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新型コロナの検査難民が急増 発熱外来が機能不全とならないための対策は

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

「検査待ち時間が長くて、とてもじゃないが並べない」「かかりつけのクリニックに電話したら、現在検査ができないので他の病院に行ってくださいと言われた」という事例を目にするようになってきました。総合病院に多くの検査希望の人が流れてきている状況ですが、新型コロナを受け入れている病院は二重苦の状態です。

「新型コロナの検査ができなくなりました」

なぜこのような現象が起こっているかというと、単純に検査キットや試薬の需要と検査希望者への供給がマッチしていないためです。医薬品卸売会社でも在庫がほぼなくなってしまい、増産がかかっているものの入荷のめどは立っていません。

現在、感染に不安を感じる人や濃厚接触者から症状がある人まで、ありとあらゆる人に無料検査がすすめられています(無料検査事業)。そのため、新型コロナの検査を受けられる検査機関・医療機関に行列ができています。

検査キットの枯渇によって、院内検査ができなくなり、外の検査機関に依頼し始めるクリニックも出てきました。この場合、検査結果の返却に時間がかかります。院内だと即日検査結果が出ていたものが、外注検査だと場合によっては4~5日かかることがあります。

新型コロナの診断にそんなに時間がかかっていては、もはや意味がありません。

抗原定性検査キット(photoACより)
抗原定性検査キット(photoACより)

即日検査ができないため、発熱外来自体の稼働を諦めることを検討するクリニックも出てきました。停止するところが増えると、その他の発熱外来に人が流れていきます。そこで抗原検査キットが不足していたら、最終的に大きな病院に検査希望者が集まることになります。

大きな病院では新型コロナ患者さんも受け入れているため、結果的にこれが医療逼迫をもたらします。

実際、当院にも「抗原検査キットの不足により検査ができなくなったため、貴院で検査してほしい」といった紹介状を持ってやってくる人がいます。

検査希望者が多いため検査トリアージを

現在不足しているのは、抗原検査キット、検体を入れるスワブや容器などです。PCR検査については汎用性のある試薬の流通は余裕があり、どちらかというと検査需要の増大が影響しているようです。

抗原検査キットは本当に枯渇していて、しばらく入手困難となる可能性が高いでしょう。

年末から、無料検査事業が各自治体ですすめられています。一部の自治体では一旦停止となりましたが、多くの自治体では現在も無料検査事業が有効です。

基本的に無料検査は、発熱などの症状がなく、濃厚接触者ではない無症状者を対象としています。オミクロン株の感染拡大局面において、検査希望者が無料検査のために行列を作っています。高齢者や重症化リスクが高い人への検査が滞る懸念があります。

検査希望者が過剰である現状に鑑み、厚労省は1月27日に、検査キットの優先供給について自治体等に通知を出しました(1)。医療機関や地方自治体用に確保するために、優先順位をつけました()。

図. 検査キット供給の優先順位について(筆者作成)
図. 検査キット供給の優先順位について(筆者作成)

発熱外来を標榜しているクリニックで抗原検査キットを活用しているところには、最優先で配分していただきたいと思っています。

無症状者の検査について

当初は、濃厚接触者には積極的に新型コロナの検査を行っていました。無症状濃厚接触者に検査を行う意義がないとまではいいませんが、医療逼迫時に必要な人への検査ができなくなると、本末転倒です。

複数の自治体で濃厚接触者に対する検査が差し控えられる方向に動いています。そもそも濃厚接触者の追跡自体が物理的に行えない状況ですから、症状がないならば、検査せず一定期間自宅待機するほうが理にかなっています。

抗原検査キットが陰性でも、感染している可能性が否定されたわけではありません。新型コロナの症状があり、ウイルス量が増えてきたときに検査精度が担保されるものと理解してください。

現在緊急増産が行われていますが、供給が安定するまでは、無症状者における不要不急の検査は自制が求められると思います。これは私見です。

なお、パンデミック初期のマスクと同様、抗原検査キットを高額で売りつけるケースがあります。「研究用」とパッケージに表示されている抗原定性検査キットは、厚労省が承認したものではなく、検査精度は担保されていないので注意してください厚労省に薬事承認を受けた製品には必ずパッケージに「体外診断用医薬品」と書いています

症状が出た場合どうすればよいか

新型コロナを疑う症状が出た場合、どこを受診すればいいのか分からないという人がたくさんいます。まず原則として、かかりつけ医や最寄りの医療機関に相談することが望ましいです。

厚労省は、各都道府県における相談窓口を公開しています(2)。これでも分かりにくい場合、「発熱外来 〇〇市」などと検索すれば、上のほうに必ず相談窓口が書いたウェブサイトが出てきますので、そこからアクセスしてみてください。

(参考)

(1) 新型コロナウイルス感染症オミクロン株の発生等に伴う抗原定性検査キットの発注等について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000888740.pdf

(2) 新型コロナウイルスに関する相談・医療の情報や受診・相談センターの連絡先 (URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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