スクエニ前社長が語る、変革期の経営・人事戦略【和田洋一×倉重公太朗】第2回

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今回の対談では、スクウェアがかつて設立していた「デジキューブ」にも触れました。デジキューブとは、ゲームソフトをコンビニエンスストアで販売することを目的として設立された流通の会社です。今でこそゲームのダウンロードは当たり前となりましたが、1990年代においては画期的な試みで注目を集めましたが、売れ残っていたゲームソフトの返品を100%受け付ける契約となっており、市場が冷え込むとスクウェア本体も危機的状況に陥る構造的問題がありました。和田さんはデジキューブを連結対象から外すとともに、キラーコンテンツに経営資源を集中。さまざまな構造改革を進めていきました。

<ポイント>

・変化に振り回される人、チャンスに変える人

・ゲームのトレンドの変化にどう対応したのか?

・社内の新規ビジネスを守るためにしたこと

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■自分自身をモチベートしていくには

倉重:別のインタビュー記事で、「坂口博信さんがスクウェアからいなくなって、リーダーシップを取れる人がいない」ということをお話されていました。さまざまな現場や組織を見てこられて、あるべきリーダーシップをどのようにお考えになっていますか。

和田:坂口さんが持っていたのは開発部隊についてのリーダーシップであって、必ずしも会社全体ではないですね。

倉重:誰もそういう意識の人がいなかったのですか。

和田:残念ながら、全体を有機的に観ている人がいるようには思えませんでした。

倉重:それは問題です。会社の体をなしていません。

和田:一般論として言えば、「どの範囲のリーダーシップを持つか」ということを、まず自覚する必要があります。自覚がなければ定義できません。何が必要なのかを知るのも難しいです。

倉重:そういう意味では、和田さんの役割は組織全体のリーダーシップだと思いますが、そこで意識されたことは何ですか。

和田:会社全体の方向を示すことは、リーダーや経営トップ以外にできません。どちらの方向へ向くのか、何のために進むのかという答えを、とにかく自分で出し続けなければいけません。

倉重:あくまで自分がやらなければいけないということですよね。

和田:そうです。丸投げや受け売りは、すぐばれてしまいます。人を引っ張ることは当たり前ですがエネルギーが要ります。自分をモチベートし続けるパワーが必要です。自分で自分をたきつけ続けることは、経営トップにとっては非常に重要な資質です。

倉重:一番つらかったときは、倒れて何日か入院したという話もありました。つらいときにどうやって自分をモチベートされていましたか?

和田:個人的にですが、大変なときはあまりモチベートしなくても大丈夫です。

倉重:逆にアドレナリンが出るという感じですか。

和田:そうです。絶対に負けられませんから、そこまでやります。「そこそこいいな」「やれやれ、目指したところに来たな」と思わないように、モチベートの管理が大変です。

倉重:ある程度のプチ成功をすると油断しやすいですからね。

和田:経営者としてまともに経営していれば、結果までのタイムラグがあることは承知しています。すごく大変なところから元に戻ったり、ある地点まで上がったりするときに、「きちんとやれば何カ月か後に達成できる」と分かっているので、成功してもあまり盛り上がりません。

かといって、達成できると分かった段階ではまだ実績が出ていないため、「やった」「泣ける」という話にはなりません。結果が出たときには、部下たちと一緒に喜びますが、自分としては次の問題に取りかかっている感じです。

倉重:どこか冷静な自分が常にいらっしゃる感じですか。

和田:手放しに喜べない感じです。それでもじわじわ気力を温めていかなければならず、なかなか大変です。

倉重:私も小さいけれども事務所経営をしている立場ですから、やはり自分で満足したら終わりだと常々思っています。売上が多少良かったら、「この程度で続けばいいかなと思っていたら終わるぞ」と常々言い聞かせていますが、なかなか大変です。

和田:「いいかな」と自己満足する回路を切っておく必要があります。はしゃぐのも「あり」とすれば、そこで止まってしまいます。ですから、最初からないものとするのです。

倉重:その回路を経営者は切れということですか。

和田:人によると思います。例えば、褒めてもらったらすごく伸びる人も現にいます。成果が出たら「良かった」と言ってあげたり、落ち込んでいるときには「君は何とかすると思うよ」と言ってあげたりすることが力になる人もいます。タイプによります。

