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増収大幅増益のユニクロ柳井社長、ロシア、中国ゼロコロナ、インフレ・値上げ、円安、成長、社会貢献を語る

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
ロシアでの事業停止を前に大行列ができたモスクワのユニクロ店舗(写真:ロイター/アフロ)

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの2022年8月期上期の連結業績は、売上高が1兆2189億円(前年同期比1.3%増)、営業利益1892億円(同12.7%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益は1468億円(同38.7%増)と増収、大幅な増益を達成。営業利益は過去最高を更新した。インフレや中国でのゼロコロナ政策、ロシアでの事業停止など、厳しい局面が続くが、「下期からは攻めの商売を行う」(岡崎健CFO)として、2022年8月期通期も、売上高2兆2000億円(前期比3.1%増)、営業利益2700億円(同8.4%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益1900億円(同11.9%増)と増収増益を見込む。決算会見に登壇した柳井正会長兼社長は、今何が最も重要だと考えているのか。今後どのような考え方で経営を進めていくのか。「ファーストリテイリング 今後の展望」と題したプレゼンテーションと、記者陣からの質疑応答をほぼ全文掲載する。

2022年8月期上期の決算説明会に登壇したファーストリテイリングの柳井正会長兼社長  筆者撮影
2022年8月期上期の決算説明会に登壇したファーストリテイリングの柳井正会長兼社長  筆者撮影

柳井正会長兼社長「ファーストリテイリング 今後の展望」

▼本気で次の成長を目指す

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、一部の国で依然として拡大の傾向がみられるものの、日本を含む多くの国では感染拡大に警戒しつつ、正常な経済活動や日常生活を取り戻そうとしている。これからウィズコロナの時代に入っていく。この2年間、お客様や従業員の感染防止、国内外の移動制限、物流の混乱といった要因から、ビジネスが思い通り展開できない状況だった。しかし、今からはコロナ後の新しい時代に向けて、あらためて本気で次の成長を目指していく。

▼積極的な出店を再開

今年の年頭に私はファーストリテイリングの年度方針を「世界で稼ぐ」とした。私たちがお客様に提供しているLifeWear、つまり快適で豊かな生活を実現する高品質な日常着を世界中の様々な国や地域で、現地の人々と一緒に作って売っていく。この姿勢をより徹底していく。コロナの影響で世界各地での新規出店のペースが落ちていたが、今期から積極的な出店を再開し、近い将来に、全世界に年間で400~500店舗を作りたい。同時に店舗とECの融合を世界各地で高いレベルで実現していく。工場、倉庫、店頭のすべての在庫を一元化し、商品の企画から生産、物流、販売の動向をお客様のご意見やご要望などあらゆる状況を瞬時に把握し、その情報をもとに世界各地域のヘッドクオーターが現場で直接経営判断していく体制を構築する。そして、世界各地で集めた情報に基づいて即座にそれを商品化し、優れた技術を持つ世界中の生産パートナーと協力し、新たな売れ筋商品を開発していく。今月21日、ロンドンのリージェントストリートに「ユニクロ」と「セオリー」が同居する欧州で初の店舗がオープンする。今後、イタリアやスペイン、ドイツでも出店していく。アメリカでも東南アジアでも中国と同様に、服のカテゴリーで圧倒的なトップ企業となり、世界各国で数百以上の規模を実現する。

▼世界No.1を目指す

そして、世界ナンバーワンのカジュアル企業を本気で目指す。そのための鍵を握るのは人材だ。世界各地で今後の会社の経営を任せられる人材が次々と育っている。私の経営を引き継ぐ次代の体制も大枠は固まってきている。世界各地で圧倒的な成長を成し遂げるために、立派に経営が遂行できる体制ができつつある。その点、私は何も心配していない。

▼企業は世の中にとって良いことをする存在

企業の最大の意義は、継続にある。10年後、20年後、30年後、さらに、次の世代まで見据えた経営を志向する。それが本当のガバナンスであると思う。そして、上場企業の最大の目的は、成長して収益を上げることだ。目先の会計年度ばかり考える近視眼的な経営に陥らず、良い意味でのオーナーシップを維持し、より高い収益を上げ、株主の利益を守る。少数株主の利益にも引き続き十分な配慮をしていく。そのために、もっとも重要なのは、企業とは世の中にとって良いことをする存在でなければならないということ。まず、私たちの本業である服の事業そのものを通じて、世界中のあらゆる人により快適で豊かな生活を実現することを徹底的に追求していく。

