働き方「バグ」を撲滅せよ! ~脱・「仕事ごっこ」~【沢渡あまね×倉重公太朗】第3回

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テレワークを導入する企業の中には、勤怠管理システムを入れる企業もあります。勤務時間、休憩時間が1秒単位で記録され、勤務中の動画が撮影されて上司に送信される状況に、社員は「監視されている!」とストレスを感じるケースも多いようです。このような状況を、沢渡あまねさんは、「ディスクレパンシー」の状態だと解説。場所を選ばない新しい働き方と、従来の管理制度のズレを指摘しました。

<ポイント>

・働き方格差が、採用格差やビジネスモデル格差につながる

・テレワークの段階を上げるには、とにかく黙ってペーパーレス

・新しい働き方と、管理制度のズレから「バグ」が起こる

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■テレワークの先にあるビジネスチャンス

倉重:テレワーク1.0になるとまた随分変わってきますか?

沢渡:1.0は、いわゆる業務改善やペーパーレスが進んだ状態です。

官公庁や自治体の決まりや内部規則で、どうしても物理でハンコを押さなければいけない仕事は残りつつも、基本的に従来の業務をオフィス以外の場所でもできる状態です。

倉重:うちの事務所は1.0だと思います。

沢渡:1.0に進めているかどうかの大きな分かれ目は、3・11と大型台風だと思っています。

それらを機に、BCPとしてリモートで仕事をする方法や、ITや業務改善などに投資してきた組織は、このコロナ下でも比較的スムーズに1.0で仕事ができています。

ここの差は大きいですね。

倉重:クラウドサービスが最初からあるかどうかでも全然違いますよね。

沢渡:そうですね。あるいは使いこなせるリテラシーがあるか、スキルがあるかで全く違っています。この格差が今出ているという肌感覚です。

倉重:確かに今から資料を全部スキャンして、クラウドにあげていたら超大変ですものね。

2.0に行くともっと進化するのですか。

沢渡:2.0は今までのオフィス業務が前提ではなくて、デジタルであるがゆえに生まれる業務やサービスをどんどん充実させて、組織の成長につなげている段階です。

地方の中小企業などでも、基本的にテレワーク0.0、0.5、1.0のレベルで価値を出せる相手は地域のお客さまでした。ところがオンラインでサービスを提供することによって、地域以外の人ともつながれるようになったという状態です。

倉重:確かに。逆に全国展開ができますね。

沢渡:そうです。今までつながれなかった企業やパートナーとコラボレーションしたりすることよって、新たなサービスも生まれます。

これは採用の面でも言えることです。今まではその地域で物理的に出社できる人を雇用したり、ビジネスパートナーとしたりしていました。ところが、リテラシーが高まってくると、浜松の会社が広島のエンジニアと一緒に仕事をすることも可能になるわけです。

倉重:確かにそうですね。

沢渡:札幌のマーケターと一緒に仕事をすることもできます。「当社のマーケットは全国です」「世界です」ということができます。デジタルであるが故の価値を出していくのがテレワーク2.0だと思っています。

テレワークのステージが今どこにあるのか、どこに行こうとしているのかという議論は非常に重要です。

その場しのぎで0.5に飛び付いたけれども、また0.0に戻ってしまっては、2.0の世界は来ません。単なるリスク回避ではなくて、その後のビジネスチャンスをどう生んでいくか。ここに関わってきます。

倉重:私のところに相談に来られる方でも、「テレワークを一時的にしてみたけれども結構いいので、これを機に永続化したい」というところが増えてきています。

そういう企業に向けたアドバイスをぜひお願いしたいです。

沢渡:まさにこのテレワーク、デジタルワークを、一過性のブームやその場しのぎで置いてほしくないのです。まずはデジタルの世界で仕事をしてみてください。

そのきっかけとしては、テレワーク0.5からでいいと思います。

ただし継続してください。さらに、デジタルの世界でどのようなことができるかという議論を始めてほしいですね。

0.5から0.0に戻る会社と、0.5にとどまる、あるいは1.0止まりの会社と、2.0に進む会社で大きく差ができます。

倉重:もうビジネスチャンスが全然違いますから。

沢渡:今、東京都と地方都市、さらには先進的な企業とレガシー企業との間に大きな格差が広がりつつあると思っています。

東京の企業は、パーソル総研の調査結果で、およそ5割の企業の正社員がテレワークを経験していることがわかりました。

4月の第1週目ぐらいの発表ですから、その率は今上がっているはずです。

東京の企業は、いやが応でもテレワークを経験している。このユーザーエクスペリエンスがある状態が、大きな格差を生むと思います。

その場しのぎの自宅待機で終わってしまっている組織と、「意外にこれはいけるよね。もっと新しいことができるよね」という気づきが生まれている組織とでは大きな差がついていきます。

