2020年版「私たちはなぜ働くのか」~山口周×倉重公太朗 新春特別対談その1~

倉重:倉重公太朗の『労働法の正義を考えよう』、今回はビジネス書ベストセラー作家の山口周さんにお越しいただいています。よろしくお願いします。

山口:よろしくお願いします。

倉重:大変失礼なのですが、簡単に自己紹介をいただいてよろしいですか。

山口:1970年東京の生まれです。高校から付属へ行ったのですが、慶応大学院、学部では美術史の研究をやっていました。

倉重:慶応ですか。私と一緒ですね。

山口:慶応です。学部は美術だったのですが、どちらかというと、プライベートで音楽を作る勉強をずっとやっていました。当時からも、文化や芸術、哲学などが好きだったので、それらしい職業がいいと思い、広告代理店くらいしかなかったので電通に行きました。丸7年いたのですが、魔が差して辞めて、それで先ほど出ましたけれども、ネットベンチャーでほとんどバイトです。バイトで1年半くらいふらふらしていました。2社ぐらいですが。そろそろきちんと考えなければと思い、MBAも行かずに外資系のコンサルへ行きました。

倉重:外資系のコンサルといってもいきなり採用されるものですか。

山口:電通にいたときにマーケティングをやっていて、その時に一通り経営学はやっていたので、それが32歳のときです。そこから会社は2社くらい替わっているのですが、49ですから、足掛け17年で結構長いです。なので、1社の限界が7年くらいで、7年限界説という形です。同じ仕事は7年で飽きて出てしまうことを繰り返して、今年の5月に最後の外資系の会社を辞めて、今は完全に勤め人ということではどこにも勤めていません。ただ、社外取締役をやったり大学で教えたりはやっているのですが、そのような人生です。

倉重:経歴ですね。ありがとうございます。『ニュータイプの時代』は何万部行っていますか。

山口:よく分からないですが、8万部くらいだと思います。

倉重:TSUTAYAへ行っても、ベストセラー1位とよく見ます。

山口:おかげさまです。

倉重:ああいう現代では役に立つよりも意味があることだとか、そもそも問題を提示することが大事なのだという発想は、詳しくは本をお読み下さい、なのですが、こういう発想はどうしてそう至るようになったのですか。

山口:コンサルティング会社に随分いましたから、外から見ていて、明らかにしょぼいことをやっているのですね。

倉重:コンサルの人がということですか。コンサル先がですか。

山口:コンサルが見ていて、お客がしょぼいことをやっているのです。市場調査をやって、結果や統計で分析して喜んでしまっているわけです。何をやっているの?という感じなのです。それなりに現場の人は一生懸命やっているのですが、世の中に要らないごみのような商品をたくさん作っていて、この人たちは何をやっているのかというですね。

倉重:駄目仕事があふれていたわけですね。

山口:くそ仕事です。くそ仕事でずっとやって、僕は文化人類学者のつもりだったのです。コンサルタントって何かいけ好かないではないですか。

倉重:そうですね、というのも何ですけれども(笑)

山口:コンサルはどうなのかと思っていたのですが、会社は一つ一つが村のようなもので、独自の発達を遂げるのです。僕は文化人類学に非常に興味があったので、コンサルがどうしたら楽しくなるかと思ったときに、これは文化人類学だと思ったのです。

倉重:会社ごとの村ということですね。

山口:一つ一つの三菱商事村や日産自動車村があって、固有の言語を話しながら、固有の習俗でいろいろ動き回っているのです。

倉重:社内用語もありますものね。

山口:それはそれでなかなか面白いのです。それで乗り込んでいって、なぜこの人たちは、このようなしょぼいものを喜んで作っているのかを考えると、知的に楽しいのです。なので、イノベーションを起こしたいと言われて、どうせイノベーションは起きないだろうと思って手伝うのはつらいではないですか。

倉重:もう答えは分かっていますよね。

山口:どうせ起きないのです。逆に、どうせ起きないだろうという起きなさぶりのすごさを、どれだけ起きなさぶりがすごいかというつもりで見たら、これはきっと楽しいのではないかと思ったのです。そういうつもりになってから、がぜん楽しくなったのです。

倉重:そこまでお客さんに言うのですか。

山口:言わないです。

倉重:内心でですか。

山口:たまに言うのですが、最近、これは言ったほうがいいということが分かったのです。

倉重:本当のコンサルとはそういうことですよね。

山口:2つあって、いきなり行って、おまえは面白いと言われると、ずっと関係がそのままで続くのです。

倉重:ファンになってしまうのですね。

山口:最初に言わないで、結構優秀なコンサルタントだと思ってくれて、忘年会などに行ったときに、少し毒を出すではないですか。そうすると、そのようなことを考えていたのかとなるのです。

