Yahoo!ニュース

ニューノーマルの第一人者に聞く、適者生存の技術【豊田圭一×倉重公太朗】最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

世界経済フォーラム(WEF)は、次回の年次総会(ダボス会議)のテーマを「グレート・リセット」にすると発表しました。新型コロナウイルスの危機で経済や社会のひずみがあらわになる中、世界は新しい時代の構築に向けて動き出しています。目まぐるしい環境の変化、あらゆるものが複雑に絡まり合った状態、そして将来の予測がつきにくい現代において、大事なことは何でしょうか。豊田圭一さんに生き残るためのヒントを伺いました。

<ポイント>

・クリエイティビティは移動距離に比例する

・創造性は訓練によって身につけられる

・人を巻き込めないと組織として変革できない

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■適応力と創造性はどのように鍛えればいいのか

倉重:次は「適応力と創造性」です。

豊田:ここが多分一番大切です。今回の適者生存という言葉もそうですが、適応できなかったら意味がありません。それは本当にしなやかな強さとも連動してきますが、いかに受け入れられるかということが重要です。適応するだけでは発展につながらないので、「適応した上で、新しいことをどうクリエイトできるか」という創造性もすごく必要になります。

倉重:どうやって鍛えたらいいのでしょうか。どんどん打席に立てという話ですか?

豊田:試行錯誤の連続に尽きるかなと思います。

倉重:現状に満足せずにいろいろと考えてやってみるということですね。

豊田:本当にそれだと思います。創造性は訓練で身につくこともあるわけです。「どうすればいいか」を常に考え続ければいいだけですから。how toを教わってばかりだとできませんが、「このためにはどうすればいいのだろう」と考える努力をするのです。研修をしていると感じるのですが、やはり仕事を嫌々やらされてきた人よりも、お客さまのことを考えて提案してきた人のほうが、クリエイティビティが発揮されます。それはもう完全に訓練です。

倉重:そうですね。言われたことだけをやっている仕事とは、全然違いますよね。

豊田:クリエイティビティは移動距離に比例するという言葉もありますが、いろいろな回り道、寄り道をすることもやはり創造性に寄与すると僕は思います。

倉重:では、コロナの今は、やはり意識していろいろな人会ったほうがいいのですね。知らない人に会うことを心掛けないと、本当に名刺交換をする機会が減っていると思います。私も新しい人とつながることは積極的に行おうとしています。

豊田:すごくいいと思います。読書もその一つです。読書はやはり筆者のその時の全力が入っています。たった1,000円や1,500円でその人の魂のようなものが全部読めるわけです。つまらなかったら途中でやめてもいでので、乱読することがクリエイティビティにつながってくると僕は思っています。

倉重:自分の偏った情報以外もいろいろ入れてみるということですね。

豊田:そうです。僕は世の中にゼロイチはないと思っています。ゼロイチではなくて、組み合わせるのであれば、いろいろなものを知っていなければいけないですよね。

倉重:本当ですね。点と点が全く関係ないものだったりしますから。

豊田:そうです。誰かを知っていたり、本を読んでいたり、まさに点がたくさんあることが重要だと思っています。

倉重:そういう意味ではアマゾンサジェストだけではなくて、たまにはリアル本屋に行っていつも買わないようなジャンルの本も買うということですね。

豊田:そういうことですよね。結局その寄り道がなくなってしまいました。僕はどちらかというとビジネス書は読みません。ビジネス書は多かれ少なかれドラッカーなどの言葉を自分なりに言っているだけという感じがするので。それよりも直木賞作家の本を読むなどの寄り道をすることがアリだと思っています。

