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テレワークのマネジメント課題を解決する方法【皆川恵美×倉重公太朗】第1回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは皆川恵美さん。東京大学経済学部卒業後、2002年株式会社リクルート入社し、「リクナビ」「じゃらん」の商品企画を担当。その後、株式会社セルム・PMIコンサルティング株式会社にて管理職育成、組織開発コンサルティングに携わった後、独立。株式会社ミナイー代表取締役として、大手企業から中堅、中小のオーナー系企業の人事制度構築、管理職研修の企画・ファシリテーション、組織活性化のコンサルティング等を提供する中で問題意識が芽生え同社を廃業。2018年株式会社KAKEAIを共同創業。同社は日本企業で初めて世界のHR techスタートアップ30社に選出されました。皆川さんが関わっている「カケアイ」のサービスは、「上司と部下の関わり方の質」を、テクノロジーの力で向上させるものです。その内容について詳しく伺いました。

<ポイント>

・上司次第で生産性2割・業績5割・エンゲージメント3割の変動がある

・上司と部下のコミュニケーションのズレを防ぐには?

・コミュニケーションを見える化すれば、第三者を巻き込むことができる

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■コミュニケーションの質を維持するサポートツール「カケアイ」とは?

倉重:それでは、倉重公太朗の「これからの『働き方』を考えよう」という対談コーナーです。今日は株式会社KAKEAIの共同創業者、皆川恵美さんにお越しいただいています。まずは簡単に会社とご自身の紹介をお願いいたします。

皆川:株式会社KAKEAIの共同創業・取締役の皆川です。KAKEAIは、働く現場の「上司と部下の関わり方の質」を、テクノロジーを用いて解決しようとしている会社です。上司次第で生産性2割・業績5割・エンゲージメント3割の変動があると言われています。上司と部下の関わり方がより良くなれば、個人も組織も成果を出しやすくなります。そこのテーマをテクノロジーを使って解決しようとしている会社です。最近はテレワークが定着した中で、出社したときに当たり前だったコミュニケーションの質を維持していくためのサポートツールとしても関心を寄せていただいています。

倉重:どのようなサービスかは後でお伺いするとして、まず自己紹介をお願いします。

皆川:私は大学の卒論に「労働市場の最適化」をテーマに選んだくらい、「企業で働く個人がどうしたらハッピーになれるのか」「組織が成果を出すにはどのようにチームを作れば良いのか」ということに関心がありました。その興味は今のKAKEAIにも通じています。

大学卒業後は、新卒で株式会社リクルートに入社し、就職情報サイト「リクナビ」や宿・ホテル予約サイトの「じゃらん」の商品企画を担当させていただきました。日々楽しく仕事をしていたのですが、4年ほどで企業向けに研修をカスタマイズして提供するセルムという会社に転職。研修をするからには、何かしら組織的な問題や課題があるものです。その解決により直接的に関わりたいとの想いから、1年半ほど組織開発やマーケティング領域のコンサルティングファームに転職しました。

倉重:皆川さんと初めてお会いしたのは恐らくその頃ですかね。

皆川:20代に3社で働いて、その後独立しているのですが、倉重先生にお会いしたのは独立後ですね。

倉重:そうですか。もう少し後ですね。どうして独立なさったのですか?

皆川:コンサルタントとしてさまざまな業種の企業と接点を持たせていただいている中で、次第に「社会を自分なりの視点で見てみたい」と思うようになり、29歳のときに独立しました。株式会社ミナイーという会社を設立して、研修や組織開発のコンサルティング、デジタルマーケティングなど、これまでの自分の経験を生かして、さまざまなチャンスをいただきました。管理職向けの研修を企画して、ファシリテーターもしていたので、労働法に興味を持ち、倉重先生の労働法実践塾にも参加いたしました。

倉重:最初は私の労働法セミナーでお会いする関係でしたね。

皆川:そうです。社会保険労務士の先生が多く参加されている塾なので、倉重先生に「資格を持っていなくても良いですか?」と伺ったら「全く問題ないよ!」と即答してくれたので、安心して参加できました。