倉重:怒られるのですか。

山口:怒られるというか、関係性が悪化することがあるのです。だから、何でもそうなのですが、最初から本音を出しておいたほうが、嫌いな人は近寄ってこないし、好きな人しか残らないのです。僕はそれに気付くのが随分遅かったのですが、もっと見ていれば、活躍している人ほど、早い時期にそれをやっている気がするのです。

倉重:いきなりびんたをしてからハグをするのですね。

山口:そういう気がします。

倉重:やっと本音で語れるようになってきたということですか。

山口:プロトコル、世の中的な優秀さの演技をやっていると、どんどん窮屈になっていくので、そういうのを僕も40過ぎまでやっていたのですけれども。

倉重:まさに世の中は、これから未来は不確実である、どうなっていくかは誰にも分からないと言われている中で、まさに今回の『ニュータイプ』で書かれていたことは、問題を提示する、意味を見いだす、ストーリーを提示する、ロマンを語る、共感を生む。それから競争ではなく、共につくるほうの共創などを非常に的確に言語化していただいたというのは、時代がまさにそのとおりだと思っているのですが、こういう感覚というのは、コンサルをされている中でだんだん思われてきたのですか。

山口:コンサルをしていると、顧客のパフォーマンスが上がらない一方で、世の中にはパフォーマンスを上げているものがある。などと一応は考えるわけです。

倉重:どうしてこうなっているのでしょうか。

山口:なぜうまくいっている会社はうまくいっているのか。分かりやすい話は、Appleは市場調査をほとんどやらないらしいのですが、そういう会社の時価総額が世界最大になっていて、携帯電話を作っても非常に好調です。一方で日本の携帯電話は、あれだけ市場調査をやって、あれだけマーケティングのセオリーにガチガチやって、ロジック、ロジックで誰も傷付けません。誰も傷付けないというのは、世の中ということではなく、中にいる人たちです。絶対失敗させないと手堅くやっていて、そして誰もいなくなったとなるのです。

倉重:実際に、ほぼ日本の携帯電話メーカーは撤退しましたものね。

山口:崩壊しましたからね。だから、誰も傷付けずに手堅くやっていったことが、結果的には自分たちを吹き飛ばす核弾頭になってしまったと考えると、昔から言われている優秀さや実直さのようなものよりも、市場調査をして実直にこういうものを作りましたという会社が負けて、よく分からないけれども、俺はこういうのが格好いいと思うといって出してくる会社に負ける。世の中のいろいろなところを見てみると、みんなその構図ではないかと気が付いたのが10年前くらいです。なので、美意識の本もそれを書いていますし、僕は、基本的にはもっとみんなが個性を全開させて、楽しく仕事をしたほうがいいということが基本にあるのです。それを美意識やニュータイプ、イノベーションという角度でいったりして、同じことを別の角度から言っているという感じです。

倉重:根本は同じなのですね。

山口:同じなのです。

倉重:その中で、実直さと先ほどおっしゃいましたが、これは逆に、おそらく昭和の高度経済成長期に日本が強かった理由でもあって、過去の拡大再生産で頑張っていこうというより、より効率よく、より大量にという時代にはむしろはまっていたのでしょうね。

山口:良かったのでしょうね。

倉重:それが今の時代に通用しなくなっているのに、考え方というか、根本が変わっていないのではないかということですね。こうなってくると、日本企業は変われるのでしょうか。つぶれてみないと、もう分からないという状態ですか。

山口:個人的には、変わらないと思います。

倉重:山口さんの本を買う層などは、個人レベルではまずいと危機感を持っている方が多いと思うのですが、それが日本全体となってくると、これはどうしたらいいのだろうと思ったりするわけです。

山口:つぶれて何が悪いのだと思うのです。つぶれて困るのは経営者なので、退職金が出ないなど、それはいろいろ大変ですねということなのですが、つぶれて何が悪いのですかと思うのです。

倉重:その時に、また新しいものもできているだろうと。

山口:人間は死ぬではないですか。

倉重:いつかはですね。

山口:生命とは死ぬようにできているわけです。死ぬようにできているということは、死ぬように進化したのです。生物というのは、進化した結果として、死ぬようにプログラムされたわけです。だから、死なない動物は滅びてしまったということなのです。パラドックスな言い方ですが、自然淘汰した結果、今はもう寿命のある生き物しかほとんどなくなったというのは、死ぬということが、その種の繁栄にとってはいいことだからなのです。だから必ず生命は死ぬわけですが、法人というのは、一応法律上の人ということなのですけれども、会社は寿命がないのです。これが僕は極めて不健全だと思っていて、どんどん死なせたほうがいいと思っているのです。

倉重:ゾンビ化させなくていいではないかと。

山口:はい。なので、これはいろいろな経済シンクタンクなどがいっていますが、日本は新陳代謝の速度が非常に遅いのです。要らない会社が残り過ぎているのです。今、家電の炊飯器を作っている会社が日本に何社あるか知っていますか。

