訪日客が来ない地方の観光アイデア「夜の果樹園」は成功するのか

ライトアップした福島市の桃畑

インバウンドの波がもたらす地域間格差

昨年の訪日外国人数は3000万人を越え、政府が掲げた2020年の4000万人目標が現実的になってきた。消費額も今年の上半期だけで2兆4,326億円と過去最高額となり、観光業は着実に日本の基幹産業になりつつある。

あまりに人が来すぎて、京都などの人気観光地はオーバーツーリズムが深刻化しているとういう。これといった観光の目玉がなく、ほとんど外国人を見かけることのない地方に住む者としては、それは別世界の出来事だ。ある地域では人が来すぎて困る。ある地域では来なくて困る。売れっ子芸人と売れない芸人の差のごとく、インバウンドの波によって観光の地域間格差はますます広がるばかりだ。

私が住む福島市は東京まで1時間半と交通の便もよく住みやすいが、残念なことに観光的にはこれといって特徴がない。親戚や友人が遊びに来ても「連れて行くところがない」という悩みを持つ市民は多い。春には桜の名所「花見山」があり、これは素晴らしいが、桜の時期は年に数週間しかない。

そんな福島市に今後外国人観光客が押し寄せて、どんどんお金を落としてもらう日は来るのだろうか。

いや、このままでいけば、それは考えにくい。

あたり前だが「行く理由」がないところには、たとえ近くでも人は行かない。

逆に言えばウユニ湖のように、「行く理由」があればたとえ地の果てのようなところにも人は集まる。

ならばその「理由」を創るしかない。

夜の果樹園の着想と実現の難しさ

昨年、福島市の新しい観光資源をつくるプロジェクト「夜の果樹園実行委員会」が立ち上がり、私は委員長として関わらせていただいている。

福島市は観光地としては弱いが生産地として大きな強みがある。特に果物はさくらんぼ、桃、なし、ぶどう、りんご、なんでもござれの「果物王国」である。とりわけ強いのが桃。福島の桃は全国2位の生産量を誇り、農業の大きな柱になっている。市の中心街から少し車を走らせると桃畑が広がる。

「夜の果樹園」はこれまで全く使われてなかった夜の時間帯に、桃畑をライトアップして夜ならではのお楽しみを提供する企画だ。

きっかけは昨年、木幡浩福島市長がアーティストの「やなぎみわ」さんによる夜の桃の写真を見たことだった。その幻想的な世界に魅了された市長は市の観光コンテンツにならないかと着想。私が相談を受け、試験的に桃園でディナーイベントを行うことにした。

しかし、それは思うほど簡単にはいかなかった。課題が山ほどあるのだ。

・もみの木にライトをくくりつけるのとは訳が違って、収穫を迎える前の傷つきやすい桃の隣にLED電球をつけていく作業は時間がかかる。

・桃は葉が多くかつ垂れ下がるためライトが隠れてしまい、想定以上の電球を必要とし、コストがかかる。

・そもそも、収穫期の畑を使用させてくれる果樹園が少ない。

・夏の夜の屋外につきものの蚊。どんなに素敵な空間でも、蚊に襲われては台無しだ。虫対策も真剣に考えなくてはならない。

・天候。日本は雨が4割、さらに夏から秋の時期は台風のリスクもある。実際、昨年3回行ったうち、1回目は台風で流れ、2回目も台風による風の影響の中で変則的な開催を余儀なくされた。

そして最大の難関は、そういったコストやリスク対応を参加費に反映するため、どうしても参加費が高くなってしまうことだ。

高い参加費に納得していただくような「価値」を提供しなければならない。非日常の空間づくり、レベルの高い飲食の提供、特別感の演出。これを畑の真ん中でやるのだ。

市との協力体制を作り、資金面でのバックアップももらいながら、持続可能な観光コンテンツにしていくために実行委員会は課題をひとつひとつクリアしていった。昨年は関係者のみで2回開催し、ライトアップや会場運営のノウハウもたまり始めてきた。

幻想的な空間「夜の果樹園」リリース

そして7月28日、今年初の「夜の果樹園」を行った。2020年の商品化に向けてのプレオープンだ。ローカル性を活かした食イベントとしての位置づけもあり、地域産の食材を市内の「サイトウ洋食店」齊藤正臣シェフが腕をふるった。

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さらに今回は畑の中に「果樹園バー」を設置し、入賞経験豊富なバーテンダー古川智之氏による採れたての桃を使ったカクテルや、G20に採用された金山町の天然炭酸水、同じくG20に採用された市内の酒蔵「金水晶」を提供した。

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さらに音楽。今年はヴァイオリンの生演奏を入れた。これは幻想的な雰囲気とマッチして非常に好評を得た。

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飲食だけでなく、薄暗い中で「桃狩り」を体験していただくアクティビティも。

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2時間半の「夜の果樹園」は無事終了。この様子は翌日のNHKローカルニュースでも取り上げられ、大きな反響を呼んでいる。

夜の果樹園を楽しむ催し(7月29日)

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一夜の小さなイベントから始まった「夜の果樹園」。これを目当てに本当に外国人が来るのかどうか、まだ誰にもわからない。

しかし観光資源に乏しい地方がインバウンドの波を引き寄せ、「基幹産業」の一翼を担うには、「ここでしか味わえない」ものや体験を作り、それをがんがん発信していく以外に選択肢はない。

「夜の果樹園」はそのひとつのケースとして、同じくインバウンド格差に悩む地方のヒントになれば幸いだ。

ぜひ今後をリアルタイムで見守ってほしい。

夜の果樹園公式サイト