倉重:いいですね。本を読むことは誰にだってできますから、今まで手に取らなかったジャンルも読んでみるといいかもしれません。

豊田:僕が5年ぶりに5冊も本を出すというのは、僕がすごいのではなく、そこに需要があるからです。

倉重:確かに、みんなが不安になっていますから、羅針盤が欲しいと思いますよね。

■オープンマインドで弱みをさらけ出す

倉重:最後が「巻き込む人間関係力」です。

豊田:当たり前ですが、人は一人で生きているわけではありません。人は強みもあれば弱みもあります。チームとして事を成そうと思ったら、当然強みを出さなければいけません。「自分は弱いところがある」という前提を持った上で強みを発揮するのです。相手のこともよく知った上で、強みを引き出す。弱いところは補いあっていく。それを分かった上でみんなを巻き込んでいくことが必要なのかなと思います。それが研究結果として出た答えです。

倉重:自己認識力が大事とお書きになっていましたが、やはり自分の強み弱みを理解するということですか。

豊田:リーダーシップの世界でも、アウェアネスという言葉がよく出てきます。特にセルフアウェアネス、自己認識力というのが出てきますが、そこが一番重要な要素ではないでしょうか。

例えば倉重さんも、子どもに「なんでこれはこうなの?」と聞かれたら、「これはね・・・」って答えたくなりますよね。だけど、親だからってすべてのことを知っているわけではありません。会社でも同じことが起こります。20代の部下が「すみません、部長これは何ですか?」と聞いたとき、50代の上司は「それはこういうことだ」と答えたがります。なぜなら、今までヒエラルキーの中でやってきて、年上の人は年下の人にものを教えなければいけないと思っているからです。

でも同じチームでやっている人が、「いや、部長違うんだけどな。でも言っても聞かないしな」というような感じになったら、チームがバラバラになりますよね。人間関係力で一番重要なのは、自分の強みと弱みを知ることだけではありません。次にあるのはオープンマインドで弱みをきちんとさらけ出すことです。

倉重:そのためにはまず部長がさらけ出さないといけないですね。

豊田:そうです。人を巻き込めないと組織として変革していけません。

倉重:自己開示をして、「自分はこういうのが苦手だからここは頼むよ」と言えるかどうか。どっちが偉いではなく、役割の違いだということですね。

豊田:だから、一番強いのは人たらしなのです。「ごめーん、これお願い」っていう。俺は「ごめーん」「ありがとう」と言ってばかりです。

倉重:奥さまともけんかしないと言っていましたよね。

豊田:はい。いつも「ごめーん」って言っています。

倉重:最強戦士ですね。

■冒険しない者は何も得ることはできない

倉重:コロナの時代では、強い者ではなくて適者が生存すると思います。これからまさに社会に出ようとしている人や、今年就職した人など若い世代に向けてのアドバイスはありますか。

豊田:先ほど「思考を止めるな」「行動を止めるな」と言いましたが、本の最後に今回書いたのは、nothing ventured, nothing gainedという言葉です。これは、僕が好きな起業家で、リチャード・ブランソンというヴァージンの創設者の自叙伝に書かれていて、「うわっ、かっこいいな」と思いました。要は、「冒険しない者は何も得ることはできない」ということです。彼は本当にいろいろなビジネスにチャレンジして、試行錯誤してヴァージン・グループをつくり上げた男ですから。僕はその言葉がすごく好きです。

この変化の時代、何が起こるか分からない不安な時代になんとか生き残ろうと思ったら、試行錯誤し続けるしかありません。これを何歳の人に伝えるかにもよりますが、20代の人は今から試行錯誤していけば、かなり点が増えていきます。30歳、40歳、50歳で全ての点が結び付いたらもう最強です。

倉重:むしろ、今までの優位性はかなりゼロリセットされるので、チャンスではないかとも思います。「チャンスはピンチの顔をしてやって来る」という言葉もありますね。

豊田:ついこの間決まった、来年のダボス会議のテーマは「グレート・リセット」です。世界は大いなるリセットの時期に来ました。もう本当に価値観が変わったという前提に立つと、「年が上だから」という優位性はなくなってきます。何歳になったってチャレンジしている人が結局勝つのです。勝ち負けではないかもしれないですが。

倉重:最後に紹介していただきたいのですが、次に出る本は『会社がつぶれても生き残る!アフターコロナ33の仕事術』ですよね。

豊田:これは、今言ったような話を、11年前に書いたものです。

倉重:すごいですね、これを預言していたのですか。

豊田:組織ではなくて、あくまでビジネス自己啓発書なので個人に向けて書いたのですが。今話したように「寄り道をしてとにかくいろいろなことをしろ」「行動を止めるな」ということを書いています。

倉重:あとは何か付け足すことはありますか?

