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【産業医×弁護士】「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」をどうする?【上村紀夫×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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組織を活性化させるには、採用の段階で会社と合う人材を選ぶことが大切です。ミスマッチが多いと、入社後すぐに辞職したり、メンタルを病んで離脱したり、ぶら下がりが増えてしまいます。では、入社面接ではどこを見て、どんな質問をしたら良いのでしょうか? 今回は産業医の目線から、面接時の着目点を教えていただきました。

<ポイント>

・あいさつとありがとうで会社の環境が改善する

・メンタルの問題はなぜ起こるのか?

・入社面接でするべき3つの質問

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■「ありがとう」を口癖にするところからスタートする

倉重:あともう少し、組織を活性化させるコツはありませんか。

上村:ほしがりますね(笑)。

倉重:実践編が一番知りたいことだと思うので。

上村:この間、僕は心理的安全性の勉強会に参加させていただきました。

そのときに聞いたのが「ありがとう」に理由を付けると、もっとインパクトが付けられるということです。

存在承認というよりも経過承認ですね。

そのあたりまで昇華させると、インパクトもアップします。

回数を増やしたらさらにいいと思います。

倉重:なるほど、1日1回「ありがとう」と言うなど、サンクスボーナスを送り合うという話ですよね。

上村:何かがあったら、必ず「ありがとう」と言うのを口癖にします。

そこからスタートでいいと思います。

そうしないと、多分定着しないので。

倉重:あいさつとありがとうくらいは、慣れたら自然と言えるようになるはずですね。

上村:先生に聞きたいのですが、ハラスメントの基準である「個の侵害」の部分と1on1はスレスレではないですか?