▼社会の問題解決に取り組む

さらに、サプライチェーンにおける人権や労働環境の尊重、気候変動などの地球環境問題、障害者雇用、難民支援といった社会的問題解決への取り組みをより積極的に進める。現在、ファーストリテイリングは世界27の国と地域に3500店舗以上を展開し、中国やアジアを中心に数多くの国々に生産パートナーが存在する。これらの地域では、現地のパートナーと一緒になって多くの社員がボランティアとして社会貢献活動に参加している。現地の社会に溶け込んでいる。しかしながら、こうした取り組みはまだ十分ではなく、出発点に立ったところだが、今後さらに力を入れていく。

▼あらゆる戦争に強く反対する

私はあらゆる戦争に強く反対する。人々の人権を侵害し、平穏な生活を脅かすいかなる攻撃をも非難する。現在、行われている戦争を即座に停止し、国家間の深刻な対立をいかに解消し、平和な世界を作るのか、どうすれば世界中の人々が幸せに暮らすことができるのか、真剣にその方法を考えなければならない。とくに、日本はその役割を積極的に担うべきだと考える。

▼企業こそが平和をつくる

その点で、企業の果たすべき役割は非常に大きいものがある。企業にできることは限りがあるのではなく、企業にしかできないことがたくさんある。そう考え、行動するべきだ。暴力で解決できることは何一つない。憎しみ合って対立構造をつくるのではなく、世界の人々が協調する。そのために企業としてできることを最大限やる。国は分断されても企業は分断されていない。むしろ、分断を解消し、お互いの理解と融合を深めるのが企業活動だ。

▼平和な世界の実現に最大限の支援を継続

私たちの服の産業は平和産業だ。人々の暮らしをより豊かに楽しく快適にする産業だ。私たちの使命は、快適な普段着を継続的に人々に提供することにある。現在のように混迷した状況であっても、平和な社会の実現のために一つひとつの企業、一人ひとりの個人が最大の努力をするべきだ。そのために私たちは世界各地で安定的に事業を継続し、経済の成長、雇用の確保に努力するとともに、緊急事態に対応するため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて1000万ドル(約12億円)の寄付を行い、20万点の衣料を提供している。ヨーロッパ各地で多数の従業員有志がウクライナからの避難民のみなさんに直接日常の服をお届けする活動を始めている。戦火に見舞われている方々の境遇に深く思いを寄せ、今後も最大限の支援を続けていく。

▼自分たちの力で未来をつくる

平和は黙っていてもやってこない。世界が一つにつながっている現在、違う国のことだから、自分は民間人だからと傍観者になることはできない。(ファーストリテイリングのステートメントである)「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。私たちの提供するLifeWear、そして、その基本となるMADE FOR ALL(メード・フォー・オール)の核心は、服を通じて社会を変え、より良い社会をつくっていくこと自体にある。平和な世界が実現しない限り、グローバルな企業として私たちが成長することは不可能だ。冒頭に申し上げた世界ナンバーワン(になること)も何の意味ももっていない。

▼国際機関との協力関係をいっそう強化していく

私たちはこれまでの活動を通じて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連女性機関(UNウィメン)、国際労働機関(ILO)などの国際機関と長い協力関係がある。さらに社会貢献を目的に活動する各国の民間団体、個人、世界中の心ある投資家の方々とも連携できる関係にある。豊かで安定した社会の実現を他人任せにするのではなく、世界中のあらゆる人々との協働を通じて自分たちの力で未来をつくり出す。そのような考え方に立って今後も積極的に行動していく。

▼繁栄の時代が必ず来る

厳しい現実はあっても、人類は必ずその困難を克服し、新しい平和で繁栄した時代が来ると私は確信している。アジアを中心に40億人の新たな中産階級が誕生しつつある。この動きはとどまることはない。世界はアジアの時代に確実になる。発展途上国と先進国が協力してその流れを促進し、人々の生活をもっと良くする。自国の都合のみを考えた国益ファーストではなく、本当の自由主義、民主主義の世界を実現する主役は企業であり個人だ。あらためて自分たちは何のために商売をするのか。企業の存在意義とは何なのか。自分たちの原点を深く考え、より平和な世界とより良い生活の実現に努力していく。

【Q&A】

Q:「本気で次の成長を目指す」「企業こそ平和をつくる」と言っていた。ただ、今、国家間の安全保障の問題で国の対立がそれとは裏腹に高まっている。経済や景気にも影響を与えると思う。そうした状況をどんな風に見ていて、ファッション企業が何をすべきか、ファーストリテイリングという会社には何ができるのか?

