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新型コロナ第8波 高齢者施設でクラスターが多発 なぜ感染を防ぐことが難しいのか?

倉原優呼吸器内科医
イラストACより

新型コロナ第8波が到来しています。とにかく、高齢者施設からの入院要請が多い状況です。なぜここまで高齢者施設でクラスターが増えてしまうのでしょうか?

新型コロナのクラスターが増加

第6波以降、新型コロナで入院する患者さんのうち高齢者が占める割合が増えています(1)(図1)。現在も、コロナ病棟に入院してくる患者さんのほとんどが高齢者です。

図1. 年代別入院患者数の各波の比較(参考資料1より引用)
図1. 年代別入院患者数の各波の比較(参考資料1より引用)

11月13日までの医療機関および高齢者施設を含む福祉施設のクラスター発生数は、じわじわと増加しており(図2)、施設クラスターを起こしてコロナ病棟に入院する高齢者も増えつつあります。

図2. 医療機関および福祉施設のクラスター(参考資料2をもとに作成)
図2. 医療機関および福祉施設のクラスター(参考資料2をもとに作成)

コロナ禍に入って約3年が経過しますが、なかなか医療機関や施設クラスターはなくなりません。なぜでしょうか?

高齢者施設の感染対策の難しさ

高齢者施設では医療機関のような感染対策がなかなか難しい現状があります(図3)。

たとえば、認知機能の低下した利用者が多く、マスク着用や手指衛生などの基本的な感染対策が難しいです。また、教科書的な感染対策を講じようとしても、施設ごとに構造が異なるため、マニュアル化したとしても複数の施設をカバーできるわけではありません。

図3. 高齢者施設における感染対策が難しい要因(筆者作成、イラストはピクトアーツ、イラストACより)
図3. 高齢者施設における感染対策が難しい要因(筆者作成、イラストはピクトアーツ、イラストACより)

また、新型コロナ陽性とわかっても、高齢者は手が冷たいことも多く、酸素飽和度がうまく測定できないことがあります。施設クラスターが発生したとき、「酸素飽和度が測れないので」という理由で、コロナ病棟に入院要請が来ることもあります。

施設職員に対する定期検査

新型コロナへの対応と社会経済活動を両立させるための対策として、すべての都道府県において、入所系の高齢者施設等(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、認知症グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、障害者支援施設等)については、施設職員の検査を定期的に実施することを要請しています(3)。

3日から1週間に1回程度、検査を続けている施設が多いと思いますが、継続する職員の負担が大きいなどの理由から、現在の実施率はそこまで高くありません。

高齢者施設におけるワクチン接種

上述したように、高齢者施設では、利用者同士の距離感が近いことから感染を防ぐことが通常よりも難しいです。

6万人以上の高齢者施設利用者における新型コロナワクチンの有効性を見た大規模な研究があります(4)。追加接種するごとに有効性が上がることが示されています(図4)。

図4. 高齢者施設におけるワクチンの有効性(参考資料4をもとに筆者作成)
図4. 高齢者施設におけるワクチンの有効性(参考資料4をもとに筆者作成)

その他、イスラエルの高齢者施設利用者4万人以上を対象とした研究も報告されています(5)。「4か月以上前に3回目のワクチンを接種した人」と「4回目を接種した人」を比較したところ、4回目接種群のほうが感染予防効果が高く、「盾が少し復活する」という現象が見られました。

しかし、報道にある通り、経時的にこの有効性は低下することが分かっています。新たにワクチンを接種すると、感染予防効果が回復することに加え、重症化予防効果は長期に続くことから、今後定期的に接種していく戦略に移行していく可能性もあります。

まとめ

高齢者施設では、いろいろな事情によって感染対策を講じることが困難です。ウイルスに接触する機会が必然的に増えることから、日ごろの感染対策だけでなく、施設職員や入居者のワクチン接種をすすめていく必要があります。

(参考)

(1) 第105回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年11月9日)資料3-8-②西塚先生提出資料(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001010896.pdf

(2) データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(URL:https://covid19.mhlw.go.jp/

(3) 高齢者施設等の従事者等に対する検査の実施の更なる推進について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000988301.pdf

(4) Grewal R, et al. BMJ. 2022; 378: e071502.

(5) Muhsen K, et al. JAMA Intern Med. 2022; e222658.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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