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呼吸器の病気は低温・乾燥の冬に本当に増えるのか?

倉原優呼吸器内科医
(写真:UTS/イメージマート)

はじめに

気温が下がって乾燥する冬になると、コンコンと咳をする人が増えるイメージがあります。その全員に新型コロナを疑うわけではなく、中には喘息やたばこによる慢性閉塞性肺疾患(COPD:いわゆる肺気腫)の患者さんもおられます。

さて、冬になると呼吸器の病気は増えるのでしょうか?

「冬に呼吸器感染症にかかりやすい」は正しい

新型コロナ以外のウイルス性感冒、いわゆる「風邪」は冬に多いことが分かっています。たとえば、代表的な原因ウイルスであるライノウイルスは冬に悪化しやすいということが分かっています(1)。

ウィスコンシン州衛生研究所が興味深い研究結果を最近発表しています(2)。季節性インフルエンザが1~2月にピークを迎えることは既に知られたことですが、新型コロナのパンデミック前のデータをみると、風邪の原因ウイルスは確かに12~1月に多いのです(図1)。そして、興味深いのは、新型コロナのパンデミックに入った後、風邪ウイルス陽性数の報告が激減したことです。

図1. ウィスコンシン州における風邪ウイルスの動向(参考資料2より引用)
図1. ウィスコンシン州における風邪ウイルスの動向(参考資料2より引用)

これは、新型コロナ対策が風邪ウイルスに対しても効果を発揮したこと、感冒症状があっても基本的に新型コロナの検査を優先したこと、軽症ならば受診しない傾向があったこと、などが原因と思われます。

保健機関ではなく、病院の救急外来ベースで同様のデータをとってみても、新型コロナパンデミック後は呼吸器系ウイルス感染症の受診者数が明確に減少していることが示されています(3)。

「温度」と「湿度」の影響

呼吸器系の症状が冬に増える理由として、よく「温度」と「湿度」が議論されます。日本は梅雨から夏場はかなり湿潤な気候ですが、冬は湿度が低く乾燥します。ウイルス中の水分が蒸発して比重が軽くなり、空気中にウイルスがフヨフヨと浮遊しやすくなります。また、湿度が低い環境では、気管支の線毛運動が低下したり、組織障害を修復する機能が低下したりすることが示されています(4)。体温が下がると抵抗力も落ちますので、相乗的に作用して冬に呼吸器感染症が増えるのではないかと考えられています。

コロナ禍以前から、たとえばインフルエンザウイルス(5)やライノウイルス(6)は、低温・乾燥の環境下で感染しやすいことが示されてきました。特に極寒の中運動すると、呼吸数が増えて、さらに気道の温度が低下します(7)。この際、ウイルスに曝露することで感染するリスクが上がります。

寒冷地では、そもそもウイルス自体が生存しにくい環境でもあることから、理論通りにすべてが運ぶわけではありません。色々な条件が絡んできます。そのため、温度や湿度が高いアフリカでもインフルエンザなどの風邪ウイルスは流行することがあります(8)。

冬に多くなる呼吸器疾患

感染症以外の代表的な呼吸器疾患といえば、喘息とたばこによるCOPDです。これらも実は、冬に症状が悪化しやすいとされています。

喘息は温度が低下する冬に気管支が攣縮しやすいとされており(9)、喘息発作による入院も冬に多いことが知られています(10)。また、COPDが何らかの原因で急速に悪くなる現象(増悪)についても、冬に多くなると報告されています(11, 12)(図2)。

図2. 月ごとのCOPDの増悪頻度(参考資料12より引用)
図2. 月ごとのCOPDの増悪頻度(参考資料12より引用)

しかし、アレルゲンが絡む場合、たとえば春~梅雨にかけても喘息の症状が悪くなるピークが存在します(13)。冬に多いという理論は正しいですが、「季節」以外にもたくさんのリスク因子が存在します。

まとめ:「季節」「気温」「湿度」よりも大事なこと

新型コロナは冬だけでなく高温多湿な夏にも流行しています。これは、新型コロナが感染性が強いウイルスであることから、「季節」以外の要因が重要だからです。ワクチンを接種していない人が大人数で集まるなどの行動は、「季節性」を跳ね飛ばすほどリスクが上昇してしまいます。

エアコンや加湿器をかけて密閉した部屋の温度・湿度を管理するだけでなく、感染拡大期には、大勢が集まって密にならないよう注意し、定期的に窓を開けて換気するほうが大事と考えられます(14)。

(参考資料)

(1) Lee WM, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2012 Nov 1;186(9):886-91.

(2) Lepak AJ, et al. JAMA Intern Med. 2021 Oct 1;181(10):1399-1402.

(3) Rodgers L, et al. Clin Infect Dis. 2021 Jul 15;73(Suppl 1):S110-S117.

(4) Kudo E, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 May 28;116(22):10905-10910.

(5) Park JE, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2020 Jan;14(1):11-18.

(6) Ikäheimo TM, et al. Viruses. 2016 Sep 2;8(9):244.

(7) Jaeger JJ, et al. Med Sci Sports Exerc. 1980;12(5):365-9.

(8) Yang W, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2018 Jul;12(4):446-456.

(9) Cong X, et al. Environ Sci Pollut Res Int. 2017 Oct;24(28):22535-22546.

(10) Gonzalez-Barcala FJ, et al. Multidiscip Respir Med. 2011 Apr 30;6(2):82-6.

(11) Donaldson GC, et al. Chest. 2012 Jan;141(1):94-100.

(12) Jenkins CR, et al. Eur Respir J. 2012 Jan;39(1):38-45.

(13) Voelker R. JAMA. 2012 Jul 4;308(1):20.

(14) Aganovic A, et al. Build Environ. 2021 Nov;205:108278.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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