リモートワーク疲れの正体【井上一鷹×倉重公太朗】第2回

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緊急事態宣言中、東京都では正社員の半数近くがテレワークを実施していたというデータが出ています。しかし、感染拡大を防ぐため準備不足のまま突入した在宅勤務では、さまざまな課題が生じているようです。井上一鷹さんのもとには、ここ1~2カ月の間に在宅勤務を始めた人たちから、「家では集中できない」「腰が痛い」「運動不足になる」「生活リズムが乱れがち」といった悩みを訴える声が届いています。ストレスフルな環境を変え、仕事のパフォーマンスを上げるにはどうしたら良いのでしょうか?

<ポイント>

・テレカンで疲れるのは聴覚情報が多すぎるから

・リモートワークでも生産性をアップするには?

・組織として集まるならノーアジェンダの会話をする

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■在宅勤務で集中できる部屋とは?

倉重:井上さんは先ほどワンルームをリノベーションしたとおっしゃっていました。

具体的にどういう工夫をされたのですか。

井上:私はコロナとは関係なく、1人で仕事をすることや、集中をテーマにしています。

集中できる横幅を考えて、ブースサイズなどを決めているのです。

リラックスする場所と仕事場の視界を仕切らなければならないので、書斎とベッドルームは1個ずつあるほうが本当は良いのです。

ですが、そんなに裕福ではないし、書斎とベッドルームを両方持つのは大変なので、6畳のベッドルームの真ん中に仕切りを立てて、オンとオフの間に物理的な敷居を立てることを意識しました。

倉重:ブースサイズはどのくらいだと集中できるのですか?

井上:横幅は94から96cmぐらいです。

広めのオフィスでは120から150cmの間隔を取りますが、情報がばらまかれるのでむしろ集中度は下がるのです。

倉重:気になってしまうのですね。

井上:そうなのです。トレーダーのように、画面がたくさん必要な人は違う傾向がありますが、パソコンとノートぐらいで仕事ができる人は94~95cmが一番いいのです。そういうデータを基に自分のうちもカスタマイズしました。

倉重:ちなみに、縦は何センチですか。

井上:縦は1,500にすると一番いいプライベート空間になるというデータで出ています。

倉重:高過ぎても圧迫感がありますから。

井上:そうです。低すぎると漫画喫茶になってしまうので。

倉重:漫画喫茶は駄目ですか。

井上:漫画喫茶だと集中できないのは、プライベートに寄り過ぎるからです。

倉重:囲われ過ぎているわけですね。

あとご自宅に暖炉があるのでしたっけ?

井上:昔はフェイクの暖炉装置を作っていたのですけれども、今は使っていません。

結構良かったのですが、飽きてしまって。

雑談用にいいと思っていたのですが。

倉重:今まで通勤、退勤でオンオフを切り替えていた人がほとんどだと思います。

自宅でもそれを探ってみるというところですね。

■テレカンで疲れる理由

倉重:あとはテレカンで聴覚情報がだいぶ増えているという話も聞かせてください。

井上:単なる仮説なのですけれども、聴覚が疲れるなと最近思っていて。

もともと私たちは目で情報を見ていたわけです。

けれども耳から入る情報も増えてきました。

視覚と聴覚の根本的な違いは何でしょうか?

視覚は見たくないものは見なくて済みます。五感の時点でどの情報を得ようかという意思を持って情報選択ができるのです。

だけど、聴覚情報は全部入ってきます。

テレカン中、なぜかずっとサイレンが鳴っている人がいませんか?

倉重:救急車の音を拾ってしまっている人ですね。

井上:これはまた話がずれ過ぎるのですが、世の中はこんなにサイレンが鳴っていたんだとテレカンで気付きませんでした?

倉重:確かに、割と毎回入りますね。

井上:救急車だらけではないかと。

そういう情報が一回脳に入ってしまうわけです。

倉重:ノイズが強制的に入ってくるということですね。

井上:入ってきた後に取捨選択しなければいけないではないですか。

これが疲れの原因だと思っています。

倉重:これは大きいですね。

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井上:1日8時間ぐらいはテレカンをしているので、私は頭に変な疲れを感じています。

それは仕事の仕方の問題かもしれませんが。

倉重:これに対するソリューションはありますか?

