまそれしかできなかったのですが、一人ひとりが仕事しやすいように支援側に回るということで、それを実行するしかなかったのです。結果的には正解だったと思っています。

倉重:先生の書いた本がことごとくこの時代に意味を持ってきたと思います。

小杉:ありがとうございます。

 もう一歩進むと「リーダーシップ4.0」の世界になります。3.0まではいわゆる組織を率いる側の話で、そのスタイルの違いでした。4.0というのは、「組織にいるすべての人がリーダーシップを発揮しなければいけない」というとらえ方、イコール「自律」なのです。

倉重:一人ひとりが自律した人間の集団であるということですね。

小杉:はい。ですからまず自分に対してリーダーシップを発揮しないといけません。自律していない人が、人に対してリーダーシップを発揮できるはずがないですから。

倉重:言われたことだけしかやらないのは結果的に損していると思いますね。

小杉:先日ある会社の入社10年目ぐらいの社員研修がありました。みんながディスカッションしているのをブレイクアウトルームで聞いていたのです。「上が詰まっているし、上の人間がいる限り自分の年次でグレードは上がらないし、給料も増えないのでやる気がしない」と言っていました。それはさびしくないですか。

倉重:こういう話はよく聞きます。

小杉:「働く目的は給料をもらうことだけですか?」「あなたのモチベーションは昇給昇格することだけですか?」ということです。とても残念に思いました。社風もありますし、上司も良くないと思うのですが、やはり先ほどの「起業家のように企業で働く」とは対極の考え方です。

倉重:そういう人に対して小杉さんはどのように導いていくのですか。

小杉:まず問います。「あなたは給料のためだけに働いているのですか?」「働く目的は何ですか?」「なぜ今の会社に入ったのですか?」「給料が上がらないこと、ボーナスが増えないことはしないのですか?」という質問です。

先ほどの話に戻りますが、自分がやるべきことは最低限やらなければいけません。でも、やらなくてもいい領域であれば好きにできますよね。残業規制で、そして今は在宅勤務で働く時間も短くなっています。その時間で、やらなくてもいいことをやってみたらどうですか? 労働時間の10%でもいいから仕掛けをしてみるのです。自分が経営者になったら、上司になったらこういうふうにしたいと思うことを、「今はできない」と決めつけずに、やってみてください。自分一人でやるのが難しければ、共感してくれる人と一緒に始めるのです。

倉重:ほんの10%の時間でもいいから、新しいことをするという感じですね。

小杉:そうなのです。その時間はかつての労働時間と比べたら楽勝で作れるはずです。その積み重ねはとても大きな違いになります。これは社内に限ったことではなくて、もし副業が認められるのであれば副業でも構いません。NPOでもいいですし、何でもいいので、パラレルキャリアとしてやればいいのです。そこでやる気がしないと言っている人は、「成長の機会を逃してもったいないな」と思います。

倉重:そういう人には大きな仕事はこないだろうと思いますし、何より面白くないですよね。もったいないと思います。自分で働く楽しさや、目的を達成する熱い思いを持っている人が増えたらいいと思っています。

小杉:本当にそう思います。

■若い世代へ向けてのメッセージ

倉重:これから働く若い人に向けて、今の不安な時代だからこそのアドバイスをお願いします。

小杉:まず、言われたこと、やるべきことをできるようになることです。3年もすればどんな仕事でもだいたい慣れます。そこから手を抜くかどうかなのです。『職業としてのプロ経営者』という本にも書いているのですが、40代半ばでプロ経営者となっている人たちをインタビューすると、20代の過ごし方は共通しています。20代で仕事に慣れた後、流さないことです。20代半ばになってさらに自分のハードルを上げています。

成長曲線を上方修正するので、自分で仕掛けたりプロジェクトを提案したり、社内でそれ得られないのであれば留学したりコンサルに行ったりすることによって、自分の成長スピードを早めることをしています。

倉重:ストレッチをかけているのですね。

小杉:そうなのです。そこが明らかに違います。

倉重:それは誰かに言われることではなくて自分でそうするのですね。

小杉:そういう意識を持っている人たちは、例えば今なら、仕事をしながらオンラインでMBAを取得したり、ネットワークを作って発信したり、ネットビジネスを起業していたり、何か挑戦しているのです。

倉重:今だってコロナが収まるのを待たなくても、できることはありますからね。世界中の大学院にオンラインで入れたりするわけですから。

小杉:ですから先ほどの「ラッキーに備える」という話にもつながるのですが、自分の市場価値を上げたり、エンプロイアビリティ(雇用能力)を高めたりすることを意識するのです。目の前の仕事の上司の評価だけを見ているだけではヤバいと思います。自分の今の会社がどうなるか分からないのですから。かつて電気通信メーカーにいたわれわれが痛いほど分かっている話です。

