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「眼鏡をかけている人は新型コロナに感染しにくい」は本当?

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

新型コロナウイルスは、接触・飛沫・エアロゾルなどを介して感染します。感染者と目の前でマスクなしで会話すると、飛沫による感染リスクが高くなるとされています。鼻や口の粘膜以外にも、眼の粘膜からも感染することがありますが、眼鏡は果たして有効でしょうか?

医療機関でアイガードは必須

新型コロナの感染対策において、医療機関ではアイガードやフェイスシールドが有効とされています(図1)。

特に激しい咳をしている患者さんや酸素を吸っている患者さんでは、エアロゾルが飛散しやすいことから、これらの着用が必須とされています。

図1. アイガード(看護roo!より使用)
図1. アイガード(看護roo!より使用)

保育や教育の場でもこうした感染対策グッズを使うことがありますが、一般にはあまり普及していません。マスクに加えて、アイガードやフェイスシールドを着用していると、「やりすぎ」と思われてしまうかもしれません。

私は感染制御チームの医師ですが、コロナ禍初期には病院職員から頻繁に「ウイルスの感染予防に眼鏡は有効でしょうか?」と聞かれていました。

眼鏡の予防効果を検証

ノルウェーで実施された研究において、公共の場で眼鏡を着用すると新型コロナになりにくいかどうかが評価されました。

普段眼鏡をかけていない成人に、公共の場にいる際「眼鏡(サングラスも可)を着用してもらう群」と「着用しない群」に無作為に分かれてもらい、その後14日間の感染予防効果を検証した3,700人以上の大規模な研究です。

新型コロナ陽性と診断されたのは、眼鏡を着用した群で3.7%、着用しなかった群で3.5%と統計学的な有意差はありませんでした。

つまり、眼鏡をかけていようといまいと、新型コロナの感染リスクには影響がなかったのです。

しかし、「自己申告に基づく呼吸器感染症」という広い基準にすると、感染率は眼鏡を着用した群で30.8%、眼鏡を着用しなかった群で34.1%と、眼鏡に予防効果が認められることが分かりました(図2)。

図2. 感染率の差(参考資料1をもとに筆者作成)
図2. 感染率の差(参考資料1をもとに筆者作成)

デンマークやスウェーデンでも同様の研究が行われており、眼鏡を着用しているほうが新型コロナの感染自体は少ない傾向にありますが、統計学的に検討を重ねると「眼鏡にはあまり意味がない」という結論になっています(2)。

まとめ

眼鏡を着用しても、新型コロナウイルスの感染を予防する効果は示されていませんが、呼吸器感染症全般に対してはいくばくかの効果があるのかもしれません。

とはいえ、普段眼鏡をかけていない人が改めて眼鏡をかけるほどのパワーはありません。

今の時期、不織布マスク+眼鏡で予防効果があるとすれば、花粉症くらいでしょうか(3)。

(参考)

(1) Fretheim A, et al. JAMA Netw Open. 2022 Dec 1;5(12):e2244495.

(2) Gregersen R, et al. JAMA Ophthalmol. 2022 Oct 1;140(10):957-964.

(3) 花粉症環境保健マニュアル2022(URL:https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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