倉重:「どういうことをしたら、自分はやる気になるのかを知れ」ということですか。

和田:自分をモチベートすることは必須ですから、自分がどういう人間かを理解するのはものすごく大切です。

倉重:それは経営者だけではありません。

今のテレワーク時代、一人一人の働く人に自分で自分を律することが求められていると思います。

和田:自分に対してうそをつき、自分をごまかしていれば、だんだんと病んでいきます。

倉重:理想の自分と現実のギャップですね。

和田:かっこ悪い自分でもいいのです。自分がどういうことをやりたいのか、何者なのか。本当は何をしたらうれしいのか、きちんと見つめたほうがいいと思います。

倉重:どうあるべきなのか、to beのところがすごく問われる時代だと思います。

■変化は常態であり、変わらなければ死ぬ

倉重:和田さんがスクエニでされたことは、会社でしていることを整理して、これからのビジネスモデルを3階建てにするものでした。多人数オンラインゲーム「MMO」を1階、基本プレイ無料ゲーム「フリートゥプレイ(F2P)」を2階、コンシューマーゲームを3階として、その上でこれからこういう方向に行くという、変化への対応をすごくされていたと思います。

今は時代が非常に変化している中で、「変化対応力」が重要になってきています。変化するに当たってどのように和田さんは考えていたのか、当時の話を教えてください。

和田:これも答えはなくて、いろいろな見方があります。まず重要なのは、「変化が常態である」と思うことです。変化が常態と思っている人は実はそれほどいません。変化に振り回される人が、なぜ振り回されるのかといえば、本音では「あまり変化しない」と思っているからです。

倉重:人間はできる限り「変わってほしくない」と思ってしまいますよね。

和田:「変わらない」と思っているのか、「変わってほしくない」という希望なのか、いずれにしても「本当はあまり変わらないだろう」と思っているため、振り回されます。残念で嫌だけれども変わるものです。そして、変わるのは大変です。

倉重:エネルギーも要りますよね。常に変わる前提で考えるということですか。

和田:逃げ場はありません。変わらなければ死ぬと思います。状況が変化するごとに合わせていたら体が持ちませんから、自分なりに「こちらのほう」とだいたいの方角を決めなければいけません。

倉重:コンパスを見て、どちらのほうへ進むのかを決める役割ですね。

和田:そうです。それにはいろいろな答えがあります。僕がゲーム業界をリードした時は、コンピューターゲームですから「テクノロジーが成長ドライバー」としました。そうではない考え方もあります。例えばコミュニティーの進化と言う人もいますし、作家性だと言う人もいます。どういう技術だろうが、「泣ける話が正義だ」と言う人もいました。

倉重:どれが間違っていて、どれが正解ということではないのでしょう。

和田:そうです。事業としての再現性、持続性を持ちながら、ある程度の方角を決めることができるものを主軸に置かなければならないのです。そう考えれば、コンピューターゲームの成長ドライバーはテクノロジーになります。コンピューターやインターネットが進化することによって表現が変わりますから、その都度新しくなることができ、成長ドライバーになれます。ITがどちらのほうへ進んでいくかをまず見て、そこにゲームがどう絡んでいくかを予想すれば、だいたいの方角は分かります。

倉重:時代の変化とゲームをどう合わせるかという話ですね。

和田:ただ、どのタイミングでどこまで進むかは分かりません。「こちらのほう」と決めてそこに石を置いていけば、タイミングによってはすぐにつながりますし、時間がかかっても捨て石にはなりません。

倉重:コンビニに置いたデジキューブは早過ぎましたか。

和田:あのタイミングで良かったのです。流通チャネルとしてコンビニに着目したのは慧眼でした。ただし、卸業者であるという自社ポジションから乖離して、キヨスク端末に投資して自ら流通チャネルになろうとした戦術はまずかったと思います。

倉重:別のプラットフォームを使えばよかったということですか。

和田:ブローカーですからね。それでやればいいのに、販売チャンネルの先の端末まで作ってしまったり、他のサービスもやろうとしたりしていました。本当はバランスシートを使ってはいけないのです。フローで稼がなければいけないし、在庫は命取りなのに、過剰に持ってしまいました。事業の方向は良かったのに運用を間違ったのです。