倉重:いつの間にか外資系になる会社もあります。

小杉:事業ごと売却されてしまって、アメリカや中国、台湾の会社になってしまった,ファンドの傘下に入ったという例はいくらでもあります。その中で果たしてあなたの市場価値やあなたのエンプロイアビリティが保たれるでしょうか? という話です。

倉重:やはり組織の中にいるとなかなか気づきませんよね。

小杉:ただ、働いていると気づかないので、ネットワークを社外に持つことを意識すると良いと思います。外部視点を持ったり、自分の市場価値を意識したりするため、転職するつもりはなくても人材紹介会社の話を聞きに行ったほうがいいですね。

倉重:「いつでも辞めてやる」という気持ちさえあれば何も怖くないですね。

小杉:そうです。会社を利用し尽くしてから辞めてもいいわけです。

倉重:「辞める前に散々やることはやったか」ということですね。

小杉:ええ、引っかき回していいのです。企業研修をしていると、受講生から「実は辞めようと思っています」という相談を休み時間に受けたりします。「最後の権利としてこの研修を受講しました」などと言うわけです。ところが、自律の話やキャリアの考え方の話をしていると、大体の人は研修が終わるときには、スッキリした顔で「辞めるのを止めました!」と言ってきます。

倉重:(笑)まだやり切っていないということですか。

小杉:自律さえすれば、今の環境でやれることがたくさんあって、「今辞めるなんてもったいない」と気付くのです。今のまま転職しても何も成し遂げていない人が動くだけですが、「会社でこういうプロジェクトを立ち上げた」とか、「ここまで何かをやり切ったと」いうことがあると、その人の市場価値が俄然上がります。

倉重:どうせ辞めるのであれば、失敗してもいいので、何か思い切ってやればいいですね。

小杉:最悪辞めればいいわけですから、今辞める選択肢はないでしょうという話です。

倉重:やり切ったと思えるかどうかですね。

小杉:会社としても、結果的に何年か後に辞められてもいいのです。なぜならその間に自律的に動いた人は周りを巻き込んでいるので、ほかの人にすごく刺激を与えています。

倉重:確かにいい影響を与えています。

小杉:ですからその間にずいぶん会社に貢献できています。そういう人は結果的に辞めた後も会社と同じコミュニティにいて、パートナーシップを組んで一緒に仕事をしたりしているのです。

倉重:よくありますね。最近では、辞めた後に業務委託を継続するということもあります。

小杉:かつてのように、会社を辞めた人は敵、ではないのです。

倉重:タニタさんや電通さんも、社員をフリーランス化するという動きがありました。「労働時間規制を免れるためではないか」という意見がTwitterなどでありましたが、希望する人しかそもそもなりませんから。

小杉:やりたい人がやればいいだけの話で、会社が強制するわけではありません。

倉重:そういう起業家精神を持って組織で働く人も増えてほしいし、起業する人も増えたら日本はもっと強くなる感じがしますね。

小杉:そうですね。少しずつそういう人が経営層に上がって行っています。あるいは社外経験もなく、保守本流でそのまま上がって行って社長になるのはむしろダメだというふうになってきていると思います。

倉重:そうですね。「一度辞めたやつは裏切り者だ!許せない!」」という社長ではそんな関係はできませんから。

小杉:出戻りや、あるいは資本関係のない会社に出向させたり、社員をレンタルしたりというような人材育成もするようになっています。

倉重:世の中としては全体的に自律した人が増えるといいと思いますね。

(つづく)

対談協力:小杉 俊哉(こすぎ としや)

合同会社THS経営組織研究所 代表社員

慶應義塾大学大学院理工学研究科 訪問教授

早稲田大学法学部卒業後、日本電気株式会社(NEC)入社。自費でマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長兼米アップル社人事担当ディレクターを経て独立。

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授などを経て、合同会社THS経営組織研究所を設立。元立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授。元慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授

ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行、エスペックなどの社外取締役を務める。長年、ベンチャー支援や、公立小中高校教諭教育、国家・地方公務員教育も行っている。専門は、人事、組織、キャリア、リーダーシップ開発。

組織が活性化し、個人が元気によりよく生きるために、組織と個人の両面から支援している。2006年から13年半の間、学生からの要請で単位にならない自主ゼミを開催し続け、奇跡のゼミと呼ばれる。2020年から社会人個人向けのオンラインサロン「大人の小杉ゼミ」も主催。

著書に『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『職業としてのプロ経営者』(同)、『リーダーシップ3.0』(祥伝社)など多数。