倉重:同じ年生まれなので、同級生です。「昭和55年会」などをしていましたけれど。そういうメンバーからベンチャーで世に出ていく人が出くるのがすごくうれしいと思っています。今されているのは、人事領域の問題をテクノロジーで解決していくサービスの提供ですよね。先ほど、上司と部下の関係性といった話がありましたけれども、これに関するHRテクノロジー大賞で、今年受賞されたんですよね。

皆川:はい。経済産業省、産業技術総合研究所などが後援の「HRテクノロジー大賞」でイノベーション賞をいただきました。HRの組織や人の課題をテクノロジーで解決するサービスを提供している企業としては、一番良い賞です。

■「カケアイ」によってコミュニケーションのズレが可視化される

倉重:ここ数年、HRテクノロジーとしていろいろなサービスが出てきている中で、まさにイノベーションを起こすものではないかと専門家の方々から評価されました。そもそもどのようなサービスなのか、説明をお願いします。

皆川:「カケアイ」は上司と部下の関わり方の質を高めるサービスで、1対1の対話をスムーズに進めることをサポートします。最近は、テレワークをされている方もたくさんいますよね。これまでは一緒の場所にいて、同じデスクを囲んで仕事をすることで、なんとなく空気を掴めていました。今は対話のきっかけが掴みにくくなっています。「テレワークで難易度が上がったマネジメントを支援・強化したい」という企業にもご利用いただいています。また、最近は集合型・対面での研修がしにくい環境でもあるので、「人材育成や研修をデジタル化したい」というご要望も増えてきました。

テレワークも一般化して、「業務を進める」という意味では問題が無くなってきています。今の仕事を個人の成長につなげていくことや、チームとしてより成果を出していくために、上司と部下の1対1の対話を起点に、関わり方の質を高めていくことがますます重要になっていくと思います。

倉重:会社に来ていたら、自然と聞こえていたこと、見えていたことがなくなりましたよね。

皆川:様子が掴みにくい状況だからこそ、1on1などの1対1の対話の質を上げていくことが必要です。「カケアイ」を使うと、メンバーは上司と面談を行う前に、相談内容と共に「話を聞いてほしい」「アドバイスがほしい」「意見が聞きたい」など、望んでいる対応を選ぶことができます。上司側は、面談で部下が何を求めているかを理解することで、面談がスムーズに進めることができるのです。

面談後は、メンバーが「すっきり度」を5段階評価でフィードバックします。このフィードバックの蓄積によって上司は部下から相談される内容や求められている対応ごとに、自分自身の「得意・不得意」を把握できます。上司はズレが大きくなる前に部下への関わり方を改善することできるのです。

倉重:ただメンバーと管理者が話をするだけではなくて、メンバー側の心理の変化なども追っているのですよね。

皆川:そうです。上司側には、「マネジメントに関わっていてもなかなか手応えを感じられない」というやりにくさがあります。また、上司側が良かれと思ってやっていたことが、そのメンバーにとってはズレた言動になっていることもあるわけです。さまざまな価値観や働き方に対する考え方がありますし、多様なキャリアを描いているメンバーにとっては、必ずしも今の上司の対応がフィットしないことも構造的に生じえます。「カケアイ」は、上司側の経験値を超えたサポートをする仕掛けとして、他のマネジャーのtipsやナレッジを参考にすることができるのです。

倉重:それは部下の心理状態などに応じて、他のマネージャーが実践している適切なtipsが出てくるということですか?

