「お伊勢さん菓子博」で福島のお菓子屋さんに取材が集中した理由

記者に囲まれ取材を受ける福島チーム実行委員長の「ダイオー」佐藤卓宏氏

億を超える?広告効果を生み出した福島県菓子工業組合の広報PR

4月21日、三重県伊勢市で開幕したお菓子の大博覧会「お伊勢さん菓子博2017」。

全国各地で約4年ごとに開催され、前回の広島開催では入場者80万人を記録した日本最大級のお菓子の祭典です。

開幕当日はマスメディア各社はこぞって菓子博の報道を行いましたが、その中に、なぜか「福島」についての言及が多数ありました。

<全国菓子博>福島の逸品 復興PR 初日は1万1600人(毎日新聞)

当日午後に開催された福島県の菓子PRステージについて、地元テレビ複数の夕方のニュースで報道されたほか翌日の中日新聞、伊勢新聞、朝日新聞などに福島の文字が躍りました。もちろん、福島県内のテレビ、新聞でも取り上げられたのは言うまでもありません。イベントに先だってはNHK名古屋で6分の特集が組まれたり、前日には中日新聞に大きく掲載されました。26日には再びNHK名古屋で生放送が行われるとのことで、そのPR効果を広告費に換算すれば億を超えるのではと言う人もいます。

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菓子博のような大きなイベントの開幕日となれば地元の話題だけでネタには事欠きません。そんな中、開催地の伊勢市から遠く離れた福島の話題をマスメディアがこぞって取り上げるのは、非常に珍しいケースと言っていいでしょう。

でも、これは決してまぐれや偶然ではありません。

この日のために半年以上前から準備をし、「福島の今」を伝えたい一心で涙ぐましい努力をしてきた福島のお菓子屋さんたちの熱い想いがもたらした結果なのです。

地方から全国に向けて情報発信をしたい、PRをしたいという自治体や業界団体は多いと思います。でもなかなか情報が広がらず、まるで境界線が空中にもあるかのように地域内発信で留まってしまいがちです。今回の福島の事例は、その境界線突破の何かしらのヒントになるかもしれません。

「福島をPRして風評被害をなくしたい」

「熊坂さん、来春の『お伊勢さん菓子博』の福島ステージをプロデュースしていただけませんか」とオファーをいただいたのは、まだ残暑が残る昨年9月のことでした。

お声をかけていただいたのは福島を代表するお菓子のひとつ「薄皮饅頭」で知られる老舗「柏屋」(郡山市)本名善兵衛社長、そして上記記事にも紹介されている「ダイオー」(福島市)の佐藤卓宏氏。お二方とも福島県菓子工業組合の中心メンバーで、今回の菓子博福島チームの牽引役となった方々です。

菓子博の通例として、来場者にお菓子を無償で配る「サンプリングイベント」と呼ばれるものがあります。各県の菓子組合に日にちを割り当てられ、ステージでそれぞれ30分のPRタイムを与えられます。

その順番は「くじ」で決まりますが、今回は福島県が初日の午後、つまりトップバッターを引き当てたのです。その日はメディア各社が取材に来るため、午後から行う福島ステージも取材してもらえる可能性が高いのです。

2011年の第一原発事故から6年が経過しましたが、まだまだ福島には風評被害が消えません。すべての食材が国の定めた安全基準を満たしているにもかかわらず、福島産というだけで避けられてしまうのです。ネガティブなイメージを払拭するための努力は今後も継続して行っていかなければなりません。

福島のお菓子、そして福島の食材が安全であることを伝えたい。福島のお菓子の魅力を多くの方に知ってもらいたい。この菓子博の初日のイベントは福島にとって絶好の機会です。

通常、サンプリングイベントはどの県の組合でもさほど力を入れず、決められた数のお菓子を配るだけで、せいぜい観光PRの要素を少し加えるぐらいだったそうです。福島県もこれまで同様にしてきたのですが、メディア取材を呼ぶにはそれでは弱すぎます。そこで、この大きなチャンスを活かすべく、アピール度の高いことをやろうということになりました。それには30分では短すぎるので伊勢菓子博実行委員会にお願いして、3倍の90分の枠を取ることにも成功しました。

テレビや新聞の紙面を飾るには、ニュース性がある、社会性がある、華やかさがある、新しさがあるなど、何かしら取り上げる理由があるイベントにする必要があります。ビジュアル性も大事です。

そこで、昨年7月に福島で行って大好評だった、地域の魅力をファッションで表現する新感覚のファッションショー「ファッショナブルふくしま」を伊勢でも行おうということになり、企画が決定しました。ファッション部分はスタイリストの第一人者・政近準子氏に今回も協力してもらうことになりました。資金面では、福島をアピールする絶好の機会ということで県や市町村に協力をお願いし内諾を得るなど、着々と準備が進んでいきました。

しかしそこで問題が起きました。

取材陣に「あと3時間」残ってもらうためにはどうしたらいいか

メディア取材が来るのは午前中の開会式ですが、思った以上に時間が短く10時過ぎには終わってしまうということがわかったのです。福島ステージが始まる13時半までには3時間以上あるため、取材陣は優先順位の高い他の取材場所に散ってしまい、午後まで会場に残るメディアはほとんどいないだろうというのです。

今回の福島チームは総勢30人以上。福島から伊勢まで往復12時間、交通費も一人4万円以上かかります。加えて宿泊費も必要です。それだけ時間とコストをかけてどこも取材をしてもらえなければPRイベントとして成り立ちません。午前中の取材陣に午後まで残ってもらうにはどうしたらいいか、悩みどころでした。