井上:まずはズームなどのリテラシーを全員で上げていくこと。

うちのチームで試してしてみたのですが、テレカンを録画した映像をみんなで見てみると、「自分がミュートを切っていないとこうなるのか」「俺のこの振る舞い駄目ではないか」ということに気づきます。これがとても大事です。

ふだんは気が利く人でも、意外と気づかなかったりするので。

倉重:うちもメンバー全員にヘッドセットを強制配布で「絶対つけろ」と言っています。

そうするだけで全然違いますね。

井上:それは大事です。

音に関しては、『WEEKLY OCHIAI』で落合さんが言っていたのは「ミキサーを入れる」ということです。音量を目の前で変えられるようにできます。

倉重:DJが使うようなものですね。

井上:ソフトウエアなのかハードウエアなのか分かりませんが、そういうものを使っていると言っていました。

倉重:確かにVCの設定をいじっているとすぐに対応できないので、そこまでやるのはなかなか大変でしょうね。

井上:どう考えてもしんどいですね。

倉重:聴覚疲れをデトックスする方法はありますか?

井上:やはりマインドフルネスのような話になるのでしょうね。

想定外の音にまみれて疲れているのであれば、そこをつくっていくのは大事かと思います。

それとまだ考えが煮詰まっていないのですが、テレアポの世界では、ずっと前から膨大な量のテレカンをこなしているわけです。彼らのリテラシーをお借りする視点も大事かもしれません。

倉重:今までの知見があるでしょうからね。

■リモートワークで生産性をアップするには

倉重:テレカンやテレワークが増えていく中で、いかに業務を効率化できるのかという課題を抱えているところは多いです。

6月以降もこの状態を続けるという企業も多いですし、当事務所もそれでいこうと思っています。空間づくりや時間管理、体調管理という視点から注意点をお願いいたします。

井上:脳神経科学の人から話を聞いて「面白い」と思ったことがあります。

「右脳」「左脳」という考え方は、最近は否定されることが多いのです。

諸説ありますが「脳のネットワーク構造は3つある」という話をよく聞きます。

「デフォルト・モード・ネットワーク」という理性や論理を落として、感覚・直感で物を考える脳です。

ネットワークを切り替えるのは「セイリアンスネットワーク」。

論理思考をするのが「エグゼクティブネットワーク」です。

石川善樹さんが「直感」と「大局観」と「論理」という言葉で整理していて、すごく分かりやすいと思いました。

例えば、知的生産をするときは「デフォルト・モード・ネットワーク」を使って、100個のアイデアを出します。

100個全部検証することはできないから、「多分この3つが正しいはず」という大局観を基に、絞り込むのが「セイリアンスネットワーク」。

その中で「本当にやるのはこの1個にしよう」と導き出し、人に説明できるように論理的に整理するのは「エグゼクティブネットワーク」です。

先ほどの質問に私なりに答えると、この3つを同じ環境の中で行うのは、すごくストレスなのです。

論理思考に向いたところと、直観思考に向いたところは絶対に異なります。

アイデアを出す「デフォルト・モード・ネットワーク」が活発になるのは、リラックスした状態なので。

倉重:風呂に4回入るという話ですね。

井上:そうです。先ほど「三上」の話がありましたが、1人でいられて揺らぎのある状態ではないと、アイデアが出ません。それを切り替えてあげることが大事です。

そのために2種類以上はワークスペースを持たないといけないのですね。

集中に関しての漫画で有名な『左ききのエレン』を描いたかっぴーさんと、前に対談したことがあります。彼は「直感系の脳みそを使うために、ひたすら歩いている」と言っていました。

倉重:散歩するのですか。

井上:歩きながらスマホのメモ帳に思い付いたことを書いていくのです。彼はデフォルト・モード・ネットワークのことを「迷う脳みそ」と言っていました。

迷う脳みそを使うときは歩く。それを結晶化していくときは、「家でこういう環境でやる」というふうに完全に分けています。

倉重:脳を意識して使い分けているということですね。

井上:そうです。今までは会社に閉じ込められて「オフィスワーカー」なんて言われていました。この自由度が爆発的に上がるので、ファシリティ(設備)を選ぶ力が勝負になると思うのです。