皆川:そうです。

倉重:それはすごいですね。

皆川:例えば「キャリアについて一緒に考えてほしい」という要望があったとします。よくあるケースだと、上司側がその部下に対する期待を一方的に話してしまいがちです。そんな時に、自社だけではなく世界のマネジャーがどんなことに気をつけて対応しているかがわかれば参考になりますよね。一般的に1 on 1だと、「部下の話を聞きましょう」と上司側は言われることが多いのですが、データを見てみると、意外と「意見を聞きたい」という対応が選ばれていることもあります。

倉重:上司個人のですか。

皆川:はい。今、コロナ禍において先行きが不透明な状況もある中で、「上司であるあなた個人はどのように考えて、どのようなシナリオをイメージしているのか?」ということを聞いてみたいメンバーも多くいます。書面でも情報は展開されていますが、身近で一緒に働いている上司だからこそ、現状をどう受け止めて、何を感じているのかを聞いてみたいと素直に思うというメンバーもいます。

「カケアイ」では上司側は他のマネジャーのtipsや知見のヒントを得られます。さらには、先ほど倉重先生におっしゃっていただいたように、月に1回メンバーがどう感じているかというフィードバックを自ら確認し、自分の行動をチューニングできるのです。このサイクルを回していくことで、組織全体の対話や、関わり方の質を上げていきます。

倉重:「テレワークになって生産性が上がったか?」という議論があると思いますけれども、それは結局、「業務効率が上がっているか?」という文脈での議論が多いようです。一方で、心理面の変化やモチベーション、何を不安がっているのかは、これから明らかになっていく段階だと思います。

その意味で、このサービスが、働く人の心に着目したことはすごく面白いと思います。上司からしたら、ズレた言動が可視化されるということですよね。

皆川:おっしゃるとおりです。よくある話ですけれども、上司側は「自分はすごく話を聞いている」と思っていても、実は70%くらいは話をしてしまっていることもあります。一般的には、上司側は30%くらいに話を留めて初めて、相手は「聞いてもらった」という感覚が持てると言われています。聞いているつもりでも、実際は意見を言ってしまっていることもあるのです。部下への対応の得意・不得意や、メンバーが「すっきり」して前に進めているかどうかを確認できるので、「次はこのようにやってみよう」と上司側が考えやすくなり、メンバーにとっては関わりの質が上がっていくようになっていきます。

倉重:せっかく1 on 1をしようといっても、ダメ出しばかりするケースもあるし、逆によかれと思って全部話を聞いていたら、「何も道を示してくれない」と思う人もいますからね。

皆川:おっしゃるとおりです。上司側も何か意図があったのかもしれませんが、年齢や価値観、状況への認識の違いで、部下の期待とズレることになりがちですよね。特に最近は、年上の部下をマネジメントしている方もいますので、自分一人の経験だけではどうしようもならない面もあると思います。

倉重:そうですね。これまでマネンジメントは「勘と経験」という感覚部分で行っていたと思います。得意な人は得意ですが、そうでない人もいます。リアルで得意だったとしても、オンラインでできるかはまた別ですよね。

皆川:そうですよね。これまでは会議の合間の移動時間など、ちょっとしたタイミングでの会話がありましたが、物理的に消滅しました。テレワークでは、上司側もある種のセンサーを働かせにくくなっています。だからこそ、データを取りながら、マネジャーのほうも感度と対応力を上げていく必要があるのです。メンバーも「カケアイ」を使うことによって、上司の関係が良くなります。それを積み重ねていくことで、どんどん前進していってほしいです。それがサービスとして実現したいことです。

倉重:コロナ時代に非常に合っていますよね。皆川さんは、こういうHRテクノロジーのサービスは元からやろうと思っていたのですか?

皆川:最初からHRテクノロジーに取り組もうというスタンスではありませんでした。文脈としては2000年台の初めにインターネットメディアに関わっていたので、インターネットとテクノロジーへの関心は高かったとは思います。その後は、研修やコンサルティングという、完全に人がサービスを提供するというやり方を続けてきたのですが、そこにある種の限界を感じたのです。人・組織の領域でもテクノロジーを活用することで、「もっとできることがあるのではないか」と考えるようになりました。

