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ビジネスに効く、笑わせるための9つの技術【西条みつとし×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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人の悩みの大半は、人間関係が占めているといっても過言ではありません。コミュニケーションが重視される現代社会において、相手の心を開く「笑い」は大きな武器になります。西条みつとしさんによると、「笑いはロジックであり、構造をしっかり把握すれば、誰でも人を笑わせることができるようになる」そうです。コロナ禍で先行き不透明で、大変な時代だからこそ、周囲の笑顔を引き出し、なごませる人は重宝されるに違いありません。

<ポイント>

・自分から先に腹を見せると、相手との距離感が縮まりやすくなる

・「裏切りの笑い」は相手の許容範囲や信頼関係が重要

・西条さんが想像力を磨くためにしている習慣

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■さじ加減が重要な「自虐の笑い」

倉重:次は自虐の笑いのテーマにいきたいと思います。これはどのような類型ですか。

西条:過去の不幸な出来事や、見た目のコンプレックス、今の生活を全部告白して、相手よりも自分を下に見せることによって、笑わせたい相手に優越感を与えて笑わせるという方法です。

倉重:優越感で笑っているのですね。

西条:そうです。どうして優越感が生まれると笑うのかというと、「この人より自分は幸せなのだ」と思ったら安心し、余裕や自信が持てます。すると人は笑顔になります。「自分のほうが下です」「自分はダメな人間です」と見せてあげることで、相手に優越感を与え、笑いになっていくのです。自分から先に腹を見せていくので、相手との距離感が縮まりやすくなります。

倉重:仲良くなる営業テクニックと同じで、自分からきちんと開示するわけですね。でも、自虐の程度を深めれば、笑いが大きくなる可能性もあるけれども、やりすぎると引かれますよね?

西条:そうです。自分を下に見せれば見せるほど、相手には優越感を与えられるけれども、ある程度までいくと、「かわいそう」という心配の感情が生まれます。

倉重:そうなると笑えなくなってしまいますね。

西条:はい。さらに「笑っている自分が悪い人に見えないだろうか」と、自分を守るために笑いをおさえてしまう人もいます。相手によって「かわいそう」と思うラインが違うので、相手の性格から判断し、度を越さないようにしなければいけません。

■やや難易度の高い「裏切りの笑い」

倉重:ちなみに、「自虐の笑い」は自分を落とすということですね。他人の悪口などを言って、第三者をだしにして笑いにするときは、どのパターンになりますか。

西条:それは次の「裏切りの笑い」になります。これは一般人が使うには、共感や自虐の笑いより1~2段階難しくなります。

倉重:少しテクニックが必要ですね。

西条:第三者を使うから他よりも難しいのです。

倉重:1対1の関係ではないということですね。

西条:はい。先ほども言ったように、優越感を与えれば相手が笑ってくれます。自虐の笑いは自分を下げますけれども、第三者を下げることで、笑わせたい相手に優越感を与えるという手法があります。

倉重:それが裏切りの笑いということですね。

西条:そうです。裏切りという言葉をどういう意味で使っているかというと、笑わせたい相手の予想を裏切るという意味で、この本では表現しています。

倉重:典型的なのは、例えばドッキリで、落とし穴に落とすことですか。

西条:はい。「ここは安全だから歩いてみてください」と言って、相手を騙して落とし穴に落とす。信じて歩いていたのに裏切られた人がいて、それを見ている視聴者が優越感を覚え笑う。これは、プロの人が仕掛人だったり、人間関係がきちんと出来上がったりしている場合のみ成立します。

倉重:初めて会った人にしてしまうと、信頼関係が壊れるかもしれませんね。

西条:この間、テレビの現場で、僕を笑わせようとしたディレクターが、ADに「お前、次からクビな。もう仕事来なくていいから」と言ったのです。そしたらADが「ちょっと勘弁してくださいよ」と返していました。これも一応、裏切りの笑いです。でも、僕は笑えませんでした。サービス精神で笑わせようとしてくれているけれども、その2人の関係性が僕には分かりません。もしかしたら本当にクビにしたいかもしれないし、ADが傷ついたかもしれないと思ったので、全然笑えなかったのです。人間関係が出来上がっていない中では、裏切りの笑いは難しいかもしれません。

