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試着や通販、服のシェアって安全なの? アパレル業界が取り組む、感染対策の現状【#コロナとどう暮らす

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
ワールドのカスタムオーダーブランド「アンビルト タケオキクチ」の採寸風景(提供)

新型コロナウイルスを経験したことによって、私たちの暮らしは今後どのように変化するのでしょうか。Yahoo!ニュースの記事に寄せられた声を参考にを参考に、コロナ禍での安全なショッピングに対して、注目企業ではどのような対応を行っているのか、調べてみました。

店舗の営業や移動の自由などが戻りつつありますが、新型コロナウイルスへの感染を予防しながら生活する“ウィズコロナの時代”はしばらく続きそうです。生活必需品でも嗜好品でもあるという位置付けのファッションアイテムについては、徐々に売上げが回復しつつあるものの「買い物や、服や靴の試着などで感染しないの?」と不安を持つ人もいるのが現状です。安心して買い物を楽しんでもらうために、小売りや通販の現場ではどのような取り組みをしているのか。アパレル大手のワールド、セレクトショップのユナイテッドアローズ、日本最大のファッションECモールのZOZO、そして、服のサブスクリプションサービスを提供するエアークローゼットに話を聞きました。

密になりがちな「接客」「試着」「採寸」ではどう工夫しているのか

ワールドでは店舗での対策として、営業中の店舗勤務者に対し、2月、3月、4月に各月1人10枚を目安に計32万6000枚のマスクを配布。マスク・手洗いの徹底、ソーシャルディスタンス確保などの防疫措置を徹底してきました。消毒についてのマニュアルも随時更新しています。それらに加え、直営店のほとんどが百貨店、駅ファッションビル、SC内のインショップとなるため、各館のルールに則って、レジ周りのカーテンの設置や、入店者向けの検温や手指消毒剤の提供などの対策も取ってきました。一部で回復の兆しが見えますが、売上げが厳しい状況であっても、密が起こりやすい大規模なセールイベントは引き続き自粛を継続しています。お客さまの身体に直接・密接に接触する行為が伴うような販促イベントも避けるように配慮しています。

「アンビルト タケオキクチ」ではブランド独自で作成したPOPなどコロナ対策を掲出(提供)
「アンビルト タケオキクチ」ではブランド独自で作成したPOPなどコロナ対策を掲出(提供)

密になりがちな「接客」「試着」「採寸」については、ソーシャルディスタンス確保を前提にしつつ、事業部やブランドごとにルールを設定。一例として、店舗での「採寸」が必要なカスタムオーダーブランドでは、お客さまに安心いただくための独自ポップを店内に掲示したり、従来は来店での採寸を必須としていた初回オーダーをオンラインのみで購入できるようレギュレーションを変更したりするなど、柔軟性を発揮。店頭では採寸前のメジャーの消毒を実施するなど、安心感を持って接客を受けてもらえるように工夫しています。

ユナイテッドアローズは、全店舗に飛沫感染防止シールドを設置しました。店内にある什器やフィッティングルーム(試着室)、会計時に使用するペンやトレーなどについては消毒や清掃を徹底。密にならないように、試着室の使用タイミングや、使用する部屋の間隔などにも留意しています。店内には消毒液を設置しつつ、混雑状況に合わせて入店制限、会計待ちの際には間隔を設けるなど、ソーシャルディスタンスへの配慮や混雑防止、衛生管理の徹底に努めています。

接客方法についても、普段は積極的に話しかけて熱心に接客するのが持ち味でもありますが、ソーシャルディスタンスを意識した声かけのスタンスをとるなど、状況を見極めながら対応しているところです。スタッフのマスク着用義務化はもちろんのこと、お客さまにも感染予防のためマスク着用を呼び掛けています。さらに、試着の際にはフェイスカバーを利用してもらい、服に直接口や肌が触れないようにすることで、安心・安全性を高めています。

ちなみに、ファッションアイテムで試着率が高いものの代表が、シューズになります。多くの店舗ではお客さまに手の消毒やソックス着用のお願いすることで対応しています。中には、スタッフが手袋をはめたり、試着後に除菌剤をスプレーする企業・ブランドもありましたが、マスクの着用と手洗い・手の除菌で感染のリスクが低減されることが知られるようになってきたため、最近では比較的自由に試し履きできる状況になっているようです。

ネット通販で「試着」「返品」された商品はどうなっているのか

一方、ネット通販での対応はどうなっているのでしょうか?とくに物流倉庫内の状態も気になります。ZOZOでは3密を解消し、作業者の感染リスクを下げるために、換気をよくしたり、作業者へのマスク配布、送迎バスの増便、休憩室の増設やマスク着用・消毒の徹底など、様々な対応で庫内環境を整備しているといいます。幸いなことに、商品は新型コロナウイルス発生の有無にかかわらず、通常、個包装の状態で納品・管理され、購入者に配送されるため、服やバッグ、シューズなど商品そのものの安全性は高いといえます。

気になるのは、購入者が一度手にした後に返品されてしまうケースです。ZOZOで取り扱っている商品はブランドからの委託品がほとんどであるため、品質管理上、商品へ特別な処理、例えば消毒を独自に行うなどの措置は取っていません。けれども、返品された商品の状態を確認する作業者については、先に述べた感染予防策などマスク着用と消毒を徹底することで、感染リスクを避けるようにしています。

