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スクエニ前社長が語る、変革期の経営・人事戦略【和田洋一×倉重公太朗】最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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ゲームの世界も、ファミコンに代表される据え置き型のテレビゲームから、パソコンを使ったオンラインゲーム、スマホのソーシャルゲームへと変化してきました。和田洋一さんは、これからのゲーム産業は、多様な目的を持ったプレイヤー・ノンプレイヤーが入り乱れる形になっていくと予想しています。ゲーム産業の未来を読み解くと、これからの時代を生き抜くヒントが見つかりました。

<ポイント>

・ポストテレビゲームとはどんなものか?

・文化を現実に合わせてアップデートする

・どのような仕事も、どぶさらいから始めないと身に付かない

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■新たなコンピューターゲームの可能性

倉重:改めて質問します。今、和田さんがゲーム業界の社長でしたら、これからどういう手を打つかを聞いてみたいです。

和田:ここではゲーム産業全般に関してお答えします。冒頭、コンピューターゲームの成長ドライバーはテクノロジーだと言いました。具体的にはPCとインターネットで、この40年はそれらの進化にひたすらついていけばよかったのです。ところが、2015年ぐらいで、この枠組みは終わってしまいました。

倉重:ここからは読めないということですか。

和田:5G、IoT、AI、XR、ブロックチェーン等々、今まで閉じられていたものが繋がってきて、すべてが融合していきます。融合するがゆえに各要素の関係性自体が変化に影響を与えるので、変数が複雑すぎて、予想は容易ではありません。

テレビゲームとは、外形的には、フラットパネルから映像と音声が出力され、コントローラやキーボードを使ってインプットを行うものです。

今後テクノロジーが進み、入力に音声や眼球の動きなどの身体が使われたり、出力もVRやARが使用されたりすると、もはやテレビゲームとは言えなくなると思います。コンピューターゲームが、イコール、テレビゲームではなくなる可能性があるという意味です。

倉重:テレビではないということですね。

和田:では、「ポストテレビゲーム」とは何でしょうか。今はまだ形になっていませんが、それは世の中の次のエンタメになると思います。誰もしていないことを真っ先に始めるのは意味がある事だと思いますし、最初なのでぼろもうけできるかもしれません。

倉重:一番初めに道をつくった人はそうなるでしょう。

和田:今はそちらを後押しすることに力を入れています。目下は、ポストテレビゲームへの過渡期ですが、まずはゲームユーザーが変わっていきます。今までのゲームユーザーはすべてプレーヤーでした。最近はゲーム実況を見るビューワーが出てきています。次に、その人たちがインターネットを介してちょっかいを出すようになっていくでしょう。TikTokで投げ銭をするような楽しさが、ゲームにおいてどのように発展していくかは要注目です。これらの新しいタイプのユーザーを、私はノンプレーヤーと呼んでいますが、ノンプレーヤーをどうやってゲーム産業へ持ってくるか。そこに全力投下すべきだと思います。

倉重:もうゲームという枠組みではないのですね。

和田: 1人で『ドラクエ』のレベル上げをするのも楽しいのですが、別次元のエンタメが立ち上がります。

倉重:世界が本当に違いますね。レベルを99まで上げるのではなく、どういうコミュニティーをつくっていくかという話ですね。

和田:デジタルの世界ではコピーはほぼタダで無限に出来てしまいますから、経済的な稀少価値を待たせにくい。では稀少性があって思い入れのあるものが何かといえば、友達との共通の思い出になるでしょう。この点をどう発展させるかです。インターネットのコンテンツは基本的には非同期で設計されてきました。ところが、最近中国をはじめとしてライブストリーミングが出てきました。同期していますからインタラクティブの可能性が出てきます。そこでポイントは、ライブ感をどうやって出すかですね。

倉重:キーワードはライブですね。

和田:共通の経験がライブです。しかも人間が相手だと予測不能なことが起こりますから、ハプニングを積極的に取り入れるのも面白いと思います。

倉重:それをまたゲームという形にどう落とし込むかがこれからの楽しみですね。

さて、最後に、和田さんご自身の夢を、お伺いしたいと思います。

和田:役に立とうという底流は変わりませんが、「社員として一流になってやろう」という野村証券フェーズと、「ゲーム産業自体を変えて業界を引っ張っていってやろう」というスクエニでの第2のフェーズを経て、今は本当に模索中です。いろいろなものが大きく変わるタイミングですから、変わり目に貢献できるようになりたいです。僕の中では人の働き方の変革もすごく大きなテーマの一つです。

また、デジタルとフィジカルの世界がどう交錯するかについても、ゲームに限らずもう一つのテーマになっています。現時点でまったく接点はありませんが、生命科学にも何かしら関わりたいです。今のところは無計画過ぎてまだ何もありませんが。この3つで何か貢献できればと思っています。

倉重:人が働くという問題意識から、私の『雇用改革のファンファーレ』を読んでいただき、Facebookにご連絡いただいたことが今日のきっかけになっています。

和田:新しい枠組みを一つの会社の中でやることは無理です。かといって行政側が対応するのは相当大変でしょうから、草の根の活動と協働していくのだと思います。

■人事制度は、社員にメッセージを浸透させるツール

倉重:私からは以上です。和田さんに質問してもいいですか。

私と同じく『ロマサガ』をプレーしているツルさんお願いします。

ツル:今日はありがとうございました。真面目な質問をしたいと思います。私は人事コンサルをしています。月並みな質問ですが、規模や業種が違っても、人や組織の共通点として変わらないことは何でしょうか。逆に変えたほうがいいところはどんなところでしょうか。