倉重:研修だと1回やって終わりですから、表面的になりがちです。

皆川:そうですね。研修では原理原則を学びます。代表的なケースは取り扱えるのですが、受講者の日々の現実に対しては、個別具体には触れるのが難しいものです。

倉重:一般論で終わってしまいますから。

皆川:クラウドサービスであれば、管理職とそのメンバーも巻き込んで、日常的に、現場の実態を進化させられます。それが研修との大きな違いだと感じています。

倉重:研修でコンサルもしている中で、ある種の限界を感じる部分があって、それを解決する方法を考えたということですか。

皆川:そうです。

倉重:そのようなベンチャーにジョインできたというのは、ちょうどいいタイミングで、いい出会いがあったのですね。

皆川:そうですね。「上司と部下の切り口から組織を良くしていく」というところで、代表とCTOのエンジニアが集まって創業しました。

倉重:今、社内的には何人ぐらいですか。

皆川:今は20名ほどで事業を進めています。

倉重:利用している企業はどのぐらいあるのですか。

皆川:ご利用企業は40社ほどになります。

倉重:サービス開始はいつでしたか。

皆川:β版としては、2019年の2月からスタートとしていますが、サービス開始は2019年の10月です。

倉重:では、ちょうど1周年記念対談ということですね。ここからバンッと大きくなっていくタイミングだと思います。実際どうですか? 使っている企業さんから、「こういうところが良かった」「こういう事例を解決できた」あるいは「未然にトラブルを防げた」という声は来ていますか。

皆川:上司の方から「楽になっている」「シンプルだが、抑えるべきポイントを抑えられている」という声をいただいていたりします。

倉重:楽になるのですか。

皆川:マネンジメントはこれまで手探りの部分が大きかったと思います。「カケアイ」を使うと、メンバーが何を求めているかが分かるし、フィードバックがあるので、「次はこうしよう!」と取り組んでいけます。

倉重:フィードバックは部下本人からあるのですか。

皆川:はい、部下本人から1on1などでの対応のフィードバックがあります。システム的にはどの部下がどう回答したかは上司側には分からないようにするなどの工夫をしています。上司側の対応が自分にとって役に立ったか、効果的だったかという意味でのフィードバックです。

倉重:探りながらするわけでも、一律の対応をするわけでもなくて、「この人はこう」といった感じで個別化できるのですね。

皆川:そうです。「メンバー個々人の違いに合わせて対応することが重要だ」と分かっていても、実際の場面でどうすればいいのか迷うことがあります。それぞれの部下がどういう対応を求めているのか、どういうテーマで話したいのかがきちんと把握できれば、対応も変わってきます。また、「カケアイ」にはセルフアセスメントという機能があってそれぞれの特性の違いが可視化されます。客観的にお互いを把握して、相互理解を深めていくサポートにもなっています。

倉重:確かに、「おい、お前、どのように指導してほしいのか言ってみろ。」などと聞いたって、まともに答えられるわけがありませんからね(笑)。

皆川:そうですね(笑い。

もう一つ別の視点でいくと、そういう上司と部下の関係には第三者が立ち入りにくい部分がありました。上司側が対応に迷った時に、他のマネジャーがしている工夫を知ることができれば、参考になりますよね。これまでは、部下の対応のナレッジは属人化していて、なかなか企業の組織でも流通していませんでした。

倉重:確かにそうですね。

皆川:上司側が真剣にやっていても、100点満点はなかなかありません。逆にいうと、より良くしていく余地はいくらでもあります。他のマネジャーの取り組みが見えると、上司側も工夫がしやすくなるのです。また、データを見ながら、「課長と部長がこの部下の成長のためにこう関わったら良い」という話し合いもしやすくなりますね。

倉重:見える化すれば、第三者を巻き込むこともできるということですね。

(つづく)

対談協力:皆川 恵美(みながわ えみ)

株式会社KAKEAI 共同創業・取締役

東京大学卒業後、2002年(株)リクルート入社。(株)セルム・PMIコンサルティング(株)にて管理職育成、組織開発コンサルティングに従事した後、独立し2010年より株式会社ミナイー代表取締役社長。同社を廃業し2018年4月 KAKEAIを共同創業。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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