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イオンモールがハピネス戦略と集客力No.1戦略で売上げ・利益が過去最高

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
3月に開業したイオンモール座間。地域協業イベントの企画・発信も行う(筆者撮影)

 「ライフ・デザイン・デベロッパー」をコンセプトに、国内に80以上、海外でも20以上のショッピングモールを開発・運営するイオンモールが好調だ。流通業界で先進事例とされるアメリカのショッピングモールは衰退しているところが多く、“デッドモール”や“廃墟モール”の写真やマップなどがSNSでも拡散されて話題を呼んでいる。日本でもアパレル専門店のブランドや店舗の統廃合などで空床ができ、テナントリーシングに苦戦するところもある。そんな中、イオンモールは2018年2月期決算で営業収益(売上げやテナント賃料など)や営業・経常・当期利益がすべて過去最高を更新している。

米国は過剰供給で“デッドモール”多発、1モール当たりの人口は日本の66万人に対して米国は26万人

 好調理由を3つに絞るとすれば、国内での「ハピネスモール化戦略」「圧倒的地域No.1戦略」と、海外での「ドミナント戦略」だろう。

 吉田昭夫社長は4月11日の決算説明会で、国内事業を説明する際、冒頭で日本と米国におけるSC業界の現況をこう分析してみせた。

 米国ではデッドモールが増えているが、そもそも、米国の大型モール数は日本の4.6倍あり、1モール当たりの人口は日本の0.4倍(5分の2)であり過剰供給状態だ。日本では人口当たりの大型モール数は少なく、米国とはショッピングモール事情が大きく異なっている。(イオンモールの資料によると、大型モール数は日本の190に対して、米国は1222、1モール当たりの人口は日本の66万人に対して米国は26万人)。

 そのうえで、「リアル店舗の選別・淘汰やアパレル業界不振、eコマースの拡大、労働力の減少などにより、国内商業施設の優勝劣敗が進展している。地方百貨店など大型競合店も閉鎖している。けれどもわれわれはこれを千載一遇のチャンスと捉え、『新たな国内需要の発掘』『圧倒的な地域ナンバーワンモールへの進化』『都市部における成長機会の獲得』をしていく。淘汰を加速させる中で、最終的に勝ち残る施設となり、淘汰により生まれるメリットを享受する」と意気込みを語る。

ハピネスモール化戦略で、素敵な想い出づくり体験の場へ。ターゲットエイジも拡大

 国内需要発掘の注目施策の1つ目が「ハピネスモール化戦略」だ。「お客さまの来店動機として、体験が求められており、コト提案が必要だ」としたうえで、「『お客さまの素敵な想い出づくり』体験の場として、ハピネスモール化を進める」と吉田社長。取り組みの柱は「ヘルス(健康)」、「ウェルネス(感動・充足)」、「コミュニティ(地域)」、「オポチュニティ(商品・サービス体験)」で、モール内をウォーキングしたり、ヨガ教室を開いたり、イオンシネマの劇場でオペラを鑑賞するなど、さまざまなコンテンツや連動するテナントも拡充している。これらにより、ターゲットエイジの拡大や、既存商圏の深耕を図っていく。

 筆者も以前から感じていたのだが、ショッピングモール内は雨風が防げて車も通らず安心なため、高齢者を含めて最高のウォーキング場所だと感じていた。イオンモールの「モールウォーキング」イベントなどは、まさにうってつけだ。

2番じゃダメ! 圧倒的地域No.1戦略で集客力、テナントリーシングで優位に立つ

 戦略の2つ目が「圧倒的地域No.1モール戦略」だ。SCの優勝劣敗が鮮明になる中で、地域No.1の集客力を有することが、勝ち残るSCとなる大きな要素となる。集客力の高さは直接的な売上げ確保だけでなく、出店する専門店からの評価が高まり、テナントリーシングでも優位に立てるからだ。

 圧倒的地域No.1モールになるためには、広域から集客できる規模の大きさも武器になる。ただし、今は東京五輪や東北復興などで建築コストが高まっている。ゼロから新たな施設を開業するには時間もかかるし、当たりハズレも出てくる。そこで、既存ショッピングモールの増床・リニューアルに経営資源を投入するというのだ。イオンモールのモール年齢は平均10.9年で、活性化の効果が高い=投資効率が高い。実際、イオンモール広島府中では増床後1年間の前年同期比が37%増、イオンモール甲府では改装後4カ月の前年同期比が70%増となっている。

 今期も、3月にイオンモール宮崎を増床オープンすると一方で、世界最大規模で生鮮品も扱う「無印良品」などを展開するイオンモール堺北花田をリニューアルオープンするなど、ここでも圧倒的な地域No.1モール化を進めているところだ。

成長市場の中国・ASEANはドミナント戦略でブランディングのメリットを享受

 一方、海外事業は中国・ASEANに集中し、2008年に出店した北京を皮切りに、中国で17、ベトナムで4、カンボジアで1、インドネシアで2のショッピングモールを運営している。所得・消費水準が向上し、顧客層が拡大していることと、街づくりが進むエリアに出店しており、商圏内人口が増加していることが売上げ伸長の要因だ。既存施設でみると、年率2ケタ以上伸びており、中国では13施設中8施設が黒字化、東南アジアでは6施設すべてが黒字化している。

 その最大の成功要因が「ドミナント出店戦略」だ。出店地域を集中することで、イオンモールの知名度が高まり、テナントリーシング面でも集客面でもメリットが創出でき、ブランディングにつなげられている。中国では特に商業施設の開発ラッシュでテナント誘致が難航し、空きテナントが多い状態で開業を迎えることも多い。けれども、昨年12月に開業した中国・武漢3店舗目となるイオンモール武漢金橋では、空き区画ナシ、テナント契約率100%で開業。オープン10日間の売上高が過去最高という好スタートを切ったというのも納得だ。

 eコマースの台頭や、人口動態の変化による少子高齢化、都心集中、労働力の減少、さらにはアパレル業界の不振企業の増加、地方百貨店の閉店などの影響を受けながら、いかにして勝ち残るショッピングモールになるのか。ゴールデンウィークなどを使って行楽に、ストアコンパリゾン(競合店調査)に、そして、ショッピングのために、あらためてSCを訪れたいものだ。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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