WHOが警鐘 コロナ禍で増加に転じた結核死者数
結核診療医の嫌な予感
2020年、2021年の感染症死者数のうち、最多はもちろん新型コロナですが、第2位は結核(約150万人)です。
結核は、ヒトからヒトへ空気感染する感染症です。「根絶された昔の感染症」と誤解されやすいですが、日本でも多くの結核患者さんがいます。2030年までに終息させることを目標に、WHO主導で世界的に結核を減らしてきました。
戦後からすすめられてきた結核予防法(現在は感染症法に統合)に基づく結核対策の効果もあり、日本の結核患者数も年々減少しつつあります。コロナ禍に入ってから、新しく結核と診断された患者数がさらに減っています(図1)。
結核の低まん延化がすすんでいるならありがたいことです。コロナ禍において、接触機会が減り感染対策が徹底されることで伝播が減少したという側面もあります。結核診療医は心のどこかで「水面下で受診の遅れが始まっているのではないか」という懸念がありました。
医療アクセス自体が容易な日本ではそこまで問題になりませんが、世界的には受診遅れが顕著であったことが示されました。嫌な予感が的中してしまいました。
世界的に増加に転じた結核死者数
2021年10月14日に発表されたWHOの「世界結核レポート2021年版」(1)によると、結核の死者数が16年ぶりに増加に転じたという衝撃の事実が明らかになりました(図2)。どういうことかというと、新型コロナのパンデミックによる患者さんの受診控え・医療機関アクセス困難が影響し、死者数が増加したということです。
結核は、健診で肺に陰影を指摘されたり微熱や咳などの症状が続いたりして発見されることが多いですが、コロナ禍では病院に足を運ぶ閾値がかなり高くなっています。そのため、本来早期に診断されるはずだった結核患者さんが、ひどい状態で受診することがあります。
世界の推定結核患者数の約7割を占める16ヶ国のモデルでは、新型コロナによる超過的結核死亡の影響は2021年が最大と考えられていますが(図3)、2022年もまだまだ高い水準にあります。この影響は、今後数年続く可能性が高そうです。
長引く呼吸器症状に注意
結核は誰しも感染する可能性があります。免疫が低下した高齢者や糖尿病の患者さんに合併しやすいのは確かですが、基礎疾患のない若い人も結核を発病することはよくあります。
結核は、新型コロナのように激烈な症状が出ません。長引く呼吸器症状が放置され、「今は新型コロナで病院には行きにくいし」ということで受診を控えてしまい、診断が遅れてしまうケースはしばしばあります。「ちょっと風邪が長引いている」「最近喘息っぽい」など、決めつけないよう注意してください。
結核は、治療期間が最低半年におよぶやっかいな感染症であるため、早く見つけて治療することが重要です。安全性が確立された有効な抗結核薬があるため、耐性菌の少ない日本では結核のほとんどをしっかり治すことができます。
(参考)
(1) WHO:Global tuberculosis report 2021(URL:https://www.who.int/publications/i/item/9789240037021)