J.クルーが破産法を申請、コロナが追い討ち。栄光と挫折の転機を探る

J.クルーは5月4日、チャプター11を申請したことを発表した 同社公式サイトより

 米国ブランドのJ.Crew(J.クルー)は5月4日、日本の民事再生法に当たる連邦破産法第11条(チャプター11)をバージニア州に申請した。経営不振の最大の要因は、2011年に行ったLBO(レバレッジバイアウト)に伴う累積負債が膨らんだことと、デジタル戦略の遅れだ。新型コロナウイルスの影響がダメを押した形だ。ただし、再建型で、「J.クルー」と「Madewell」(メイドウェル)ブランドはともに継続する方針だ。

(ファーストリテイリングによる幻のM&Aのくだりを追加しました:5月5日10:55)

 5月4日時点で、「J.クルー」181店舗、「メイドウェル」140店舗、ファクトリーストア170店舗、EC店舗(jcrew.com、jcrewfactory.com、madewell.com)を運営。2019年度の売上高は25億4010万ドル(約2718億円)、「Jクルー」は前期比4%減の17億7070万ドル(約1894億円)、「メイドウェル」は同14%増の6億240万ドル(約644億円)。営業利益は7150万ドル(約76億円)、純損失は7880万ドル(約84億円)、負債総額は16億8100万ドル(約1798億円)だった。

 創業は1947年。ポピュラークラブプランとして低価格帯の婦人衣料品の販売を開始。1983年に「J.クルー」としてカタログ販売をスタート。1989年にニューヨーク・マンハッタンのサウスストリートシーポートにリアル店舗の1号店をオープンした。

 成長を支えたキーパーソンは2人いる。一人は、GAP(ギャップ)を率いて世界ナンバーワンの衣料品専門店に押し上げた、ミッキーこと、ミラード・ドレクスラー氏だ。2003年1月に会長兼CEOとして経営に参画してから、成長が加速した。もう一人は、ジェナ・ライオンズだ。彼女を抜擢し、2008年にはエグゼクティブディレクター、2010年には社長も兼務するようになってから、美しいカラーリングと程よいトレンド感とを持った、プレッピー&クラシックなカジュアルブランドとして「J.クルー」のスタイルを確立。シューズ類や豊富なアクセサリー、アーティスティックな店装などでも注目を集めた。ミッシェル・オバマ大統領夫人(当時)のお気に入りブランドとしてもたびたびメディアに登場した。

 2006年には3億7600万ドル(約402億円)で株式を公開。同時に、デニムカジュアルを中心とした姉妹ブランド「メイドウェル」をスタート。キッズラインの「CREW CUTS」(クルー・カッツ)や、ブライダルコレクションなども展開。2008年にはニューヨーク・トライベッカの古いバー跡地に居抜きでオープンした新メンズ専門店「リカーストア」をオープンして話題を呼んだ(ちなみに、「J.クルー」メンズのクリエイティブ・ディレクターだったトッド・スナイダーと、故ケイト・スペードの夫アンディ・スペード、ドレクスラーCEOが企画・開発したもの)。

 しかし、リーマンショック後の2011年に、TPGとLeonard Green&Partnersが30億ドル(約3210億円)でLBOしたことがつまずきのきっかけになった。負債が膨らみ、2014年には赤字に転落。6億7780万ドル(約725億円)の損失が報告された。2017年にドレクスラーCEOが退任(会長職は2019年に辞任)。ジェナ・ライオンズも2017年に退社。以降、苦境に拍車がかかり、経営陣も目まぐるしく変わった。

 「EVERLANE(エバーレーン)」や「UNIQLO(ユニクロ)」「BONOBOS(ボノボス)」など、低価格ベーシックブランドとの競合も激化し、クールなブランドとしてのポジションを失った。テクノロジー投資やデジタル施策の遅れや、グローバル展開に本腰を入れてこなかったことも業績不振に輪をかけた。

 日本では1992年に伊藤忠商事を通じてレナウンが販売していたが、品ぞろえが本国と大きく異なっていたこともあり、1995年に年間99億円を売り上げたのをピークに、低空飛行していた。表参道沿いに旗艦店をオープンしたりもしたが、2009年に日本から撤退。その後、日本再上陸に向けた動きもあったが、条件やタイミングが合わずに見送りとなった経緯がある。

 実は、「ユニクロ」を手がけるファーストリテイリングがJ.クルーのM&Aに動いたこともあった。一度目は確か2008~2009年頃。米国のアパレル小売業にもネットワークを持つ、ファストリの傘下「セオリー」の佐々木力社長(当時)が強く推奨したが、柳井正会長兼社長がドレクスラーCEOとの関係を気にしてか、見送ったことがある。その後、2014年に今度はJ.クルー側から買収を持ちかけたようだが、すでに一時の勢いはなく、経営も悪化していたこともあり、交渉は失敗に終わったという。

 ファストリは2007年にバーニーズ ニューヨークをドバイのイスティスマール社と買収合戦を繰り広げた後、価格がつり上がりすぎて経営的観点からして合理的ではないと判断して辞退したことがある。その後、リーマンショックもあり、バーニーズは業績が悪化し、2019年に経営破綻している。ファストリにとっては、バーニーズ、J.クルーともに難を逃れたとみることもできるが、ファストリ傘下に入っていたらどうなっていたのかは気になるところだ。

 生き残り戦略として、GAP社の「OLDNAVY」(オールドネイビー)と同様、成長中の「メイドウェル」を分社化・上場させ全社を救済する計画もあったが、ここ数年の「小売りの黙示録」といわれる商況の悪化などにより実現せず、今年3月に撤回。今回の新型コロナが追い討ちをかけた。

 なお、今年1月から同社を率いるのは、ジャン・シンガー(Jan Singer)CEOだ。直前はVictoria's Secret(ヴィクトリアズシークレット)CEOで、Spanx(スパンクス)のCEO、NIKE(ナイキ)のグローバルアパレルやグローバルフットウエアのバイスプレジデントなどを歴任している女性経営者だ。アフターコロナの時代に経営を立て直せるか、手腕が問われる。

 #Jクルー #JCREW

NYのロックフェラーセンターに近い「J.クルー」ストアのウィメンズフロア(以下、2011年に筆者撮影)
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レジや階段周りなどにはアートの装飾なども多く見られた
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プレッピーなスタイルを提案するメンズでもカラフルな差し色がアクセントとして効いていた
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クロージング売り場の雰囲気も良く、一時はアクセシブルラグジュアリーブランドのポジションを確立した
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大人顔負けの生意気スタイルと子どもらしいキュートさで人気だったキッズライン「CREW CUTS」
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古酒場をそのまま活かし、オーセンティックなメンズのセレクトストアとして2008年にオープンし話題を呼んだ「リカーストア」
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ジーンズカジュアルブランドとして2006年にスタートした「メイドウェル」は順調に成長中だ
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