人生を変える7つのスキル【豊田圭一×倉重公太朗】第3回

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株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役の豊田圭一さんは、スペインの大学院に通っていたころ、他の生徒よりも英語が不得意だったのにも関わらず、常に手を挙げて質問していたそうです。授業やセミナー、会議の場で常に「手を挙げる」だけで、メリットがたくさん享受できます。人生はほんの少しの勇気と単純なスキルで好転させることができるのです。

<ポイント>

・「相手は自分とは違う」というマインドセットを持つ

・いつでも実力を発揮するために必要な2つのこと

・グローバルマインドセット=武士道

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■「人は自分とは違う」というマインドセットを持つ

倉重:経験を稼いで、「相手を知る」というところは、私は一番難しい章だと思いました。

豊田:本当ですか。だって全てを判断するのは相手でしょう。

部下に「俺たちはこうなりたいんだ」と言うと、「そうですね」と返してくれます。

でも本当にそう思っているかどうかは分かりません。

倉重:そうですね。どのようにして判断しているのですか。

豊田:対話です。あとは最初から「相手が自分と同じだ」と思わないこと。

「人は自分とは違う」というマインドセットを持っていないといけません。

倉重:先入観を捨てるということですね。

豊田:例えば「日本人はこうじゃないですか」と言われたときに、「本当にそうなのかな」と疑問を持つ。

倉重:静岡の西と東の話がありましたね。

豊田:よく読んでいますね!

僕は静岡にセミナーに行って本当にびっくりしました。

静岡は東と西で180度、白と黒くらいに違うのです。

なのに、僕らは外人に対して、「アメリカ人はこうですよね」「日本人と比べて」と言います。

では、その日本人は、静岡の西の人ですか? 東の人ですか?

