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救急搬送の困難件数が過去最多水準 第6波で救急医療を維持できるか

倉原優呼吸器内科医
(筆者撮影)

オミクロン株の感染が広がっています。今後、救急外来を受診しようとしても、沖縄のように受診が制限されてしまう可能性があります。

新型コロナ第4波・5波は重症化する患者さんが多かったため、重症病床や軽症中等症病床が不足することで医療が逼迫してしまいました。長期化することで、そのほかの疾患の診療さえも制限されてしまう事態に陥りました。

今回の第6波では、ほとんどが軽症ですが、とにかく数が多い。この「数の力」により、医療機関の内部から瓦解するように医療逼迫が急速に進んでいます(図1)。

図1. オミクロン株による医療逼迫の懸念(筆者作成)
図1. オミクロン株による医療逼迫の懸念(筆者作成)

救急搬送の困難件数が増加

実際、現在医療逼迫のさなかにある沖縄県では、救急搬送が困難となる事例が出ているようです。まったく新型コロナと関係ない疾患で搬送されても、新型コロナの検査が陽性になる事例があり、油断できません。交通事故や心筋梗塞といった緊急処置が必要な患者さんの待機時間が長くなると、死亡リスクも上がってしまいます。そのため沖縄県では、不要不急の救急車夜間利用を控えるよう呼びかけられています。

オ―ストラリアでは救急隊員自身にも感染が広がっており、救急出動要請件数が出動可能な救急車の数を上回る状態に陥ったそうです。アメリカでも、救急車が足りないことから、消防車を使って搬送している州もあります。

さて、東京では「東京ルール」という指標があります。これは、救急車の要請があったときに、「救急隊による5つの医療機関への受入要請または選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案」のことを指します。東京ルール適用件数がコロナ禍の最多件数に到達し、医療逼迫に苦しんだ第5波の水準になりました(図2)(1月16日追記)。

図2.1月14日公表時点における東京ルールの適用件数と7日移動平均線(参考資料1より作成)
図2.1月14日公表時点における東京ルールの適用件数と7日移動平均線(参考資料1より作成)

年始までの搬送困難件数の内訳を見てみると、6分の1くらいがコロナ疑い事案であり、週ごとに増加傾向です(2)。「発熱、咳、呼吸困難があり新型コロナの疑いが否定できません」と言われると、私たち医療従事者は全身に個人防護具を着用する必要があり、通常の救急対応はできません。他の患者さんの対応中ならば、新型コロナ対応が可能な別病院に搬送をお願いせざるを得ないこともあります。

救急隊員にオミクロン株の感染が広がってしまうと、救急車の出動自体が今後制限されてしまうリスクもあります。

新規感染者が増えると救急医療は逼迫

2021年11月に発表された、興味深いデータを紹介します(3)。コロナ禍前である2019年と比較して、2020年の東京都の救急搬送がどうだったかを振り返った論文です。

1日あたり平均搬送困難件数は57件から89件と1年間で有意に増加し、救急隊員の現場滞在時間も20.7分から22.7分へ2分延長したことが示されました。救急医療における2分というのは決して軽視できる数字ではありません。実際に、院外心停止の生存率が6.3%から4.7%に低下していることも報告されました。

また、1日あたりの新型コロナ新規患者数が1,000人増えるごとに、搬送困難件数が86.4件増え、救急隊員の現場滞在時間も3.48分延長することも示されています(図3)。すなわち、新型コロナの新規感染者が増えると救急医療が逼迫するということが言えます。

図3. 新型コロナ新規感染者数が増えるほど救急隊の逼迫度は大きくなる(参考資料3より)
図3. 新型コロナ新規感染者数が増えるほど救急隊の逼迫度は大きくなる(参考資料3より)

まとめ

すでにオミクロン株の流行がピークアウトしている国が出始めています。短い期間で嵐が通り過ぎるのであれば、医療の逼迫は限られた地域だけのものに終わるかもしれません。

しかし、波が高くなればなるほど、広範囲かつ長期に医療が逼迫する懸念があります。迅速に3回目のブースター接種をすすめ、基本的な感染対策を継続することが重要です。

(参考)

(1)救急医療の東京ルールの適用件数(URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/

(2) 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査(抽出)の結果 (各週比較) (URL:https://www.fdma.go.jp/disaster/coronavirus/items/coronavirus_kekka.pdf

(3) Igarashi Y, et al. Acute Med Surg. 2021 Nov 19;8(1):e709.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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