一方で、旧来の企業や地方の企業は「まだうちには関係がないから」と引き続き出社型の仕事を続けてしまいます。

倉重:やはり最初の一歩は非常に抵抗感がありますからね。

沢渡:そうすると何が起こるかというと、デジタルで仕事ができない人を量産し続けることになるのです。先ほどの『仕事ごっこ』の本のキーワードで言えば、コラボレーションができない組織、企業になってしまうわけです。

倉重:ハンコがないと駄目な人ですね。

沢渡:どんどんテレワークを使いこなして、デジタルで新たなコラボレーションをしていく組織は、どこでもつながれるオープンな状態になっています。

ところが、古い企業や組織は、せっかくチャンスがあっても「いや、うちはできませんから、ご用があるならお越しください」ということになります。

そんな組織で優秀な人材が働きたいと思いますか。モチベーションが高まりますかという話なのです。

倉重:辞めてしまう人も出てきそうですね。

沢渡:まさにいま広がっている働き方格差が、そのままモチベーションやエンゲージメントの問題、エンプロイアビリティー――「雇われる力」に直結していきます。

■テレワークの段階を上げるために必要なこと

倉重:今0.5を実施している会社に対して、1.0や2.0になるためのアドバイスという視点ではいかがですか。

沢渡:とにかく黙ってペーパーレス、原則紙は禁止です。紙とハンコはビジネスの世界において、もはや百害あって一利なしぐらいに言ってもいいと思います。

倉重:行政以外は原則なしにするぐらい思い切ってしまってもいいですよね。

沢渡:そうですね。完全なテレワークを阻害するものは紙とハンコです。これをなくさないと1.0にも行けません。

倉重:そこからさらに2.0だと、また一歩次元が違いますよね。

沢渡:これはやはり、従来の働き方や今出している価値にこだわらないという、アウト・オブ・ボックスの発想です。そこからどういうことができるのか、どういう相手とつながれば新しい価値が生まれるのかといったところだと思っています。

倉重:マインドセットの問題が大きいですね。

沢渡:そうですね。やはり心をオープンにしないと駄目だと思っています。2.0に行くためには、やはりコラボレーションが原動力になります。

自社と全く違う業界他社とつながることで、新しいサービスが生まれます。

倉重:1.0だと、あくまで「今までの業務が支障なくできます」というだけですから。

沢渡:2.0はまさに、コラボレーションによって新たなイノベーションや問題解決を生んでいく世界です。「自分たちはこういうことに困っている」「こういうことができる」「こういうことをやりたい」というのをオープンに発信していかないと、その人とつながりたい人が集まらないわけです。

まさに、「発信駆動型」、発信ドリブンと言っているのです。

そのためにビジョンや困りごと、社員の気づきや学びもどんどんオープンに発信していくことが大事だと思います。

倉重:ちょうど最近記事になっていましたが、テレワークの作業状況を監視するシステムがあるそうです。導入企業が結構あるようですがいかがですか?

沢渡:私は、いわゆるテレワークのようなオープンなカルチャーや働き方に最適化された仕組みと、管理の制度がずれている状態と見ています。

旧来の日本の組織は、統制型・ピラミッド型でした。

製造業や自動車産業に最適化されたモデルで、トップや企画部門が「この車さえ造れば売れるぞ」「皆が幸せに暮らせるぞ」という答えを持っています。

企業は製造現場同様の考え方で、従業員やサプライヤーを統制管理すればよかったのです。人事制度や労務制度、あるいはコミュニケーションのやり方なども全てこの統制型に最適化されて設計されてしまったわけです。

倉重:性悪説がベースですね。

沢渡:そうです。逸脱を認めない、例外的なものを認めない。当然情報共有もクローズ。上司が選んだ人だけに情報を渡していくという、逐次共有のやり方です。

あるいは「井戸端型意思決定」と呼んでいますが、喫煙所でベテランがすぱすぱ吸いながら、その場にいる人だけで決めてしまいます。そこにいない人はかやの外です。

オープンにコミュニケーションをしてチームビルディングすることが求められる時代においては、きわめて不健全です。

制度、風土も横並び主義で、みんなと同じように苦しむことが良しとされる。「製造現場の人が頑張っているのだから、みんなも同じように頑張れ」というよく分からない気合・根性論がはびこっている横並び主義です。

倉重:仕事の進め方は上意下達ということですか。

沢渡:そうです。ところが今の世の中は複雑化していますから、組織の中に答えがなかったりするわけです。少子高齢化で人も少なくなるので、自分たちだけでは答えを出しにくい時代になっていきます。

オープンに他者とコラボレーションをすることで問題解決していく。新しい価値を生み出すというやり方に変わっていかなければ、立ち行かなくなってくるのです。

いわゆるGAFAはオープンでフラットな組織にしているわけですよね。「ティール型」といわれたりしますけれども。そうすると求められるものが間逆です。

テレワークや場所を選ばない働き方も、オープン化に最適化されています。

統制型の働き方はその逆です。全員が全員同じオフィスに集まって、9時17時で会社にいて、45分しかない昼休みには、みんな社員食堂に大挙するという状態になっているのです。