西と東で180度違うのですから、どちらの日本人のことを言っているかで話が変わってきます。

倉重:決めつけてはいけないということですね。

豊田:やはり人はそれぞれ違うので、「相手はどうしたいのか」を知らないといけないのです。

ジャッジするのは相手なので、僕がリーダーでも、部下が本当にフォローしたいと思っているかどうかは分かりません。

仕事をする上でも、上司や部下、お客さまが本どう思っているのかを考える必要があります。

倉重:そうですね。

豊田:それを知ることがすごく重要です。

iPhoneが発売された時、スティーブ・ジョブズが「マーケティングリサーチなんて意味がないのだ」と言いました。

それは「相手を知る必要はない」ということではありません。

ジョブズは言語化されていない本当のニーズを知っていたから、そういうふうに言ったのだと思っています。

倉重:なるほど。

アンケートや市場調査などに出てこないニーズということですよね。

豊田:それが相手を知るということです。

日本の携帯電話も、アンケート調査で「もっとこういう機能があったら便利」という声を聞いてつくったかもしれません。

ですが、本当に世間が求めているものは分かっていなかったのだと思います。

倉重:ビジネスや友人関係、恋人同士でも、わかりあうには、やはり対話を重ねるしかないのでしょうか。

豊田:こちらのマインドセットを「自分は相手のことを知らない」というゼロベースの状態しておくことが第一です。

それがあった上で、「本当はどうしたい?」と聞けば、「実はこう思っていた」という答えが出てくるかもしれません。

だから「知らない」ということを前提に話をすることが重要です。

倉重:最初から「分かってくれるだろう」と期待すると、ボタンを掛け違えてしまいますよね。

豊田:そうです。先ほどの話とつながるのですが、相手にきちんと伝えるためには、自分のことも知らなければなりません。

相手にとっての「相手」は自分になりますから。

■最初の一歩を踏み出すためには、ルーティーンも必要

倉重:では、5つ目の「うまく伝える」に行きましょう。

「相手に伝えなければ、ないのと一緒だ」と書いてありました。

豊田:これは全部つながっています。

「何であいつは分かってくれないのかな」という人がいますよね。

僕は「伝えていないおまえが悪い」と思います。

「僕はちゃんと言いましたよ」という反論があるかもしれませんが、伝わっていないのだからその人が悪いのです。

倉重:豊田さんも昔から伝え方が上手だったわけではないではありませんよね。

むしろ、「人前では緊張する」と書いてありました。

豊田:そうですね。

昔は小さなプライドが邪魔したり、「自分はこうでありたいけれども実力がない」というギャップがあったりしたので、やはり人と話すのはすごく緊張しました。

今はプライドが消えたこと、話し方に慣れてきたこと、経験を積んできたことで、リラックスしてできるようになりました。

倉重:場数を踏めば、誰でもできますか。

豊田:僕も最初はハウツーを参考にしたのです。

いきなり場数を詰めといっても、初心者には難しいものがあります。

最初の一歩を踏み出すためには、イチローや五郎丸選手のようなルーティーンも大事です。

まずは「自分がどうやったら心の平静を保てるか」を知らないとできません。

倉重:豊田さんのルーティーンは「演台までゆっくり歩いて、ゆっくり腕時計を置く」ですね。

豊田:よく本を読んでくれていますね(笑)。

あれは習ってから1年ぐらいはしていたと思います。

場数を踏んでいった結果、時計を外さなくても話せるようになりました。

それぞれのやり方があるので、ハウツーを真似しても良いですね。

守破離のようなものではないでしょうか。

最初は何かの真似をする。慣れてきたら、自分に合わせてアレンジしていく感じです。

倉重:僕はトーストマスターズクラブというNPO法人に通っていました。

そこでスピーチして、コメントをもらって1回500円です。

そのような所で場数を踏む分には何のリスクもないし、経験としてはすごくいいと思います。よく大学生にもすすめています。

豊田:最初は「恥ずかしい」と思ってしまいますが、誰も気にしていないし、何とも思っていないのですよね。

倉重:それがまさに小さなプライドですね。

何回も失敗すれば気にならなくなります。

■手を挙げて質問することにはメリットしかない

豊田:だけど、多少スキルもあると思いました。

僕はスペインの大学院に行きましたが、英語がクラスの中で一番下手だったのです。

だけど成績のためには発言しなければいけません。

「最後のほうで手を挙げよう」と思ったのですが、英語でばーっと議論が進んでいるので、だんだんと発言する内容がなくなります。

ですからもう「最初にぶっ込んでおこう」と思いました。

最初に手を挙げて「ちょっと今の意味が分からなかったのですけれども」と言うだけで、相手は「聞いているのだな」と思います。

倉重:なるほど。それなら言えますよね。

日本は、「それでは質問がある方」というと、なかなか手が挙がりません。

講演している側は寂しくなりますよね。

豊田:寂しいです。

司会の人が「せっかくの機会ですから、どなたか」とうながしても、誰も手をあげません。

僕より先に登壇している人に質問がないと、もういたたまれなくて、「じゃあ、僕から」と言ってしまいます。

倉重:パネラーなのに手を挙げてしまうんですね。

豊田:そうです。

