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米ギャップ社がオールドネイビーの分離を中止、再成長戦略に暗雲、アスレジャーの「アスレタ」と成長牽引へ

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
ファミリー向け業態で、ホリデーシーズンには多くの買い物客でにぎわっていたが…(写真:ロイター/アフロ)

米GAP(ギャップ)社は1月16日、OLD NAVY(オールドネイビー)部門を会社から分離する計画を撤回した。不振が続いていた「GAP」をニューヨーク・マンハッタンの旗艦店を含めて大量閉鎖する一方で、稼ぎ頭である「OLD NAVY」をスピンアウトさせ、上場させようとしていたが、それまで好調だった「OLD NAVY」の既存店売上高がマイナスに転落。さらに、デジタル化などを進めるうえでは同じプラットフォーム上で運営したほうが投資効率やノウハウの活用なども含めて効果的だと判断したもようだ。

創業一族のRobert J. Fisher(ロバート・J・フィッシャー)暫定社長兼CEOは、「分離計画は、象徴的なブランド(GAP)のポートフォリオから(新たな)価値を創造するためのものだった」「この目的は引き続き重要だが、取締役会では、2つの企業への分割のコストと複雑さは、業績の低下と相まって、適切な価値を生み出す能力を制限すると結論付けた」と説明。

さらに、「スピンオフに向けた準備を進める中で、非効率な部分や改善すべき領域などが明らかになった」としたうえで、「GAP社を変革してより精密に運営する。成長ブランドである『OLD NAVY』と(アスレジャーブランドの)『ATHLETA』(アスレタ)を強化し、『BANANA REPUBLIC』(バナナリパブリック)と『GAP』ブランドの収益性を向上することに焦点を当てていく」とコメントした。

「OLD NAVY」は1994年に設立。一時はベーシックに寄りすぎてたいくつになり、H&MやFOREVER21(フォーエバー21)などのファストファッションや他のディスカウントブランドに押されたが、マスマーケット向けの価格を維持しながら、子どもから大人まで、カジュアルからビジネス対応の商材まで幅を広げてハッピーなイメージ戦略を打ち出したことで、復活。

ちなみに、日本には2012年に上陸し、53店舗まで店舗網を広げ、比較的堅調に推移していたが、米本国への集中を理由に、2017年1月に全店舗を撤退している。

2019年1月期では、創業ブランドの「GAP」の既存店売上高が5%落ち込み、前期比2.9%減の51億6000万ドル(約5676億円)だったのに対して、「OLD NAVY」は既存店が3%伸び、同8.3%増の78億4000万ドル(約8624億円)と好調だった。しかし、2020年1月期に入り、既存店売上高が第1四半期(2019年2~4月)に1%減、第2四半期(2019年5~7月)に5%減、第3四半期(2019年8~10月)に4%減と落ち込んでいた。

この分割計画は、昨年11月に退任したArt Peck(アート・ペック)社長兼最高経営責任者(CEO)が主導していた。現在は暫定的な体制を取っており、次の経営体制にも注目が集まる。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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