倉重:自分でチェックしないといけないですからね。

井上:選択肢が増えたことが一番本質的なことです。

選択肢が増えたのに「疲れたね」と言っていること自体が不思議で、パラドックスがあると思っています。

コロナ自体は非常にシリアスな問題だし、そこにどう向き合っていくかという不安はあります。それに生じて起きた在宅勤務という権利も、憂う風潮のほうが強いと思うのですけれども。

アフターコロナとウィズコロナの後半に差し掛かってきたときには、私たちは選択肢を増やした状態になるはずです。

倉重:オフィスに行くか行かないかは選択できるわけですから。

井上:おっしゃる通りです。

私の対談記事やnoteを読んでくれる人は、もともと意識がそれなり高く、自分で決めたいタイプです。どちらかといえば、「選択肢が増えたから良かったね」と思っています。

こういう人たちは全体の2割で、残りの8割は決めたくない人です。

「ざっくり決まったルールの中でやる」という人が社会を支えているので、その人たちにどういうパターンの選択肢を提示するのかが、今すごく重要になっています。

その世界に意識が向けられない人を単純に批判したり、変な二極化が進んだりしてはいけません。

先週ファシリティー設計を担っている人たちが読んでいる『月刊総務』という雑誌の編集長の豊田さんと話しました。

彼は「進化というものは多様性である」とおっしゃっていたのです。

人類は魚類から発生して、いろいろな経緯を持って今に至っています。だけど、人類がどんなに席巻しても魚類は残っていますよね。だから「総務は入り口をきちんと提供できるような存在にならなければいけないのだ」と言っていました。

倉重:魚から進化する人だけではなく、魚のままでいる人たちにも配慮が必要ということですね。

井上:そうだと思います。noteでも書いたのですが、東京23区にオフィスを構えているような会社は、1人当たり6万3,000円ぐらいの経費が毎月かかっています。ファシリティープラス償却費や光熱費。それに通勤費用を足したら7万を超えるわけです。

今まで私たちサラリーマンは、会社から7万円が人件費、給料の前に引かれていました。

働く場所が自宅も含めて変わっていくときには、オフィスや在宅にいくら投資し、どのように働くかというバランスを取ることが、法人としてのイシューになっていきます。

個人としての選択能力を上げていかない限り、そこが破綻するというか、競争力の根源になるような気がしています。

倉重:わざわざオフィスに行く価値や意味は何ですかという話ですね。

井上:そうです。ホワイトワーカー限定にはなりますが、通常業務のざっくり70点ぐらいの仕事をする場所は家に押し込めば良いのです。

70点の環境で仕事しながら、1週間に1回ぐらいは会社に行く。

会社に行かないにしても「どこかに行きたい」という話が出るはずです。

ビフォーコロナの時代には、会話として「バリに行きたい」というサムウェアを人は持っていました。今そういう会話になると、「俺はここでなければどこでもいい」というミドル・オブ・ノーウェアになっています。

倉重:公園に行くだけでも全然違いますからね。

井上:だから日常ではない場所をきちんとつくらなければいけないのです。

となると「オフィスはどうあるべきか」という問題は意外と難しい。

どう考えても島型に囲われた無機質ないすであれば、行く理由がほぼないと思っています。

先ほど倉重さんもおっしゃったとおり、困ったら人は公園に行きますよね。

倉重:私自身、公園によく行くようになりました。

井上:多分会社もそういう場所でなければいけないのです。

組織として人が集まって、同じミッションがある以上はノーアジェンダの会話をすることが大切です。アジェンダを組んで話せるようなことはテレカンでいいのですから。

倉重:会社は、たまにアイデアを出しに「わざわざ」行くような場所ってことですね。少なくとも会議室は要らないですね。

井上:本当に要りません。うちの本社は、社員200人で1,000坪ぐらい使っているので、もともと広過ぎたのですけれども、今は在宅勤務が基本なので、20人ぐらいしか出社しません。そうすると何が起きるかというと、8人用の会議室を使って1人でテレカンするのが常態化しているのです。

倉重:超無駄遣いですね。

井上:これは本当に変えなければいけないと思っています。

(つづく)

対談協力:井上一鷹(いのうえ かずたか)

大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。JINS MEMEの事業開発を経て、株式会社Think Labを立ち上げ、取締役。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。最近「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」を執筆。 https://twitter.com/kazutaka_inou