倉重:今だとYouTubeでゲームの動画を見て、ダウンロードして買うことが当たり前です。そういう意味では、日本はかなり先を見すえていたのかもしれません。

和田:デジキューブはあくまでも物理的なパッケージ、ディスクを売る商売でした。ゲーム屋さんではなくコンビニにディスクを並べようという流通チャンネルの革新です。物理的なメディアをディストリビュートするという観点では、他のものとまったく一緒です。しかしコンビニというチャンネルには初めて参入したので、コンビニに対する卸を独占できました。独占の超過利潤をどう取るかを考えればいいのに、その利潤で在庫を持ち、固定資産に投資するという2つをやってしまったので、アウトでした。

倉重:3階建てに立て直すといっても、コンシューマー、MMO(大人数が一度に同じサーバーにログインして同じ空間を共有して遊ぶタイプのオンラインゲーム)、F2P(フリー・トゥ・プレイの略)という3本柱のような話です。もともとスーファミ、プレステ、プレステ2などのコンシューマーゲームを作っていた方々からすれば、初回ダウンロード無料や基本プレイ無料というF2Pのビジネスに「何だこれは」と反発する方も多かったと思います。そういう方々に対して、どうやって変わることを示していったのですか。

和田:いろいろなテクニックがあります。スクエニのターンアラウンドが成功し、その後の成長戦略もまずまず軌道に乗ってきたタイミングで再び大きな転換期が来ると予想されました。環境変化へ対抗するための企業構造変化として、ビジネスを3階建てにすることにしたわけです。事業のサイクルの違いによって3種類に分類しました。一つ目は、PC・家庭用ゲーム、スタンドアローン、オンラインゲームです。数年間まったく収入がない状態で開発し、販売後数か月で回収するという極端な事業です。これは最も変革が必要なので完了までは時間がかかると思い、3階と位置付けました。1階にしたのはMMORPG。サブスクリプション中心の事業です。

倉重:月額制ですね。

和田:開発期間は長いですが、うまくローンチできれば十何年も収益貢献し続けます。加えて、両者の中間のプロフィールでその後伸びてくると思われたFree to Playを2階に据えました。産業のサイクルが違うものを合わせることで頑丈な身体に再構築したのです。

倉重:ビジネスとしてもキャッシュポイントがそれぞれ違います。

和田:経営の観点で言っていますから、営業や開発の人にはなかなか通じません。まさに今の倉重さんのお話で、「Free to Playはただでしょう。何であんなものをやるの」という食わず嫌いをしていました。

倉重:言い方は悪いですが、見下している感じでしょうか。

和田:実績が出るまで信用しませんから、それまでは、致命傷を負わない範囲でひたすら投資し続けるしかありません。

倉重:それは勇気が要りますね。

和田:一般的に、特にエンタメや技術系はそうですが、1発目で当たるなどという甘い考えは一切捨てたほうがいいです。大間違いです。とにかく打席に立ち続けること。野球で打席に立ち続けるのはうまい選手ですが、けがをしない選手でもあります。

倉重:「無事これ名馬」ですね。

和田:はい。デットボールは絶対に避ける。刺されるギリギリまでは走りますが、間に合わないと思ったときはパフォーマンスで走らないという話です。打席に立ち続けながら、結果を出さなければいけません。

倉重:そうしないと誰もついてきませんからね。

和田:いずれにしても既存事業と同時並行としました。投資額は既存の方が大きいです。新規事業は多数ですが、個々についてはそれほど大規模には張れませんから、勢力は小さい。既存事業で成果を上げている者に大概はつぶされてしまいます。したがって、軌道に乗るまでは新規事業チームを隔離しました。

倉重:新規事業を立ち上げるとき、本社とは別に、恵比寿にわざわざ別のオフィスを作られたとおっしゃっていました。

和田:別オフィス、別組織、あるいは外部のスタジオと進めるなど、とにかく既存メンバーから隔離する工夫をして、成功例を出さなければいけません。

倉重:潰せないようにするということですか。

和田:社長がやると言えば、表面上は「そうですね」と聞いていますが、裏側ではねちねちとつぶすでしょう。彼らを守って、とにかく実績を作らなければいけませんでした。

(つづく)

対談協力:和田洋一(わだ よういち)

1984年、野村証券入社。2000年、株式会社スクウェア入社。2001年にCEO就任。2003年から2013年まで株式会社スクウェア・エニックス(現スクウェア・エニックス・ホールディングス)CEO。社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長、経団連著作権部会長なども歴任。現在は、メタップス、マイネット、ワンダープラネットの取締役、数社のアドバイザー等。