和田:人事制度の骨格は変わりません。報酬制度、評価制度、等級制度の組み合わせですから、これらは共通です。このブレンドの仕方、運用の特殊性で経営のメッセージを出します。人事制度は、社員にメッセージを浸透させるツールだと捉えています。それを補完するのが研修制度などです。この辺の構造はどのような規模、業種であっても変わりません。

次に、どこにフォーカスするか、どのような扱いをするかは会社の価値観によります。会社の規模ではありません。企業理念よりも、もっとコテコテに染みついているものです。

そういう意味では、古い会社はたいてい文化を持っていますから、文化を現実に合わせてアップデートする作業が必要です。

倉重:新規作成ではなく、あくまでアップデートなのですね。

和田:そうです。また、創業精神についても一言。創業者自身を文化そのものと勘違いしてしまうケースがかなりあります。もちろん創業者のパーソナリティーの企業文化に与える影響は大きいです。しかし、その中のエッセンスが何かを自覚しなければ、ただの勘違いになってしまいます。例えば「朝令暮改も辞さず」とされるのは、変わることに対する価値観があるからこそ有効です。変わることで新しい価値を生み出せる、したがって朝令暮改も致し方なし、これならOKです。

「朝令暮改がいい」と言うだけでは単に無責任男になってしまいます。創業者のパーソナリティーと環境に規定された感情的なものを、きちんと説明してあげなければいけません。歴史のある会社はアップデートする必要があり、若い会社は勢いでしているものを、抽象化や一般化と言うと変ですけれども、蒸留することが必要だと思います。

ツル:分かりました。ありがとうございます。

倉重:ありがとうございます。ラストにコヤマツさん、ご質問ください。

コヤマツ:ありがとうございました。少し気になったのは、20代から経営者目線を持って働いていたとおっしゃっていたことです。具体的にどういう気持ちで働いていたのでしょうか。野村証券は大きい会社ですから、最初に振られる仕事は雑務的なものが多いと思います。そういう仕事をどういうモチベーションでされていたのか、お聞きしたいです。

倉重:26歳の若手からの質問です。

和田:どのような仕事も、どぶさらいから始めないと身につかないと思っています。僕はいろいろな部署を経験したいと思っていました。野村グループならお分かりかと思いますが、実は、野村では部門をまたいだ転勤はあまりありません。

コヤマツ:確かにありません。

和田:私は偶然にもぐるりと回る事が出来ました。どの部署でも異動直後はど素人ですから、最初は全部雑用で、ゼロから始まります。3年でエースになろうと思うと、2年目でスタメンに、1年目には何があってもベンチにまでは入らなければいけません。そのためには、どぶさらいから何から、とにかく全部やる必要があります。それを3年周期で、それぞれの部署でしてきたことが自分自身のトレーニングでした。ただ、それは僕が本当に恵まれていたからできたことです。

後輩たちには、一般論として「30歳まではごみ箱になれ」と言っています。非常に大きなごみ箱です。はたから見ればごみ屋ですが、何でもかんでもいっぱい来ます。とにかく来ます。それを、死ぬことはないから全部受けろと言います。「振ってくるものは玉石混交で、どうせおまえらは分からないのだから全部受けろ。偉そうに選ぶ権利はない。とっととやれ」と話します。とにかく全部です。それを30歳までしたら、仕事の質がなんとなく分かってきます。

30歳までに受けきったら、35歳までは人を選びます。選んだ上司から降ってくるものは、自分には分からなくても何か意味があるだろうと考える。上司がゴミ案件を指示したとしても、彼の中では全体の整合性が取れているはず。ダメな案件でも、この人から盗みたいと思ったら、あえて受ける。そうでない人から降ってきたら適当にかわす。

35歳からは、自分で仕事をつくるか、自分で仕事を選ぶか、どちらかです。

コヤマツ:ありがとうございます。

倉重:和田さんがいろいろな部署をまたいで異動になったのは、ご希望されたのですか。

和田:そうです。僕は最初からそのつもりでしたから、毎回希望を出しました。

倉重:人事がそれを聞いてくれたということですか。

和田:結果的には聞いてくれました。その都度、人事担当が違いますから、なぜ毎回通ったのかは謎です。偶然だったと思います。

倉重:思っていたものとかなり近いキャリアを会社では築けたのではないでしょうか。

和田:結果的にほぼそうなりました。

倉重:きょうはいろいろな経験が生きた金言を頂きました。

そろそろ時間も来ましたから、これで終わりにしたいと思います。

ありがとうございました。

和田:ありがとうございました。

(おわり)

対談協力:和田洋一(わだ よういち)

1984年、野村証券入社。2000年、株式会社スクウェア入社。2001年にCEO就任。2003年から2013年まで株式会社スクウェア・エニックス(現スクウェア・エニックス・ホールディングス)CEO。社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長、経団連著作権部会長なども歴任。現在は、メタップス、マイネット、ワンダープラネットの取締役、数社のアドバイザー等。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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