倉重:テレワークをしていても、「12時から13時の間に食事しろ」という企業もありますからね。

沢渡:これはいわゆるディスクレパンシー――テレワークのような働き方と、それを管理する管理の制度がずれてしまっているために起こる事象だと認識しています。

ここのずれを直していかないと、サステナブルな働き方にはならないでしょう。

倉重:なるほど。ではそういうことをオープンにしていく。

階層も、役職などもそんなに要りますかという話になりますね。

沢渡:あるいはサプライヤーさんと協業していく上で、下請け法や労基法も今のままでいいのだろうかという疑問もあります。

倉重:労基法だって、先ほどの一斉休憩の原則という法律がありますからね。むしろ同時に休まなければいけないのです。

沢渡:それがもうオープン型ではありません。世の中の環境やテクノロジーの変化に制度が合わずに、バグになってしまった状態です。

下請法も、ものづくりにしか最適化されていません。私も相当苦労したことがあるのですけれども、クライアントが下請け法を守っていることを証明するために、書類が大量に送られてきて「これに全部サインしろ」と言われるわけです。

事務作業なんてタダ働きでしかないですから、それこそ下請けいじめのようなものです。

プロとしての活躍機会や成長機会を奪われる、大きな機会損失なんです。

倉重:まさに現代のフリーランス化する働き方において、下請け法は全く役に立たないという意見書を弁護士会に提出したところです。

沢渡:素晴らしいです。あれも原材料を買って在庫にするとか、ある程度資金の上でのデメリットを被っているような下請け構造であれば合理性はあるとは思いますが、それ以外の職種では迷惑以外の何者でもない。

オープン型においては、むしろコラボレーションを邪魔するバグになっています。

倉重:あくまで上下関係という発想ですからね。

この流れで、テレワークの監視システムがちぐはぐだという話もうかがいたいと思います。

沢渡:例えばメール、ファクス、電話ではなくてビジネスチャットがいいのはなぜかというと、オープン型のコミュニケーションは、場所や時間を選ばず非同期型で気軽にコミュニケーションができるからです。問題解決ができる点ではビジネスチャットのほうに分があります。

倉重:自明ですね。雑談と相談ができます。Zoomのようなオンライン会議も増えてきたので、よくある間違いというか、ダメな会議の例などもぜひ教えてほしいです。

沢渡:オンラインに限りませんけれども、一番大事なのは、目的とゴールを意識して最適な人を集めているかどうかだと思います。

今までは何となく集まって、何となく会話をしていた会議が多いと思います。

倉重:Zoomなどデジタルオンライン会議になってから、目的を決めて話し合うようになり。むしろ時間短縮になっているという実例もあります。

沢渡:一番大事なのはそこですね。

2つ目がアナログ型のマナーを必要以上に持ち込まないということ。

上司が退出するまでは退室してはいけないなんて、実にくだらない、仕事ごっこです。

倉重:Zoomの退室ボタンを先に押してはいけないとか?

沢渡:そうです。「仕事中だからスーツとネクタイで出なければいけない」というルールも無駄です。それを強いる経営者や人事部門、あるいはそれに従う管理職にも「つける薬がない」と思います。

やはりある程度寛容になっていくことが大事だと思っています。特にリモートワークって、プライベート空間に仕事が間借りしている状態ですよね。

そうすると、猫がニャーンと鳴いたり、子どもが来たりすることもシーンも普通にあります。

そこをきちんと許容して、受け入れなければいけません。今までの仕事の正義だけを押し通しても、幸せになるものではないと思うのです。

ネットワークトラブルなど、どうしても避けられないものに関しても、「ちょっと音質が悪いけれども仕方がない」とか、「テキストチャットを併用しながら運用をする」など柔軟に対応する必要があります。

今までの完璧や、ビジネスマナー、当たり前を押し付けない。組織のカルチャーのアジリティー、柔軟性が求められてくるのかなと思います。

(つづく)

【対談協力:沢渡あまね(さわたり あまね)さん】

1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)、株式会社NOKIOO顧問、株式会社なないろのはな取締役。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。浜松/東京二重生活。

日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報(情報システム部門/ネットワークソリューション事業部門/インターナルコミュニケーション)。

『人事経験ゼロの働き方改革パートナー』を謡い、ITやコミュニケーションの観点から組織改革を進める。300以上の企業/自治体/官公庁などで、働き方改革、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。

<著書>

『仕事ごっこ』『仕事は「徒然草」でうまくいく』『業務デザインの発想法』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『働き方の問題地図』『仕事の問題地図』『システムの問題地図』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『働く人改革』(インプレス)、『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』(C&R研究所)など。

『職場の問題地図』は"ITエンジニアに読んでもらいたい技術書/ビジネス書大賞2018"で、ビジネス書部門大賞受賞。