だから「手を挙げる」と決めて実行するのもスキルだなと思っています。

倉重:内容うんぬんではないのですね。

豊田:「質問があるから手を挙げる」のではなく、「手を挙げると決めているから質問が出てくる」という話です。

倉重:僕はどこの勉強会やシンポジウム、セミナーに行っても「手を挙げよう」と思って聞いています。

質問を考えながら聞くと、身の入り方も違いますよね。

豊田:手を挙げることにはメリットしかありません。

「何を質問しようかな」と思っているから、登壇者の言葉がすごくたくさん入ってきます。そういう意味でもプラスです。

手を挙げたら、登壇者や主催者から「先ほどはいい質問をありがとうございました」と感謝されます。

参加者からも「名刺交換させてもらってもいいですか」と言われるので、そこでコネクションもできます。

もうマイナスはゼロです。

倉重:本当ですね。なのに、なぜやらないのでしょうか。

豊田:手を挙げてほしい一方で、こうも思っています。

「ずっと俺が手を挙げ続けて一番でいられるように、みんな挙げなくても大丈夫だよ」と(笑)。

少しダークな気持ちが出てしまうぐらい、みんな挙げません。

倉重:僕も去年「越境が大事だ」と思って、労働法が専門なのですけれども、日本労務学会という少しアウェーな学会に入ってみました。

分野が異なるので、ときどき分からないこともあります。

そのときは手を挙げて「ここが分かりません」を質問しているのです。

学会が終わった後、発表者と会話がはずんだり、顔を覚えてもらえたりするので、「やって良かったな」と思います。

豊田:他の参加者からも「実は私も分からなかったのですが、質問するのが恥ずかしかったので、聞いてくれたので良かったです」と感謝されたりしますよね。

倉重:行く場所、行く場所で手を挙げるだけで人生が変わると思いました。

豊田:会議でもそうですよ。

手を挙げ始めたら、主催者がこちらを向いて話すようになります。

倉重:発言しないと、いないのと一緒ですから。

そういうところから簡単に人生を変えられるという話ですね。

■実力を発揮するには、実力とマインドセットが必要

倉重:次の6つ目が、個人的には一番気に入っているところです。

実力を発揮するためには、そもそも実力をつける必要がありますね。

豊田:本当に力がある人が発揮できないのは残念なことだと思います。

ですが、そもそも実力がない人が「いやー、すみません。力を発揮できなくて……」というケースもありますよね。

倉重:「お前が言うな」ですよね。

豊田:そういう意味では、実力そのものとマインドセットの両方が必要かなと思っています。

倉重:そもそも実力をつけるためには、自分が何をしたいのかを理解し、経験を積んで、自信をつけるという、前の章までのことを実践する必要がありますね。

豊田:そこだと思います。

やりたいことがなければ、目の前のことを一生懸命すればいいのです。

ちょっとしたきっかけでその面白さに目覚めることがありますから。

倉重:その時に、転機やチャンスが訪れるのですね。

豊田:誰かが見ていて、引き上げてくれることもあります。

実力をつけていないのに、「実力発揮」することはできません。

「何の資格を取ったらいいですか」と聞かれることもありますが、僕は小手先のテクニックが大嫌いです。

もちろん資格も大切ですが、実践を積んで力をつけることが重要だと思います。

一番もったいないなと思うのは、力があるのに発揮できない人です。

彼らはマインドセットを身につける必要があります。

倉重:武士道ということですか?

豊田:武士道というのは、平常心と不動心の2つがキーワードです。

いくら強くても、真剣勝負で実力を発揮できなかったら死んでしまいます。

倉重:「ちょっと今、調子が」と言っている場合ではないですからね。

豊田:武士が平常心や不動心を身につけるために傾倒したのが禅です。

彼らは瞑想(めいそう)して心の平静を保ちました。

現代には刀はありませんが、ストレス社会と言われている中で、実力を発揮しなければなりません。

僕はグローバル人材育成の仕事をしていますが、グローバルマインドセット=武士道だと思っています。

倉重:なるほど。

豊田:日本で優秀な人でも、外国のアウェーな環境に連れて行った瞬間に、力が出せなくなります。

そこに足りないのはマインドセットです。

倉重:言葉の問題ではないと。

豊田:もちろん言葉という力もありますが、いつもどおりの力を発揮するためには、グローバルマインドセットが必要です。

とくに日本人にとってはそこだと思っています。

倉重:最先端のスペインの大学院で教えているのが、日本の武士たちが実践していたマインドセットだったというのは面白いですね。

(つづく)

対談協力:豊田圭一(とよだ けいいち)

1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。約17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国で日系企業向けのグローバル人材育成(海外研修)を行なっている。その他、グループ会社を通じて、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営。18年、スペインの大学院 IEで世界最先端と呼ばれる “リーダーシップ” のエグゼクティブ修士号を取得した。最新作「人生を変える7つのスキル」など著作多数。