ちなみに、日本での感染拡大の初期のころには、お客さまが試着したものは24時間~72時間、別の場所に保管しておく、あるいは、高温スチームやオゾンを当てることなどについて、実践したり検討している企業・ブランドもありました。ただし、今回の新型コロナウイルスの生存時間は、空気中で数時間、布だと最長24時間、プラスチックやステンレスなどのツルツルなものの表面には2~3日と言われるようになり、対策が立てやすくなりました。とくに通販の場合、返品に要する時間を加味すれば、ほぼ安心とみなすことができるという見解が一般的になっています。

そして通販では、“試着なし”で購入できて、コロナ禍のショッピングの不安を低減するためのツールとして、バーチャルフィッティングなどテクノロジーを活用した施策が注目されています。ZOZOでも、身長・体重を入力するだけで”試着なし”で自分に合うサイズが分かる「マルチサイズ」や、「ZOZOMAT」といった、サイズの不安を解消しながら自分に合った服や靴が購入できるサービスも打ち出しています。

※「ZOZOMAT」はスマホで簡単に足の3Dサイズが計測できるツール

では、ファッションのシェアリングサービスでのコロナ対策はどうでしょうか? エアークローゼットでは、2015年の創業時からずっと、貸出しした洋服が戻ってきた際に全点クリーニングを実施してきました。「シェアリングモデルの中で洋服を利用すること」に最適な洗剤や洗い方を日々追求し、洗剤も医療介護施設等で利用されている99.9%以上除菌可能なものを使用し、衛生面にもこだわってきました。日頃から安心面に留意した取り組みをしてきたことが、ここにきて広く知られたことも、下記で詳細する、新規会員数の増加にもつながっています。

「オンライン会議」用の服など、新たなニーズに応える企業も

苦境が続くアパレル業界の一方で、エアークローゼットでは新規会員登録数が増加傾向にあり、一時は3倍近い伸びになりました。

リモートワークが増えたことで利用者から挙がった「オンライン会議ツールを利用するので、ちゃんとしたトップスを着たい」「鮮やかな色だとうれしい」「ネックラインにバリエーションがあるといい」等の声に応え、通常は上下コーディネートで届けるところ、期間限定で3点全てトップスのみのセットで届ける新サービスを展開。すぐに100人以上から申し込みがあり、その反響の大きさからサービスの提供期間を延長しています。

エアークローゼットの天沼聰社長は「華やかなお色味やデコルテラインのデザインに変化をつけた組み合わせなどでお届けし、特に働く女性を中心にお喜びいただきました。一方で、人の気持ちに影響を与えるという『お洋服がもともと持つ力』をあらためてお感じになる方も大勢いらっしゃいました。『おうち時間が増えた中でも、鮮やかな洋服が届いて気持ちがパッと明るくなった』『家族がコーディネートを褒めてくれて良い会話ができた』など、ファッションによる感動の声をいただいています。外粛自粛中の期間に、お洋服の重要性・必要性について、あらためてそれぞれが向き合う機会になったのではないかなと感じています」と振り返っています。

リモートワークに合わせた「エアークローゼット」の3点トップスセット。使用済みの服はすべて除菌力の高い洗剤を使用しクリーニングしているのもポイントだ(提供)
リモートワークに合わせた「エアークローゼット」の3点トップスセット。使用済みの服はすべて除菌力の高い洗剤を使用しクリーニングしているのもポイントだ(提供)

現在では、徐々に店舗にも人が戻りつつあります。「営業再開を待ちわびてくださっていたお客さまが多く、店舗の安全配慮項目にもご賛同いただけている感触を持っています」とユナイテッドアローズ。ワールドは「通常時期には店頭で購入いただいていたお客さまが、休業中に初めてオンラインストアをご利用いただく傾向も見られました。それでも、店舗再開時は開店を心待ちにしていたというご意見が多く、久しぶりに、接客による店頭スタッフとのコミュニケーションやショッピングを楽しんだという声を多数いただき、リアル店舗ならではの力を改めて実感しています」とのこと。

新型コロナについてはまだ解明されていないことも多いですが、正しい情報を収集し、社内でガイドラインを策定し、しっかりと実践していけば、買い物時の感染はほとんど防ぐことができそうです。ネットショップやオンライン接客、バーチャルフィッティングなど、テクノロジーの力を活用することで、ウィズコロナの時代にも買い物ができ、その利便性の高まりを実感した人は多いはずです。

緊急事態宣言が明けてからは、都心の百貨店やファッションビルは厳しさが続くものの、郊外のショッピングモールなどを中心に賑わいが戻り、売上げが大きく回復したり、前年を超えたりする店も予想以上に多くなっています。久々にリアル店舗を訪れて、改めて五感で感じながら買い物をする楽しさを感じたという人や、馴染みのスタッフに会えてほっとしたという人、会いに来たといわれて涙ぐむ販売員などもいました。自粛期間中に断捨離して本当に欲しい服が分かったため、少し高価だけれども長く着られるサステナブルな服を吟味して購入したという声も聞こえてきます。

感染者が再び増加傾向にあり、まだまだ予断を許さない状況ではありますが、そんな中でも、安心してショッピングできる環境づくりに努めているブランドや販売スタッフに敬意を表しながら、気分がアガる服を手に入れたり、「買って応援」したりするなど、いろいろな形でファッションを楽しみ、ファッションや洋服の持つ力を再認識していただければと思います。

※記事をお読みになって、さらに知りたいことや専門家に聞いてみたいことなどがあれば、ぜひ下のFacebookコメント欄にお寄せください。次の記事作成のヒントにさせていただきます。

また、Yahoo!ニュースでは「私たちはコロナとどう暮らす」をテーマに、皆さんの声をヒントに記事を作成した特集ページを公開しています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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