Yahoo!ニュース

肥満は新型コロナを重症化させるだけでなく、後遺症やワクチンの効果にも影響

倉原優呼吸器内科医
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

肥満は新型コロナを重症化させる

肥満というのは、ボディマス指数(BMI)で定義されます。「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で算出しますが、日本では25以上と定義されているものの、WHOの国際基準では30以上と定義されます。みなさんも一度自分のBMIを計算してみてください。

肥満と新型コロナの関係はすでに知られたところです。新型コロナ陽性になるリスクや入院・死亡のリスクがかなり高くなります(1,2)。

大阪府の吉村知事の会見で提示されたフリップによると、第5波の重症者におけるBMI30以上の比率は11.7%で、国民健康・栄養調査報告における比率3.8%の約3倍だったことが示されています(3)(図1)。特に40代以下の重症者におけるBMI30以上の比率は、22.7%と極めて高い結果でした。

図1. 第5波におけるBMI30以上の比率(参考資料3より引用)
図1. 第5波におけるBMI30以上の比率(参考資料3より引用)

肥満は新型コロナの後遺症を長引かせる

新型コロナに感染した医療従事者352人を観察した研究があります(4)。入院が必要になったのは3人(0.8%)だけだったのですが、後遺症のために5週間以内に復職できなかった人が150人以上おり、BMIが25を超えている人が有意に多いという結果でした。

肥満患者さんのほうが新型コロナは重症化しやすいため、それゆえ後遺症もズルズルと長引いてしまうという因果関係になっているのかもしれません。実際、退院した肥満の新型コロナ患者さんでは、回復後も肺炎が目立って残存しているというデータがあります(5)。

肥満は新型コロナワクチンの効果を減弱させる

ファイザー社製の新型コロナワクチンを接種した医療従事者における抗体価を観察したイタリアの研究では、腹囲が大きい被験者ほど2回目のワクチン接種から1~4週間後の抗体価が低いことが分かりました(6)。

同様に、ファイザー社製ワクチンの抗体価をみた研究があります(7)(ただしこれは査読前論文)。男性で腹囲94cm以上、女性で腹囲80cm以上を腹部肥満と定義した場合、腹部肥満がある未感染者では、中和抗体が獲得されにくかったのです(図2)。

図2. 腹部肥満と新型ワクチン接種後の中和抗体価の関係(参考資料7より引用)
図2. 腹部肥満と新型ワクチン接種後の中和抗体価の関係(参考資料7より引用)

とはいえ、感染を予防する基本的な効果は保証されており、重症化予防効果については長期間期待されることから、「どうせ肥満だから」と悲嘆にくれる必要はありません。3回目以降の新型コロナワクチン接種が必要な集団を議論する際、役立つデータになるということです。

複数のリスクが相互に悪影響

新型コロナと向き合って1年半以上が経過しますが、初期から現場でハイリスクと実感しているのが、肥満糖尿病男性です。BMI30以上の肥満では、重症化リスクが高くなり、複数が該当するとそれだけリスクも上昇します(8)(図3)。高齢者もリスク因子とされてきましたが、現時点ではワクチン接種率が高い層であり、重症化している人はコロナ病棟にはほとんどいません。

図3. リスク因子が多いほど入院治療・集中治療のリスクは高くなる(参考資料8より引用)
図3. リスク因子が多いほど入院治療・集中治療のリスクは高くなる(参考資料8より引用)

コロナ病棟でも「そういえばこの1年体重が増えていた」と言う患者さんは多いです。外出することが減ってしまっているコロナ禍、自身の体重コントロールには注意しましょう。

(参考)

(1) Popkin BM, et al. Obes Rev. 2020 Nov;21(11):e13128.

(2) Cai Z, et al. BMC Public Health. 2021 Aug 4;21(1):1505.

(3) 知事の記者会見(令和3年度), 令和3年(2021年)9月8日(URL:https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/35718/00391912/0908.pdf

(4) Vimercati L, et al. J Clin Med. 2021; 10:4143.

(5) Shang L, et al. Immun Inflamm Dis. 2021 Sep 9. doi: 10.1002/iid3.522.

(6) Watanabe M, et al. Diabetes Metab Res Rev. 2021 May 6;e3465.

(7) Malavazos AE, et al. medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.09.10.21262710

(8) Ando W, et al. Sci Rep. 2021 Sep 9;11(1):17968.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

倉原優の最近の記事