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モデルルームに「ジェラートピケ」や「エコストア」 女性市場に精通したマッシュ監修のマンションの見所

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
デザイン監修した「パークアクシス吾妻橋」。モデルルームもコーディネート/公式写真

コロナ禍のファッション・アパレル業界では、ユニクロ、GU、無印良品、ワークマン、西松屋チェーンが好調で、しまむらも復調する一方で、経営破綻や事業・ブランドの廃止やリストラを行う企業も相次ぎ、優勝劣敗が明確化している。とくに、百貨店や都市型ファッションビルなどで展開する中価格帯といわれるゾーンや、リモートワークや外出自粛の影響で、スーツをはじめとした通勤着やオンスタイルを中心に扱っている企業に苦戦しているところが多い。

そんな中でも健闘しているのが、「ウェルネスデザイン」をスローガンに、衣・美・食のジャンルで「女性の24時間を幸せにする」ことを目指す、マッシュホールディングスだ。2005年にファッション事業をスタートし、ルームウエア「ジェラート ピケ」を筆頭に、「スナイデル」やヨガウエアも扱う「エミ」、ナチュラル&オーガニックコスメのセレクトショップ「コスメキッチン」や、オリジナルのトータルビューティブランド「セルヴォーク」、フード事業などを展開。ルミネやパルコなどの都市型商業施設や百貨店でも主要なポジションを担うようになっている。売上高は2019年8月期で787億円(前期比11.8%増)。2020年8月期は下半期にコロナ禍に見舞われ、前年比3.2%減の762億円と一旦しゃがむ形となったが、今期はあらためて顧客や時代にアジャストし、830億円を狙っているところだ。

そんなマッシュが、ついに住関連事業に乗り出した。「これまで衣・美・食を扱ってきたが、女性の24時間をサポートする中で、最後の砦(とりで)ともいえる『住』のジャンルに到達した」と近藤広幸社長。2019年にグループ会社としてマッシュホームズを設立。社内の3000人以上の女性社員のための暮らしや引っ越しのサポート、物件の仲介などから事業をスタート。さらに、不動産大手の三井不動産レジデンシャルとタッグを組み、女性をメインターゲットとした賃貸マンション「パークアクシス吾妻橋」(東京都墨田区)のデザインを監修。仲介・入居者募集が1月8日から始まっている。

「パークアクシス吾妻橋」。今注目の東東京の浅草エリアに登場。賃料は1DKで13万円前後、40平方メートル強で21万円前後/公式写真
「パークアクシス吾妻橋」。今注目の東東京の浅草エリアに登場。賃料は1DKで13万円前後、40平方メートル強で21万円前後/公式写真

「女性をターゲットにしたマンションのデザインを託したい」と三井

「パークアクシス」は分譲デベロッパーだった三井不動産レジデンシャルが「質の高い賃貸マンションを作りたい」と2000年にスタートした賃貸マンションシリーズだ。東京を中心に100万都市などで約180棟、1万6000戸を供給している。入居者の7割が男性、3割が女性で、女性の獲得が課題だった。そこで、白羽の矢が立ったのが、女性向けのビジネスで実績のあるマッシュだった。

両社の“協業”は実は20年前から始まっていた

マッシュがファッション事業に参入したのは2005年のこと。前身は1998年に興したCG(コンピューターグラフィック)のデザイン会社で、「進め!電波少年」のようなテレビ番組内のCGなどを制作していた。2000年に不動産広告に進出し、初期から三井の都心の高級分譲マンションの広告の制作・デザインを手がけるように。当時の物件担当者をきっかけに、今回の取り組みにつながった。

“ホテルライク”“スタイリッシュ”から“リラックス”に提供価値を刷新

“ホテルライク”や“スタイリッシュ”なイメージで高級感を創出してきた「パークアクシス」だが、今回はコンセプトを変え、女性の感性にしっかりと刺さり、なおかつ支持を得られるようにと、“リラックス”を新しい価値観に据えた。

エントランスホールは、通路風だったものを、レイアウトやガラス素材の採用など工夫して開放感を演出/公式写真
エントランスホールは、通路風だったものを、レイアウトやガラス素材の採用など工夫して開放感を演出/公式写真

「ユニバーサルスペースデザイン」と「ウェルネスデザイン」がデザインコンセプト

近藤社長は商環境は延べ1000店舗以上をプロデュースしてきた実績があるが、マンションなど住空間のデザインは初めての挑戦だ。ターゲット層に近い社内の女性社員に、ライフスタイルや求める住まいなどを徹底的にヒアリングし、咀嚼し、自信を持って案件に臨んだという。「デザインで一番大事にしたのは『ユニバーサルスペースデザイン』とマッシュのスローガンである『ウェルネスデザイン』で、“モダニズム”“クラフツマンシップ”“サステナブル”をキーワードにした」