倉重:本人から言わせる分には問題ありません。

一回聞いたとしても即アウトではなく、イヤがっているのに何度も聞くことがダメなのです。

上村:想像力が欠如している人だとついしてしまうことですよね。

そのあたりは、さじ加減が難しいのではないかと思ってしまいます。

倉重:確かに言われてみるとそうです。

上村:だから1on1を何も基礎知識なく進めていくことで、これから問題が起こるのではないかと思っていて。

倉重:要はプライベートも含めて、開示するという話ですから、「あなたには言いたくない」ということがあってもおかしくありません。

もし、そのような上司しかいないのだったら、その会社は辞めたほうがいいと思います。

根本的な話になってきましたが、とても大事なことです。

■メンタルヘルス対策を行う順番

倉重:組織活性の大きな柱である、メンタル対策に移りたいと思います。

「メンタル対策は順番が大事」と、コラムに書いてありました。

まずは、メンタルの疾患が発生している人から対処していきます。

その後、早期発見できるようにして、予防に移っていくと。

なぜ、この順番が大事かというところから教えてください。

上村:コロナと似ている話だと思っているのですけれども。

感染症が流行し始めた初期に、「早期発見しましょう」と言って、正確性があまり高くないPCR検査をすると、大量の怪しい人が出るわけです。

倉重:偽陽性の人ですね。

上村:偽陽性の人だらけになったときに、対応力のない状態だとつぶれてしまいます。

倉重:人事リソースも足りなくなって、現場は混乱しますね。

上村:そういうことです。

そこは「ある程度対応できるようにしておきましょう」と話しています。

リソースをしっかりと確保して、知識やスキルなども身につけた後に初めて早期発見ができるのです。

早期発見できれば、「この会社ではどのようなタイプの人にメンタル不調が出やすいのか」ということも分析できるようになってきます。

それがあって初めて、予防につながるわけです。

倉重:きちんと対策できているところは、どういうところが違いますか。

上村:現場のコミュニケーションがしっかりしていて、対応力の高いところです。

不調者が出たときの対応や、復職時の判定の流れ、その後のフォロー体制など、木の幹をしっかりとつくっている会社は強いです。

ここに変な産業医が入ったりすると、現場がゴチャゴチャになってしまいます。

産業医の選び方を間違えるだけで、何百万、何千万というコストがかかります。

単純に、不調の人だけ診療すればいいわけではありません。

会社の状態や、受け入れる周りの方などの状況が複合的にかかわってきます。

そのあたりのバランス感覚が産業医には求められるのです。

しかし、産業医の教育段階で絶対に教えません。

倉重:そこはやはりコンサル的な発想ですか。

上村:僕はそうだと思います。

どんなに素晴らしい案があっても、実行に移されなければ意味がないですよね。

実行に移すためには、ステークホルダーマネジメントは、関係者の心理を考えなければいけません。

理想的な話は、誰でもできますが、0点か100点かではありません。

80点が拾えないのだったら、0点になってしまうのです。

では、80点を取りに行くのか、行かないのかという話になります。

そのあたりの状況判断がすごく求められるので、産業医教育のときはそこを強調しています。

倉重:自社の産業医さんにも、医学的なスキルだけではなくて、コンサルタント的な思考も、教えておられるのですか。

上村:もちろんです。そこをやらないと意味がないので。

今教育のためのリソースを結構つぎ込んでいます。

現場へ同行させるだけでなく、eラーニングもしていますし、月に1回の定例会も開催しているのです。

業務パフォーマンスが良くない場合は、個別指導をきちんとします。

それぐらいしないと、全然知識が入らないのです。

■メンタルの問題を発生させないメカニズム

倉重:メンタルの問題を発生させないメカニズムについても聞いていきたいのですが。

採用の段階でどうやってメンタルチェックをすればよいのでしょうか?

法的にも、面接でどこまで既往歴やストレスチェックをしていいのか、通院している病院に問い合わせをしていいのかが問題になります。

上村:まず、「メンタル不調はなぜ起こるのか」ということから考えたほうがいいと思うのです。メンタル不調はいろいろありますが、代表的なものは「メンタルダウン」、いわゆるうつ病です。

それ以外の精神病や、発達障害、パーソナリティ障害、アルコール依存症などの問題も多いです。

そういったものが雑多にメンタル不調として全部入ってきてしまいます。

倉重:素人に区別は難しいですよね。

上村:そうなのです。

強いて言うなら、メンタルダウンはある程度のレベルで防げる可能性があります。

メンタルダウンに明確な定義はありませんが、一般的には過度なストレスによってメンタルが落ちてしまう状態を指します。

ストレスがなくなれば、症状はある程度良くなります。

「適応障害」と近いですね。原因があって、メンタルダウンが起きます。

これを理解するときに使っているのが、バケツ理論です。

倉重:バケツ理論とは何でしょうか。

上村:花粉症の話と少し近いのですけれども。

バケツに水を入れると、許容量を超えたときにあふれます。

この状態がメンタルダウンです。

こぼれる原因は3つあります。

1つ目は水が多いこと。

2つ目はバケツが小さいこと。

3つ目はバケツに穴が開いていないということです。

大体の場合、1つが原因ではなくて、複合的に起こっています。

倉重:あふれそうな水は、業務負荷ということですよね。

上村:そうです。昔は結構多かったのですが、このごろは少なくなっています。

倉重:バケツに穴が開いていないというのは、ストレス発散方法がないということだと思います。バケツが小さいのは、許容量が少ないということですか。

上村:そうです。「ストレス耐性」という表現で、われわれはよく言うのですけれども。

倉重:これは鍛えられるものですか?