倉重:信頼関係が必要ということですね。ビジネスでも、チームで長く一緒にいる中ならいいかもしれませんが、相手の許容範囲や信頼関係などをよく考える必要がありますね。

■緊張を利用する「安心の笑い」

倉重:次に4つ目の類型になります。「安心の笑い」は安心感を与えて笑わせるというものですね。

西条:そうです。緊張の中に安心する材料があると、つい人は笑ってしまうということです。

やはり安心すると、ホッとして人は笑顔になるので、そこを利用した笑いです。ただ初対面の人に緊張を与えるのは、簡単ではないかもしれません。

倉重:これもテクニックが要りますね。例えば、上司が怒っている場面などは緊張に当たります。

西条:そうですね。その場合は、上司が怒った後に安心する一言や行動を取ることで、緊張が解け、笑いが生まれるでしょう。

倉重:安心というのは結局、ほっとするという話ですので、リスクは低めということですね。

西条:そうです。笑えなかったとしても、安心して幸せにはなると思います。

倉重:笑いを分類して言語化し、理解しようとしたことはありませんでした。自分で話すときにも少しずつ意識してみようと思います。

■「押すなよ、絶対押すな!」は期待に応える笑い

倉重:5つ目が、「期待に応える笑い」ということです。

西条:この辺からは、ビジネスでは難しいことが多くなってくるかもしれません。「このようなことをしてほしい」という相手の期待に応えてあげることでも、笑いは取れるのです。

倉重:例えば、ダチョウ倶楽部のお約束の「絶対押すな!」という芸などはこの類型ですか。

西条:はい。最初はお客様も期待して見ているわけではありませんが、何度も見ていると、「この流れになったらあれをやるぞ」と期待するので、それに応える事で笑いが取れます。

倉重:パターンのように期待されているものがあると使えるということですね。私は別に芸人ではありませんけれども、自分でセミナーでは裁判所が出した判決などにめちゃくちゃ文句を言って笑いを取るときがあります。こういうことなのかと理解しました。

西条:そうです。期待してくれているところに、きちんと応えるということです。

倉重:有名人でなくても、その人のことを知っているグループなら使えるということですね。「あの笑いは、もしかしたら期待に応える笑いだったのかな」どと、振り返るといいのではないかと思います。

■初心者には難しい「むちゃの笑い」

倉重:6番目は「むちゃの笑い」という類型です。これは、普通ではなかなかできないという笑いですよね。

西条:そうです。むちゃをする、常識を覆すことで笑わせるということです。ただ、これはあまりおすすめしません。別に全体を否定しているわけではありませんけれども、YouTubeなどでは、この手法で笑いを取ろうとする動画がよく上がっています。

倉重:「スクランブル交差点で寝てみた」などの動画ですね。投稿者は捕まりました。

西条:笑いの取り方としては、「むちゃの笑い」という手法をとっています。リスクがあまりにも大きく、むちゃを面白がって欲している人の需要は少ないので、素人にはオススメしません。

倉重:熱々おでんを食べるというような。

西条:今となっては伝統芸なので、期待に応える笑いですけれども、最初にやったときは多分、「そのようなことをしたらやけどしてしまうのに」というむちゃの笑いです。

倉重:少し昔のテレビなどでよくありましたね。でも、これは9つの笑いの中で最も難しいということですか。

西条:危険ですし、リスクも大きいです。

倉重:確かに、「これはやったら信頼関係が壊れるだろう」というレベルもありますし、この辺をコントロールするのはプロでないと難しいですね。

■言動で非日常感を与える「発想の笑い」

倉重:7番目が発想の笑いです。これは言動で非日常感を与えるということですが。

西条:お笑いで言うと、大喜利の答えなどですかね。自分の発言で、相手の頭の中で想像させて笑わせる方法です。

倉重:バカリズムさんは全然予想もしない回答をして面白いし、すごいといつも思いますけれども、こういうセンスはどうやって鍛えるのでしょうか。別にプロになりたいわけではありませんけれども、何か気の利いたことを言えるようになりたいと思うときもあるわけです。