倉重:パナソニックに象印に、何社でしょう。

山口:83社あるのです。

倉重:なんと!そんなにあるのですか。

山口:つまり要らない会社が多すぎるということなのです。だから、つぶれて何が悪いと、僕は基本的にどんどんつぶせと思っていて、今どき炊飯器なんか作っているのではないよと思うでしょう。80何社あるのです。それでご飯が炊けますと、ばかではないのかと、そのような仕事は辞めてしまえと思います。そんなくそ仕事をやっていないで、中にいる人がどんどん抜ければいいのですよ。

倉重:中にいると気付かないのでしょうね。

山口:本人は気付いていると思います。この仕事がくそ仕事だとみんな分かっていますよ。

倉重:私も労働法の仕事をする中で、働き方改革のご相談もお受けするのですが、例えば労働時間を短くする対策会議など、それ自体が無駄だというのが結構あるのです。

山口:それで会議をやっているのですね。

倉重:チェックリストを作ったりしているのです。

山口:笑える話があって、授業以外の準備やいろいろな仕事が多くて、今、学校の先生は非常に大変なのです。文科省が、何がそのように大変なのだというアンケートをやって、文科省のアンケートのような仕事が1位に来ているのです。これは非常に面白いと思います。

倉重:ムダを自分でつくっているのではないかと。それに近いことが多分いろいろな企業で行われているのでしょう。

山口:茶番ですよね。

倉重:実際に関わる中で、今、世の中の企業の働き方改革で思われるところはありますか。

山口:本質的なところが抜け落ちているという印象はあります。従業員の労働時間を減らすこと自体は、行き過ぎた長時間労働はもちろん是正されるべきだと思います。幾つかのミッシングピースがあって、これは非常に批判されるのでしょうけれども、僕は批判されても舌を出して笑っているタイプなので、割とそういうのが大好きなのです。まず、先ほど倉重さんも言っていましたが、仕事が悪いものという前提に立った考え方だと思うのです。僕はほとんどプライベートがないのです。

倉重:仕事とプライベートを切り分けないということですね。

山口:元々フリーはそういうことではないですか。会社勤めをしていたときも、月金は会社の仕事で、土日と夜は執筆などの研究をやっていたので、事実上ノーライフなのです。ワークライフバランスでいうと、フルワーク、ノーライフなのです。でも、フルワークになると、それが逆にフルライフになるところがあって、僕は、これをやめろと言われると、逆にうつ病になってしまうのです。

倉重:結局やりたくて勝手にやっているのですよね。

山口:勝手にやっているのです。子どもとお風呂に入ったり、そういうのはもちろん自分にとって潤いのあるストレス解消のための時間として必要ですが、土日に家でボーッとテレビを見ろとか、このソファに5時間座ってバラエティ番組を見て笑っていろといわれると、多分僕はうつ病になってしまいます。

倉重:死んでしまいますね。

山口:多分死んでしまうのです。仕事がつらいものだという価値観になっているのが大前提としてどうなのかということです。もっというと、仕事が楽しい、楽しくない。楽しくない仕事を長時間やらされているのは問題だというのは余計なお世話で、だったら辞めろという話なのです。そのような仕事は辞めればいいではないかと。

倉重:最高です。まさにそうですね。

山口:いるのだったら、好きなのでしょうということです。僕は会社を何度も替わってきているので、仕事の内容は好きだけれども、人間関係が嫌だから辞めるとか、人間関係は最高だけれども、仕事がつまらなくなってきたから辞めるとか、少しでも気に入らなければ、すぐポンポン辞めてきたのです。結果的には、辞めるたびに楽しい仕事の純度が上がっていって、先ほどの日本の会社で83番目のシェアの炊飯ジャーの会社などは勝ち目がないですよね。

倉重:今からは厳しいでしょうね。

山口:厳しいですよ。仮に82位に上がっても、そのような仕事は辞めたほうがいいですよ。

倉重:炊飯業界で革命が起きればワンチャンスありませんかね。

山口:それがご飯炊けるなどといっていられないですよ。これは多分辞めたほうがよくて、嫌なら辞めろと。楽しい仕事を追い求めるという働き手側からの労働市場のある種の利用の仕方といった視点が足りないし、働き方改革を会社に期待して、うちの会社は働き方改革をしていないと、嫌なら辞めろという話なのです。お上が何とかしてくれる、経営者が何とかしてくれるという他責の発想が非常に強い気がしていて。

倉重:仕事は与えられると思っている人が多いですよね。

山口:そう、本来自分の仕事は自分で見つけるものなのです。

対談協力:山口 周(やまぐち しゅう)

独立研究者・著作者・パブリックスピーカー

1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。一橋大学経営管理研究科非常勤講師。『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』(KADOKAWA)、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?─経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)など、著書多数。