柳井:今の状況は危機的な状況だと思うが、世界が全部潰れるわけではない。ヨーロッパで起きたことが全世界に瞬時に伝わっていることは素晴らしいこと。ある一カ所で起きたことが瞬時に伝わって世界中に影響しているという状況。そういうことを世界中の人がもっと認識すべきだと思う。それと、それぞれがやったことの本質が問われる時代になっていると思う。先ほど申し上げたように、私は民間企業だからできないとか、個人だからできない、ということではなくて、むしろ、国は国益などがあってなかなかやりたくてもできない。本当にやってやろうという人が少ないんじゃないかと思う。だから、民間企業や個人のほうがむしろ自由に(できると思う)。自由と民主主義の国だから。とくに日本はヨーロッパから見たらファーイースト、アメリカから見たらファーウエストみたいな(遠く離れた)国は何でもできるんじゃないかなと。アジアで一番最初に先進国になった国だし、ファッション(衣服)もアジアで一番最初にファッションになった国が日本だと思う。戦前から言えば、ヨーロッパ、戦後で言えば米国から最初のファッションが入ってきて、それを世界中(から取り入れて)うまく消化したのも日本なんじゃないかと思う。また、日本ほど情報に敏感な国はない。そういうところにいる企業としていろいろな活動ができるのではないかと思うし、単純にファッション企業だからどうということではなくて、企業として、あるいは、個人として、できないことを考えることよりも、できることを考えて実行することが大事なんじゃないかなと思う。

Q:日本という国家がやりたくてもできなくて、ファーストリテイリングという企業ができることは、具体的にどんなことがあるのか?

柳井:できないことは何にもない。どんなことでもできると思う。日本は国益とか、アメリカとの軍事同盟などいろいろな問題がある。やりたくてもできないことはあると思う。

Q:素材価格の高騰や物流コストの上昇などで価格維持が難しくなっている環境があると思うが、御社でも値上げに踏み切った商品がある中で、率直に今商品の値上げをどう考えているか?今後さらに追加で商品の値上げに踏み切らざるを得ないという考えはあるのか?

柳井:今の日本の経済情勢から考えると、安易な値上げはできないなと思う。やはり価格にすごく敏感だ。われわれ値上げはほとんどしていない。していない中で、これは値上がったなという情報がすぐ伝わるというのが今の現状だ。ただし、原材料が2倍とか、50%アップとか、ひどいものは3倍ぐらいになった。それを今のプライスで売るというのは不可能だ。われわれも上場企業なので当然だが、収益と成長を目指してやっていく中で、利益がなければそれはできない。うまくどうやって努力していくかということを考えてやる。もう一つ、ビジネスというのは先ほど申し上げたように会計年度別とかシーズン別に考えるのではなく、もっと長期で考えていろいろなことをやっていくということなので、今度の秋冬、さらにその次の春夏、考えて考え抜いたプライスになると思う。それが僕の答えだ。

Q:今後、やむを得ず商品の値上げに踏み切らざるを得ない、ということがあるという?

柳井:やむを得ない、というのは、ないんじゃないですかね。考えて考え抜いたプライスであればご理解していただけると思いますけど。

Q:中国のゼロコロナ政策が足元で展開されているが、中国国内の事業や国内に与える影響と今後の見通しについて教えてほしい。

柳井:ゼロコロナ政策自体で、中国でやられている現状に関しては、われわれやっぱり収益面や従業員の生活で大変困っている。ただし、これは国の政策なので、それぞれの国で違うと思う。だから早くコロナが収束する。これが一番大事なこと。これ、中国だけでは改善できないので、世界中で同時に改善していくことが必要なことだと考える。

Q:足元の見通しは?