まずはファッションショーの内容の見直しを行いました。当初の内容は観光色が強く、モデルも名古屋の服飾専門学校の女子学生にお願いするつもりでしたがこれをやめ、お菓子屋さん自ら(ほぼ全員男性)がモデルとなり、それぞれ自社のお菓子をイメージしたファッションを身にまとってアピールしてもらうショーにしました。

ファッションショーなのだからモデルはやはり若い女性がいいのでは、という意見もありましたが、お菓子や福島に関連性がないモデルさんより、お菓子屋さん自ら自社のお菓子を身体で表現してアピールするほうが意味がありますし、熱意も伝わります。

そこで、地元の食材(「会津産の米」「桃」「山塩」「酪王牛乳」「エゴマ」)を使ったお菓子5種に限定し、それぞれの食材とお菓子の色、素材をイメージしたファッションを政近氏に作ってもらいました。首には地元・川俣町の齋栄織物社の世界一薄いシルクストール「妖精の羽」を全員巻いてもらいました。

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5人以外のお菓子屋さんは、イベントの公式キャラクターである「いせわんこ」ファッションで会場の注目を集めることにしました。「リアルいせわんこ」が揃うとかわいいだけでなく壮観で、もくろみ通り会場で目を引き、集客のためのチラシ配りの時にもたくさんの人に話しかけられたそうです。

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司会は筆者とタレントなすびさん。福島県の公式キャラクター「キビタン」の衣装で揃えました。政近氏は「赤福」ファッションです。

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ビジュアル性もオリジナリティも高い衣装で注目を集めることができたと思います。しかし最も広報効果を生んだのは、なんといっても柏屋の本名社長が自ら書いた熱いプレスリリース、そしてメディア行脚でした。

プレスリリースを手持ちして現地のメディア回り

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「福島のお菓子屋はこんなに元気です」「福島の食材はこんなに豊かです」「福島県のお菓子は安心、安全です」「福島のお菓子はこんなに美味しいんです」「福島に遊びに来てください」

みんなの想いをストレートに書いたプレスリリース。それをファックスや記者室投げ込みではなく、広報チームが手持ちをしてメディアを一件一件回ったのです。その数20社以上。地元メディア各社が集まる名古屋には4月初旬に入り10社回りました。

この情熱がメディア各社に通じ、NHK名古屋では訪問したその日にニュース番組に急遽出演するなど、大きな関心を集めたのです。

満席の観客、そしてお菓子には長蛇の列

イベント前日。菓子工業組合メンバー、イベントスタッフ、地元のメディアの記者の方など合わせて現地入りしたのは総勢44名になりました。オール福島の「総決起集会」の会場となった割烹「大喜」の女将によれば、菓子工業組合関係者でこんなに人数が集まる県はほかにないとのことでした。

そして当日。懸念事項は会場の入りでした。イベントを行う「いせ舞台」は会場のはずれにあるため、このイベントのことを知ってもらわないと人が集まらない可能性があります。せっかくメディアが取材に来ても、会場がガラガラだったらしらけてしまいます。そこでイベントのチラシを用意し、会場でみんなで手分けをして配りました。

その結果、イベント会場は30分前にはすでに満席、そしてたくさんのテレビカメラ、記者の姿がありました。

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ファッションショーの前には、柏屋謹製の107キロの「大まんじゅう開き」が行われました。半分に開くと中から「いせわんこ」が出てくるという演出です。

まんじゅう入刀をお願いしていた伊勢菓子博実行委員長の濱田典保氏(赤福会長)には急遽イベント開始直前に「赤福ファッション」に着替えていただきご登場いただいたり、いせわんこもステージに上がってもらい会場を沸かせました。

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お菓子屋さんによる「お菓子ファッションショー」は、なすびさんの名司会でお菓子についてのコメントをもらいながらお菓子屋さんたちが大胆なパフォーマンスをしてサンプリングにつなげました。

通常、観客はお菓子をもらったら「さっさといなくなる」とのことでしたが、福島ステージではほとんどの方が最後まで残ってイベントを見ていただきました。

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イベント後、大まんじゅうを切り分けた「お福分け」するテントに長蛇の列ができました。およそ2000個分のお菓子を配りきれるか心配でしたが、列は途切れず1時間ほどでなくなりました。これまで、物理的な距離や文化の違いでなかなか情報が届かなかった関西地区で、福島のお菓子にこれだけ人が並ぶのを目の当たりにし、感無量でした。そして一個一個、並んでくれた方の顔を見ながらお菓子の手渡しをする本名社長の姿に感動を覚えました。

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展示会や博覧会でPR効果を出すためには

今回、福島県菓子工業組合のお手伝いをさせていただき、地域がその地域以外の「アウェイの地」でメディアに取り上げてもらうこと、つまり「境界線を越える」ことが想像以上の効果をもたらすことを実感しました。そしてそれができた理由を私なりにまとめてみました。

1,組織が一枚岩になり、なおかつ「伝えたい」「伝えて欲しい」という強い想いを持つリーダーがいること

2,リリースやメールに頼らず、可能な限りメディアとコミュニケーションを取ること(マメに動くこと)

3,コンテンツを工夫し、納得性、独自性、ビジュアル性などを作っていくこと

4,外部業者に頼りすぎず、組織内の人材で広報・PRができること

この4つを強く感じました。

そして今回も痛感するのは、やはり情報発信の重要性です。発信すればそれだけ結果が返ってくるのです。イベントに参加された方に、面白かった、楽しかった、美味しかったと好意的な声をたくさんかけていただきました。発信の現場で直接こういった空気感や相手の反応を感じることが、次の発信の質の向上につながります。

こういった菓子博のようなイベントに参加するのは正直、手間も時間もかかります。でもそれをやっかいだと考えて適当にやりすごすか、情報発信の良い機会と捉えて真剣に取り組むかで、その組織や業界の今後の展開が大きく変わっていくことは間違いありません。