西条:大人になればなるほど、現実の中で生きて、そこで起こる笑いを求めがちですけれども。例えば童貞だった頃、「もしそういう行為をしたらこのようになるのではないか」など、いろいろ妄想していたと思います。それを大人になっても忘れず、「このような世の中になったらいい」「こういうことならとても面白い」ということを常に考える癖をつけると、鍛えられるかもしれません。

倉重:大半の大人は想像力が失われていると思います。西条さんは、日々どのようなことを妄想したり想像したりしますか。

西条:僕は脚本家なので、「目の前で歩いている人が転んで起き上がったら、どんな一言を言ったら意外だろう?」「どんな一言なら怖いだろう?」とか。「もし地球上で一番恥ずかしがり屋さんが転んだとして、それを誰かに見られていたときに、どうやって転んだことをごまかすのだろう」などと考えて楽しんだりしています。

倉重:その発想がすごいです。私もとっさに気の利いたことを言うのは苦手なのですが、日々考えていると、少し気の利いたことが言えるようになるかもしれません。

西条:毎日していると慣れてくるのではないでしょうか。

(つづく)

対談協力:西条みつとし(さいじょう みつとし)

1978年4月12日 千葉県出身 映画監督・ドラマ監督・演出家・脚本家・放送作家

TAIYO MAGIC FILM 主宰

2010年3月14年間の芸人活動を辞め、同年4月より、テレビ番組の放送作家として活動。

2012年5月、劇団太陽マジック(現TAIYO MAGIC FILM)旗揚げ。

映画(監督・脚本)

「HERO」監督・脚本(2020年6月)、「blank13」脚本(2018年2月)、「ゆらり」原作・脚本 (2017年11月)、「関西シジャニーズJr.のお笑いスター誕生!」脚本 (2017年9月)

短編映画(監督・脚本)

「JURI」 監督・脚本

映画・受賞歴

「blank13」シドニー・インディ映画祭 最優秀脚本 受賞、「blank13」ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017 大賞(作品賞) 受賞、「JURI」ええじゃないか とよはし映画祭2019 とよはし未来賞(審査員賞)受賞

ドラマ(監督)

「劇団スフィア」(TOKYO MX・サンテレビ・AT-X)第5話・第6話 監督(2019年10月〜)

「面白南極料理人」(BSテレビ東京・テレビ大阪)第4話・第5話 監督(2019年1月〜)

ドラマ(脚本)

「もやモ屋」(NHK・Eテレ)第2回【おもしろい子はいい子?悪い子?】脚本(2019年10月・11月)

「劇団スフィア」(TOKYO MX・サンテレビ・AT-X)第5話・第6話 脚本(2019年10月〜)

「面白南極料理人」(BSテレヒビ東京・テレヒビ大阪)第1〜5話・第9〜12話 脚本(2019年1月〜)

「ブスだって I LOVO YOU」(テレビ朝日)企画・脚本(2018年12月)

「○○な人の末路」(日本テレビ)全10話 脚本 (2018年4月〜)

「オー・マイ・ジャンプ!」(テレヒビ東京)第3話・第6話 脚本 (2018年1月〜)

「下北沢ダイハード」(テレヒビ東京)第1話 脚本 (2017年7月〜)

ドラマ・受賞歴

「面白南極料理人」 ギャラクシー賞 奨励賞 受賞

著書

「笑わせる技術〜世界は9つの笑いでできている〜」(2020年5月)光文社新書

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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