上村:僕の感覚で言うと、思春期を超えていると少しきついです。大学卒業する頃にはある程度大きさは決まっていることが多い印象です。

倉重:採用時点で、バケツの大きさを見るにはどうしたら良いのですか。

上村:バケツが小さい方には4つのタイプがあります。

1つはネガティブ思考です。

何でもかんでも、ネガティブにとらえます。

倉重:採用面接にそのような方はいますか。

上村:結構いらっしゃいます。

自信がなさそうな感じで、来る方です。

2つ目が、過剰防衛タイプです。

自分の弱さをカバーするために、他人のせいにしたり、攻撃性が出たりします。

3つ目が白黒タイプ。0か100の人間です。

「警察官タイプ」と表現することもあるように、自分の価値観を押し付けてしまう傾向があります。

倉重:なるほど、周りとのあつれきが多そうです。

上村:そうなのです。

4つ目が、未熟タイプ。

働くマインドが整っていない方です。

倉重:もう学生レベルで止まっているのですね。

上村:「組織のルールはこういうものです」という話から始めなければいけません。

そういう人は、自分で会社を興すか、フリーランスをするしかないのです。

倉重:私もそのタイプです。本当に組織は向かない人間です。

前の事務所によく13年もいたと思います。

上村:13年はすごいです。

倉重:たまたま、自分のやりたいことと合致したからです。

それがはまらないと無理です。

上村:そこにきちんと価値観を見いだしたのですね。それは未熟タイプとはちょっと違う、組織で働くよりも個で動いた方がいいタイプ、という感じですね。

未熟タイプの方は、そのあたりが甘いのです。

例えば、毎朝きちんと出社するのは、当たり前の話ですよね。

「有給が無限にあるわけではない」ということも説明しなければいけません。

倉重:有給が無限にあるという発想の方もいらっしゃるのですね。

上村:そういう方から「休んでいると生活ができなくなるのですが、どうしたらいいですか」と相談されることがあります。

倉重:すごいです。有給があるだけでも、経営者から見たらありがたいのに。

この4つのタイプのどれに当てはまるのか、どうやって判断していますか?

上村:人事の方は、いろいろな方に会っているので、ネガティブ思考タイプは、見たら分かります。

未熟タイプも話を聞いたらだいたい分かります。

倉重:生活リズムなどを聞けば、ですね。

上村:朝と夜が入れ替わっている方は、その傾向が強いです。

もちろん、ITなどの方面で活躍される方もいらっしゃるのですが、入社してから、生活リズムを戻せるかどうかは怪しいと思います。

倉重:凡例では、昼夜逆転の生活をしている人には指導するだけではダメで、「実際に休ませたり、業務を取り上げたりしなければいけない」と書かれています。

「管理職は、そのようなことまでしなければいけないのか」と思ってしまいます。

上村:それは本当に難しいです。

もともとのマインドの問題もあると思うのですが……。

■入社面接ではどこに着目するか?

倉重:過剰防衛と白黒系は、入社面接で隠そうとしませんか?

上村:ですから、面接では「何を見るか」が大事です。

ここからは今まで全然語ってこなかった部分です。

大事なのは「他責性」です。

ネガティブ思考タイプの方は自分を責める傾向が非常に強いのですけれども、他責性の人は責任転嫁をすることが多いのです。

これは「3つのステップ」で確認します。

採用面接のときには「失敗した経験や、つらかったことはありますか」と質問しますよね。

それが1つ目のステップです。

2つ目は、「どうやってそれを乗り越えましたか」という経験を聞きます。

ここまではよくあるのです。

意外と3つ目の質問をしていないことがあります。

倉重:3つ目の質問とは何ですか。

上村:「そこから何を学びましたか」です。

ここに他責性が出ることがあります。

例えば「こういった上司がいたら、気を付けようと思いました」とか、「相談しようと思いました」など、内省をあまりしない傾向が見られたら要注意です。

そこで他責性があぶり出されたりするのです。

倉重:それは、面接の質問で判断するのですか。

適性検査や、性格診断的も行いますか?

上村:性格診断はうちではしませんが、この人は検査結果でアウトっぽいなという傾向が出ていたら、それはアウトです。その反対に、よい結果が出ているからOKというものではありません。

倉重:極端な人をはじくだけかもしれません。

あとは、入社段階でできることはありますか?

上村:やはり勘ですけれども、面接担当の方が少しでも「この人、大丈夫か?」と思ったら、大丈夫ではありません。

倉重:それは、何かが引っ掛かっているということですか?

上村:「直感を信じてください」とよく言っています。

「大丈夫かな」と思ったら、大抵ダメです。

倉重:直感というのは、脳が何らかの危険サインをキャッチしているのでしょうね。

(つづく)

【対談協力:上村 紀夫 (うえむら のりお)】

名古屋市立大学医学部 卒業。

循環器を専門とし、国内外の病院勤務後にロンドン大学ロンドンビジネススクールへMBA留学。帰国後、戦略コンサルティングファームを経て、株式会社エリクシアを設立。

<資格>

医師、日本医師会認定産業医、経営学修士(MBA)

<書籍>

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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