豊田:「すぐやる」「ネタを作る」ということを、これでもかと書いています。もうとにかくできることは何でもしようということを書きました。いろいろなことをすれば失敗もするけれども、ストレス耐性が高まっていきます。なぜなら、「あの時はここまでやってうまくいった」「あの時はここまでやって失敗した」という経験則があるからです。それがないからみんなガラスのハートのままなのです。人は経験から成長すると思っているので、とにかくあらゆることで経験値を高めていく。人生に無駄はないということを書きました。

本当にくだらないのですが、当時の僕は自分のためになると思って、マジック教室にも通っていたのです。「異性のブレーンをつくる」というのは先ほどの移動距離と一緒で、自分と違うアイデアを取り入れるということです。当時は「女の子と遊ぼう」というような形で少しふざけていたのかもしれないけれど、あながち間違っていないのではないかなと思います。

この中でもう一つ紹介すると、「短期留学をしてみる」という項目です。1年単位の留学とは違い、短期留学は1週間などの単位で行けます。「欧米人たちは何度もバックトゥカレッジで大学に戻っているから、そういうことをしたほうがいい」と書きました。その後、僕はスペインの大学に短期留学したのです。11年前に自分が書いたことを後に自分で実践しました。

倉重:素晴らしいです。毎回恒例の質問ですが、豊田さんの夢は何ですか? 

改めてこのコロナの時代にもう一度伺いたいと思います。

豊田:僕はでも今夢の中を生きています。「夢の中」と言ったら少し格好つけ過ぎな気もしますが、「10年後や20年後にこうなりたい」ではなくて、今まさに、過去から見たら何でもチャレンジできる自分がいます。だから、本当に夢の中なのではないかなと思ってしまうぐらいです。

「これから先に夢がある」というよりも、今目の前のことを、一生懸命取り組んでいることこそが、夢の中のような感じがしています。そういう意味では、夢は何かと聞かれるのが一番難しいというか、答えられないです。

倉重:さすが、前回の回答と全く同じです。

豊田:本当ですか。

倉重:本当にそう思ってるんだなと思いました。ありがとうございます。

■視聴者からの質問コーナー

倉重:質問回答コーナーということで、頂いた質問を読んでいきたいと思います。

「『自分はただの動物だと思えばいい』とおっしゃっていましたが、私は自分なんて大したことないという気持ちと、いや、もしかして自分はすごいのではないかという気持ちが両方あるみたいです。行ったり来たりしませんか、スーパースターさん」ということです。

豊田:行ったり来たりはします。心の中では「俺はロックスターだ!」っていつも思っています。でも、ロックスターだって言っている自分を斜め後ろから見て、「でもお前違うじゃん」とツッコミを入れる自分もいて、行ったり来たりしています。

倉重:いろいろな自分を持って俯瞰するということですか。

豊田:卑屈にはなっているつもりはありませんが、小さなプライドは持っていないつもりです。

倉重:確かに卑屈になってはいけません。でも、やはり相手に弱いところを見せることも大事ですね。

豊田:そうですね、それはすごく大切だと思っています。もしかしたら「そうやって見せたほうが得だ」と思っているのかもしれないですけど。

倉重:計算高い男ですね。

豊田:いやらしい男です(笑)。

倉重:もう一つ質問を頂いています。「テレワークで集中を保つコツはありますか、マインドフルネスも一つとは思いますが」ということです。マインドフルネス以外ということでしょうね。

豊田:「集中力を保とう」と思わないことではないでしょうか。

倉重:では、豊田さんは集中できないときはどうするのですか?

