★記事をアップデートしています(2022年1月22日):『新型コロナを5類感染症にすべきか? オミクロン株で高まる「5類」論』(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220122-00278274

「5類感染症」論

現在、新型コロナを季節性インフルエンザ並みの5類感染症にダウングレードすることが検討されています。これは、保健所・行政や入院病床の負担から生まれた議論であって、決して新型コロナが季節性インフルエンザ並みに軽症だというわけではありません

このテーマ、専門家の間でもかなり意見が分かれています。今すぐにでも5類感染症へという意見は「ウィズコロナ」、まだ早計だという意見は「感染の抑制・収束」を想定しているためです。

「感染症法」では、症状の重症度や病原微生物の感染力などから、感染症を「1類~5類感染症」の5段階と「新型インフルエンザ等感染症」「新感染症」「指定感染症」の3種類の合計8区分に分類しています()。

表. 感染症法の「感染症」(筆者作成)
表. 感染症法の「感染症」(筆者作成)

新型コロナは、症状がない陽性者を含めた入院勧告や就業制限、濃厚接触者や感染者の追跡などの対応が必要な、指定感染症の1~2類相当として扱われてきました。2021年2月から「新型インフルエンザ等感染症(※)」という枠組みに変更され、これは感染症法における「特例枠」です。法改正に時間を要するため、柔軟に運用できるよう、新興感染症については特例枠が設けられています。

※現時点で「新型インフルエンザ等感染症」とは、新型インフルエンザ感染症、再興型インフルエンザ感染症、新型コロナウイルス感染症、再興型コロナウイルス感染症のことを指します。

5類感染症へのダウングレードについては賛否両論あるかと思いますが、日本全体で不幸せになる感染者が増えないよう運用しやすい枠組みにすることが重要です。みなさんが向いている未来はきっと同じ方向なので、丁寧な議論を重ねていただきたいところです。

個人的な意見を書くと、ワクチン接種がすすみ、国民の理解が得られるようであれば、どこかのタイミングで枠組みを変えることはありだと思います。ただ、「今すぐ一気に5類感染症にしましょう」ではなく、何を残して何を変えるかを話し合い、部分的な変更を検討すべきと考えます。

さて、もし今すぐ5類感染症にダウングレードすると、医療現場はどのようになるでしょうか。

保健所・行政の負担が軽減

5類感染症にすると、入院勧告や感染者の追跡が不要になります。現在、多くの保健所でおこなわれている療養者への電話や入院調整などの業務が軽減し、保健所・行政の負担が緩和されるでしょう。しかし一方で、国民に向けて自粛の要請が出せなくなります。特措法も適用できません。

感染者数の増加

5類感染症にすると、上述したように、保健所による入院勧告や感染者の追跡はなくなりますが、自宅待機要請・入院要請もできなくなることから、再生産数が高い変異ウイルスが相手では残念ながら全体の感染者数は増えると考えられます(ワクチンの接種がすすめばこの限りではありません)。

水面下で感染者数が増えると、残念ながら中等症者・重症者も増えるでしょう。これまでの欧米の感染者数・死者数をみると、政府が5類感染症論に慎重になるのは致し方ないことかと思います。

問題は、どのくらい増えるのかなかなか予測が難しいという点です。

写真:アフロ

医療従事者の負担は?

感染者数が増えれば、下気道に親和性が高い病原微生物であることから、両肺の肺炎を起こす患者さんの絶対数も比例して増えます。医療逼迫度は、単純に感染者数と入院を要する確率の積で決まりますので、感染拡大によっては全国のICUに人工呼吸器を装着された新型コロナ患者さんがたくさん入室するという事態が起こるかもしれません。ICUベッドが逼迫すると、外科手術や救急医療に差し障りがでてきます。

5類感染症に分類を変えたとしても、1年半以上も対峙している新型コロナに対する警戒感はそう変わりませんし、致死率が季節性インフルエンザよりはるかに高いことから(1)、現場運用としては個人防護具の装着やゾーニングは継続されるでしょう(季節性インフルエンザと同等でよいと通達が出ても現時点では現場は間違いなく反対します)。そのため、結局病院には「新型コロナ病床」を残さざるを得ないのが現実かと思います。

また、これまで新型コロナ確定例を診てこなかった病院で個人防護具を適切に着脱して毎日の入院ケアが可能かと言うと、なかなかハードルが高いと思っています。全国で院内クラスターの数も増えるかもしれません。

新型コロナ患者さんがいろいろな病院に分散されるため、短期的には新型コロナの診療で疲弊している病院の業務負担は減るでしょう。しかし、肺炎患者さんの絶対数が増えてくると、しばらくして急性期病院が多忙になるかもしれません。中規模の急性期病院が新型コロナだらけ、という事態に陥る可能性があります。

医療費の自己負担が増える

現在の枠組みでは医療費はすべて公費で負担されています。そのため、PCR検査を受けても、コロナ病棟に入院しても、高額な点滴治療を受けても、お金はかかりません。

しかし、5類感染症にした場合、検査費用(PCR検査、画像検査、血液検査など)、治療(例:レムデシビルは5日治療で約38万円の薬価)、酸素投与、人工呼吸管理などは最低3割負担の支払いになります。医療費が高額になるため、おそらく高額療養費制度を用いることになりますが、それでも「えっ、こんなに高いの!」とビックリする自己負担額になることは間違いありません。

特例として、新型コロナはしばらく公費で補うなどの例外を作ることができれば、この問題は解決するかもしれません。

まとめ

これまでにない感染力と致死性を持った感染症であるため、現行の枠組みでも形骸化している部分が多い新型コロナ。

波ごとに起こる医療逼迫を払拭するべく広く国民・医療機関に新型コロナを受け入れてもらう「5類感染症へのダウングレード」による感染者数増加が生む害と、現行のままの医療機関で診療して入院させられない新型コロナ患者さんを生んでしまう害の、どちらが日本にとってましかという話になります。

田村厚生労働大臣は「ワクチン接種がより進んだ場合に見直しを検討するような必要がある」とおっしゃっています。

もし5類感染症にダウングレードするにしても、全体の実効再生産数が明確に減る施策が稼働している状態で、部分的に5類感染症の方向へ寄せていく話し合いが肝要だと思います。あるいは制度的には現行のまま内容を5類感染症に近づける、などの案も考えられます。

(参考)

(1)Talbot H, et al. Clin Infect Dis. 2021 May 29;ciab123.