「ユニバーサルスペース」とは、ミース・ファン・デル・ローエ(筆者注:バルセロナ万博(1929年)でドイツ館としてバルセロナ・パビリオンなどを建築。「レス・イズ・モア」や「神は細部に宿る」の発言でも知られる)が提唱した概念で、厚い壁で仕切る古くからの建築を、テクノロジーの力で内部空間を限定せずに自由に活用できることを目指したもの。

「何年も住むものなので、流行に流されず、時間が経っても風化しない普遍的なデザインとし、男女問わず、誰もが心地よく素敵だと感じられるユニバーサルな世界を目指した。圧迫感を感じさせない広がりのある空間のための壁面配置や、人と人との快適な距離感が保てる開放感のあるデザイン、そして、上質なマテリアルでハイクオリティでシンプルな飽きのこないデザインを目指した。そこに『ウェルネスデザイン』の心地よさや、サステナブル、エコロジーなど、身近なことで気持ちが穏やかになれるようにした」と近藤社長は説明する。

エントランスの設計にもこだわり

「パークアクシス」は全60戸ほどの物件が多い中、今回の案件は全24戸で、狭くて難しい土地だといわれていた。しかし、エントランスからロビーにかけて、壁面にガラスを使用して自然光を入れ、メールボックスは密室を避け、壁面に配することで開放感と安心感につなげた。内部のトーン&マナーにも細心の注意を払い、色の温度感を意識しながら、生活者の心に寄り添い、緊張感をほぐすウォームカラーを採用した。コロナ禍でリモートワークが増え、プライベートのリラックスできる空間と、仕事場との共存が求められる中で、ナチュラルだけれどもインテリジェンスやセンスを感じられるものを目指した。これに対して、現地を見た三井のメンバーたちも、「デザインで印象が大きく変わった」「(同じ土地面積の別物件と比較して)とても広く感じられる」と改めて感じたという。

「自分がこれまで手がけてきたファッションやオーガニックコスメは、その女性をきれいにしたり、ステージを高めるサポートをするためにデザインしてきた。でも、建築の世界の8割はエゴで作られたもの。自分は建築でも利用者の心が喜ぶデザインをしたいと改めて感じた」と近藤社長。

モデルルームにはマッシュの商品の実物を多く展示。ライフスタイルブランドとしての広がりを感じさせる/公式写真
モデルルームにはマッシュの商品の実物を多く展示。ライフスタイルブランドとしての広がりを感じさせる/公式写真

モデルルーム内にはマッシュ・ワールドが広がる

気になるモデルルームでは、木の素材感や丸みを帯びた家具、ディフューザーによる香りの演出など、五感での体験を提案する。家具以外の約90%にマッシュグループの商材(「ジェラートピケ」や「スナイデルホーム」のルームウエア、クローゼット内の洋服はもちろんのこと、ベッドリネンなどのホームファブリック、コスメ、そして、ニュージーランド発の環境配慮型洗剤「エコストア」など)を使ってルームコーディネート。まさに、マッシュ・ワールドが広がっている。

住居者に対するアフターサービスも開発。入居と同時に申し込むと「MAカード」のプラチナ会員ランク(マッシュグループで年間50万円以上購入者が対象)、ビューティカテゴリーの会員サービス「GO GREEN MEMBER’S」のゴールド会員ランク、さらには、各5000ポイントが付与される。

今回、不動産の仲介業にも本格参入することになったマッシュ。グループ会員に向けた情報発信ツールの中でも、自信をもってパークアクシス吾妻橋を勧めていくという。今後も三井とは、ウェルネスデザインの監修や、女性向け賃貸マンションの研究・デザインなど、さまざまなプロジェクトで協業を図りたい考え。

コロナ禍でもできることはある。コロナ禍だからやるべきことがある

コロナ禍において、マッシュは10月に“#美容パジャマ”をうたう新ルームウェアブランド「スナイデル ホーム」をデビューさせた。「ビューティー・ホームドレス」をキーワードに、女性をきれいに見せる部屋着や家ナカ時間を快適に過ごすための雑貨を開発。田中みな実をビジュアルに起用して話題を呼んだ。また、コスメの好調を受けて「スナイデル ビューティ」の今春発売も控えている。外出自粛や買うものの変化、先行き不透明感からの買い控えなどで苦戦するファッション・アパレル企業も多い。マッシュも好調なブランドばかりではない。それでも、だからこそ、人々の気持ちや時代に寄り添いつつ、挑戦し続け、細部までこだわり抜く努力をすることで、チャンスや顧客を引き寄せているようだ。

取材の帰り際、エレベーターホールで近藤社長はわざわざ歩み寄り、こう言い残していった。「コロナで苦しんでいるファッション企業がたくさんあるけれど、培ってきたノウハウやネットワークはまだまだ生かしどころがある。やれることはある。この取り組みが少しでも勇気やヒントを与えられるものになれば。頑張って乗り越えて行きたいよね」。

マッシュホールディングスの近藤広幸社長(右)と、三井不動産レジデンシャルの大澤久取締役常務執行役員/撮影:新江周平
マッシュホールディングスの近藤広幸社長(右)と、三井不動産レジデンシャルの大澤久取締役常務執行役員/撮影:新江周平

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ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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