豊田:シエスタです。

倉重:昼寝するのですね。

豊田:僕がたばこをやめられたのはその考え方のおかげだと思っています。禁煙しても、また吸いたくなりますよね。飲み会で友達がいたら「ちょっと1本もらってもいい?」というような感じで吸ってしまいます。今は全然吸っていませんが、「吸いたくなったら吸ってもいいや」と思っているのです。だから、「集中力を保たなきゃ」「たばこは体に悪いからやめなきゃ」などとは思っていません。集中力が切れたら、「切れちゃったんだもん」と言って、10分でもいいから横になったり、休憩したりすればいいのです。集中力を無理に保とうとする必要はありません。

倉重:それも、しなやかな心のありようですね。

豊田:そうかなと思います。マインドフルネスも義務になってしまったら楽しくないです。

倉重:そうですね。「マインドフルネスをやらなきゃ」と思い込むのも良くありません。

もう一つ質問を読みます。「ラテンマインドなんてそう簡単に持てないと思いますが、どうしたらいいですか」。

豊田:ラテンマインドですね。これも先ほどの話と共通しています。僕は「自分なんて別に大した人ではない」と思っています。そこはすごく重要で、大きく見せる必要がないのです。どうしようもないことをクヨクヨしても仕方ありません。

公太朗は知っているかもしれないけれども、最初にJ-WAVEのナビゲーターに応募したときに、「話に深みがない」と言われて落とされたんです。「俺の話に深みを求めちゃいけない」って自分で思いました。だって深い人ではないですから。そういうふうに、もう駄目な自分を認めているのです。そこに対するプライドはないので、何を言われたって関係ありません。

倉重:でも、豊田さんは最近だんだん深みが出てきましたね。

豊田:あれ? 俺は成長しちゃっているのかな。

倉重:1周して、深みがないのがまた深みだというか(笑)。

豊田:もはやネタです。だって「深みがない俺に深みを求めちゃいけないもんね」と言ったときに、「そうですよねー」ってみんなが笑ってくれるのが結構楽しいです。ラテンマインドをどうやって身に付けるかは分かりません(笑)。

倉重:最後に一つ付け加えて、好きな感じで締めてください。

豊田:言いたいことは、僕はいつも一つだけです。「やりたいときに、やりたいことを、やりたいようにやろう」ということです。英語で言うと live my lifeです。自分の人生を歩もう。他人の物差しで測った幸せや、他人が考える「これが正しい」という枠の中ではなく、自分がやりたいように生きる。人に迷惑をかけるのはもちろん嫌ですが、そうではなくて、自分がいい、幸せだと思えることで生きたいと思っています。

あとは、Facebookで発信するときも、批判や批評やネガティブなことは一切言うのはやめています。それをやっても意味がないからです。自己満のようなことはやりません。

倉重:投稿内容は、いつもすごくポジティブですもんね。

豊田:あとは、行動したことしか発表しません。そういうふうに意識しています。そうしたらポジティブな人に見られますよね?

倉重:計算しているわけですね。

豊田:いろいろな意味でいやらしいからね(笑)。これを読んでいる方があきれているかもしれません。でも関係ないですね、ラテンマインドでいきましょう。

(おわり)

対談協力:豊田圭一(とよだ けいいち)

1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。約17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国で日系企業向けのグローバル人材育成(海外研修)を行なっている。その他、グループ会社を通じて、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営。18年、スペインの大学院 IEで世界最先端と呼ばれる “リーダーシップ” のエグゼクティブ修士号を取得した。最新作「人生を変える単純なスキル」、「ニューノーマル時代の適者生存」、「会社がつぶれても生き残る!アフターコロナ33の仕事術」など著作多数。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

倉重公太朗の最近の記事