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熱中症と新型コロナは区別できるのか? 医学的考察

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

「熱中症で運ばれた人が新型コロナ陽性だった」というケースはコロナ禍に入ってから夏場に何度か目にすることがあります。さて、これらを受診前に区別することはできるでしょうか?

熱中症と新型コロナの類似点

熱中症と新型コロナは、いずれも熱っぽくてぐったりするという共通点があります。インフルエンザなどは冬に流行していたので、熱中症と区別する必要性は高くなかったのですが、新型コロナは季節を問わず流行しています。

実際に、令和3年の熱中症による救急搬送者数と新型コロナ新規陽性者数のグラフを重ねるとわかりますが、8月に搬送があった場合、去年はどちらなのか区別が難しい状況でした(図1)。

図1. 令和3年(5月から9月)の熱中症による救急搬送者数と新型コロナ新規陽性者数(参考資料1のグラフに新型コロナ新規陽性者数を重ねた。縦軸が異なるので注意)
図1. 令和3年(5月から9月)の熱中症による救急搬送者数と新型コロナ新規陽性者数(参考資料1のグラフに新型コロナ新規陽性者数を重ねた。縦軸が異なるので注意)

こうした患者さんの搬送依頼があった場合、救急隊員も医療機関のスタッフも、適切な感染予防策を講じます。オミクロン株以降、全国的にこうした患者さんの受け入れ病院は多くなりましたが、パンデミック初期は「新型コロナの可能性があるのなら受け入れできない」という施設が多く、医療が逼迫していた地域もありました。

熱中症が高齢者に起こると、基礎疾患を持つ場合、死亡率が急激に上昇します(2)。現時点でマスクと熱中症の関連性は科学的には示されていませんが(3)、暑くてしんどいのに無理をしてマスクを炎天下で着用する必要はありません。自身の体調を優先しましょう。

熱中症と新型コロナの相違点

この2つをどうにか早期に区別できないものかと、多施設のデータを集めた研究が日本で行われました(4)。これは、初期の熱中症患者さんと比較的軽症の新型コロナの患者さんを比較したものです。

熱中症患者さん90人、新型コロナ患者さん86人のデータを比較したものがです。統計学的に有意差があった項目を赤字にしています。軽度の熱中症は、男性に多く、体温がそこまで高くならず、血圧がちょっと低い、というくらいで、たとえ統計学的に有意差があっても、さすがにこれらだけだと現場では判断しづらいと思います。

表. 熱中症と新型コロナの比較(参考資料4より引用、見やすさを重視して四分位範囲は割愛)
表. 熱中症と新型コロナの比較(参考資料4より引用、見やすさを重視して四分位範囲は割愛)

熱中症の患者さんに咳の問診をとったデータがなかったため、この研究では両者の咳の比較はできなかったのですが、新型コロナの咳の頻度は49%と報告されています。そのため、現場では両者を区別する上で咳は重要な症状だと思います。また、オミクロン株以降は、咽頭痛も出現しやすく、これも個人的に有用と考えます。

また、血液検査では熱中症の場合、脱水によっていろいろな検査値が上昇しやすくなるので、病院受診後という条件ならば、血液検査は有用です(4)。

とはいえ、実際に救急外来にやってくる新型コロナ疑いの患者さんの中には、熱中症以外のさまざまな疾患が紛れ込んでいるのが事実です。コロナ禍で多くの救急患者さんを受け入れた東京都立広尾病院の救急患者さん2,555人を調べた研究(5)では、新型コロナ疑いとして対応したうち、実際に新型コロナだったのはわずか17.9%で、8割以上が新型コロナ以外という結果でした。一番多かったのは、風邪(33.0%)でした。

まとめ

発症初期の段階で、熱中症と新型コロナを区別することはなかなか難しいものの、熱中症では、咳や咽頭痛といった風邪症状が出現する頻度はさほど高くないと考えられます。

とはいえ、実際の救急外来では、熱中症らしい場合でも、輸液などの初期治療を行いながら新型コロナの検査を並行することが多いのが現状です。また、新型コロナにかかって脱水気味になり、熱中症を併発することもあるので、両者を受診前に鑑別することはなかなか難しいでしょう。

熱中症を予防するために、暑さを避ける・身を守る対策に加えて、こまめに水分を補給するよう心がけましょう(図2)(6)。

図2. 熱中症対策(参考資料6より引用)
図2. 熱中症対策(参考資料6より引用)

(参考資料)

(1) 令和3年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況(URL:https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/heatstroke_geppou_2021.pdf

(2) Epstein Y, et al. New Engl J Med. 2019;380:2449-59.

(3) 屋外ではマスクを外したほうがよい? マスク着用による身体の変化と熱中症のリスクについて(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220505-00294486

(4) Obinata H, et al. J Nippon Med Sch. 2021;88(1):80-86.

(5) Kurihara S, et al. Intern Med. 2021;60(19):3087-3092.

(6) 熱中症を防ぎましょう(厚生労働省)(URL:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/prevent.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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