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コロナにかかって隔離期間が明けたあとの話 ”Covid-19 Aftermath” -前編-

國松淳和日本内科学会総合内科専門医, 日本リウマチ学会リウマチ専門医
(写真:CavanImages/イメージマート)

國松です。

コロナ禍の医療現場人としては、このあとコロナ禍の余波aftermath)が来て、グッと増えてくるだろう「コロナにかかった人たちとその周辺の人たち」の健康問題を、今から案じております。

今回は「コロナにかかった人」というテーマで真面目にまとめたいと思います。特に、症状が起きて新型コロナウイルスの遺伝子検査を行って、陽性の判定を受けたという人のうち、

・入院の必要のないと言われた人

・入院はしたが、比較的ことなきを得て退院した人

・入院はしたが、重症とは言われず退院した人

・入院はしたが、酸素やステロイドやレムデシビルなども投与されず、無事退院した人

などを想定していることをはじめに申し述べます。

■新型コロナウイルスに感染した人が、他の人に感染させてしまう可能性がある期間はいつまでか

まずは「どれくらい経てば大丈夫か」という話です。

しかしこれはもう、すでに色々と情報が発信されていますので簡単にまとめるだけにします。

まずは厚生労働省のウェブサイトこちらの記事をご覧ください。

(2020年12月時点) 新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識

この記事の中の”10個のQ”のうち、「5」に対する回答が明快です。抜粋します。

新型コロナウイルスに感染した人が他の人に感染させてしまう可能性がある期間は、発症の2日前から発症後7〜10日間程度とされています。また、この期間のうち、発症の直前・直後で特にウイルス排出量が高くなると考えられています。

つまり、症状が発症した日から数えて10日間を過ぎれば他の人への感染性は大丈夫ということになります。

このことは、現在の「隔離解除」や「退院」の目安にもなっています。

より詳しいこと・大枠をより専門的に知りたい方は、

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第 4.1 版」

新型コロナウイルスに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)

・・・などを参照ください。医療者は、現状これらの内容に基づいて決めております。

■コロナにかかり、隔離期間が明けたあとで

さあここからが本題です。

先ほどお示しした「手引き」から、「退院基準」のところの一部を抜粋します。

1. 有症状者の場合

  1. 発症日から10日間経過し,かつ,症状軽快後72時間経過した場合,退院可能とする.
  2. 症状軽快後24時間経過した後,PCR 検査または抗原定量検査で24 時間以上間隔をあけ,2回の陰性を確認できれば,退院可能とする.

ここで要注目なのが、「軽快」という言葉です。ここが「消失」ではないというところがポイントです。症状消失後ではなく、症状軽快後なのです。

つまり、退院時(ひいては隔離解除時)に症状が完璧に無くなってゼロになっていることを前提にしていないのです。

知っている人も多いと思いますが、コロナ感染後に症状が続いてしまう人がいます。

イメージしにくいでしょうか?

コロナウイルスが体から排出して他人へうつるリスクはもうないけれど、その当人に症状がまだ続いてしまっているという状況です。

このあたりは我らが忽那先生がすでにまとめられております。素晴らしいですね。

症状、予防、経過と治療… 新型コロナウイルス感染症とは? 現時点で分かっていること(2021年1月)

日本からの新型コロナ後遺症の報告 約2割が発症約1~4ヶ月後に脱毛の症状も

あるいは忽那先生が所属する国立国際医療研究センターのグループが日本人のデータで論文にすでにまとめられています。素晴らしいですね。

ここでは、こちらの記事の、新型コロナの後遺症「LONG COVID」のところの(1)〜(4)を抜粋しておきます。

(1) 肺、心臓への恒久的障害

(2) 集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)

(3) ウイルス後疲労症候群(post-viral fatigue syndrome)

(4) 持続するCOVID-19の症状

今回はじめに予告しましたように、この記事で私が意識したのは比較的症状が軽かったコロナ患者さんのことでした。

するとこの中で言うと、(3)(4)に相当する(あるいはこれに近い)人たちになります。きっとこういう人はたくさんいるのではないでしょうか。

私は、このような人たちが今後増えていきそしてそれらの症状がうまく対処されないままでいるということを懸念しています。

  • 実際にコロナにかかり「もう大丈夫」と病院や保健所からは言われたけどまだ症状があるし心配だという人。
  • その心配を、近所の人や知人、(場合によっては!)職場や学校などに言うことができずにいる人。
  • またその心配を聞かされた身内・家族、あるいは友人。
  • コロナにかかったことが近所・地域の人や周囲の人や遠い親戚などに無用に知れ渡り、しかもその人らに合理的な根拠のない偏見の言葉を言われたりばい菌のような扱いを受けたりした人。
  • 概ね日常生活は普通にやれるけれど、微妙に嗅覚が戻らなかったり、気落ちしたりしてしまい、日々の生活がいまだに冴えない人。

こういう人たちが、”コロナ感染”が終わった後も、人知れず、静かに、我慢や不安を強いられているのではないでしょうか。

コロナにかかり、隔離期間が明けたあとでも、なおも尾を引くこのコロナ。とても嫌なウイルスですよね。

以上で前編は終わりです。

確かで正確な知識を得ることが、偏見をなくします。不安や恐怖に負け、知識を得ることを放棄した人が、偏見に満ちた行動や言動をとります。

ただ、そんな人たち自身もまた、ただ不安で心配なのです。

みんなでなんとか助け合いたいものです。

次回の後編では、コロナ感染後、隔離状態が終わった後でもなお残る諸症状を、臨床医として私が実際にどうみているか、どう取り組もうとしているかについて、説明していこうと思います。

(記事は後編に続きます)

日本内科学会総合内科専門医, 日本リウマチ学会リウマチ専門医

内科医(総合内科専門医・リウマチ専門医)/医書書き。2005年~現・国立国際医療研究センター病院膠原病科, 2011年~同院総合診療科。2018年~医療法人社団永生会南多摩病院総合内科・膠原病内科部長。不明熱や不定愁訴, 「うちの科じゃない」といった臨床問題を扱っているうちわけがわからなくなり「臓器不定科」を自称するようになる。不定, 不明, 難治性な病態の診断・治療が専門といえば専門。それらを通して得た経験と臨床知を本にして出版することがもう1つの生業になっており, 医学書の著作は多い。愛知県出身。座右の銘:特になし。※発信内容は個人のものであり, 所属した・している施設とは無関係です。

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