岡崎:コロナの行動規制がどうなるかというのは、われわれが基本的にはコントロールできることではないが、今のところ、行動規制が起きている上海地区等のお店は休業を余儀なくされたり、上海港からの出荷が難しくなってきているであるとか、そういう個別の問題は出てきている。でも起きていることは仕方ないので、物流については他の港から運んできたり、お店は行動規制の最中は休業しているが、そうじゃない地域はかなり売り上げが戻っているので、それがあけて来れば売り上げも回復してくると思っている。ここはしっかりコロナ禍を乗り切っていただきたいし、短期的には業績に影響は当然中国においては出ているが、この下期全体を通してはそれほど大きな心配はしていない。

Q:ロシアでの事業について伺います。3月はじめの日経新聞のインタビューで、「衣料は生活の必需品で、ロシアの方も同様に生活する権利がある」とおっしゃっていて、営業を継続するのかなと受け取ったが、10日に一転して営業停止を決めた。なぜ営業停止に至ったのか、理由を説明してほしい。

柳井:僕がいうよりもCFOが申し上げたほうがいいと思うが、一言だけ言えるのは、やはり、状況をよく見極めて判断しなければならないということ。いろいろな面で事業継続が困難になった。商品が着かない(倉庫や店舗に入荷しない)、あるいは、紛争が非常に激しくなった、いろいろなことがあったと思う。それを総合的に判断してそういうことに至ったと考えている。

岡崎:当初からわれわれのスタンスは、「状況を注視しながら、われわれの使命というのは一般の人々に日常着を提供することであるし、現地の従業員に対する責任もあるので、営業はできうる限りは継続していく」というものだった。それは方針ということではなく、状況を注視するということだった。その中で、みなさんのご存知の通りだが、紛争の深刻化が進み、営業上、物流上の問題等々の現実的な問題もあったが、これを踏まえると、人々の平穏な日常が脅かされる状態ということもあるので、これ以上営業を継続すべきではないと会社として判断し、停止した。補足すると、日経で柳井のコメントが一部掲載されたということはあるが、もともと別件のインタビューの中で、3月2日、掲載されたものの1週間前に(取材されたもので)、当初、一般の人々に日常着を提供するのはわれわれの使命であり、現地従業員への責任もあるので、というのがわれわれの考え方だったが、そのコメントの一部がわれわれの意図せぬ形で拡散したこともあり、方針を変えたかのようにとらえられているかもしれないが、われわれとしては考え方は一貫しているし、基本的に現地を停止するというのは、紛争の深刻化と営業上の困難を踏まえて停止している、と。ステートメントで申し上げた通りの考え方だ。

Q:営業停止の決定が遅れたとは思うか?

柳井:遅れてはいないというふうに思う。

岡崎:現地とも常に、いろいろなところとも情報を交換し、柳井と私自身も含め……。

柳井:(岡崎CEOのコメントに割って入って)何かみなさん、ちょっと勘違いされているのではないかと思うが、今、コロナの影響で、いつでもどこでも誰とでもテレビ会議ができる。現地の状況も全部よくわかって、世界各地の状況も全部わかっている。ですので、遅れるということはあり得ない。

Q:円安に関連しての質問で、昨日(13日)為替が1ドル126円台を付けて20年ぶりの円安水準になったが、円安の影響の受け止めと、御社にとっては為替差益が235億円、業績の押し上げもあってメリットもある反面、国内の事業では原価の上昇など悪影響も出ていると思う。御社のビジネス環境はもちろん、日本経済全体を見たときの円安のメリット、デメリットをどう分析されているのか。

柳井:円安のメリットは、まったくない。日本全体から見たらデメリットばかりだと考える。今まで円安メリットみたいなことを言っていたのは企業の人だけ。それもけしてメリットではない。日本は世界中から原材料を入れて、加工して付加価値を付けて売る、という業務をやっている。その中で自国の通貨が安く評価されるということは、けしてプラスにならない。だから円安の行方に対しては僕は心配している。円安はこれ以上続くと日本の財政などが悪い方向に行くのではないかと考える。ですのでやっぱり、円安に行かないように、日本の財政をなんとかしないといけないんじゃないかなと私は考えますけど。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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