宇治市の観光PR動画から考える、これからの地域動画のありかた

攻略紙風のチラシを用意するなど細部にこだわる宇治市の「観光アクションゲーム動画」

宇治市が制作した観光PR動画が話題になっているようです。

奇抜PR動画、再生数けた違い 京都・宇治市(京都新聞)

ファミコン世代の30代~40代のウケを狙い、一昔前のテレビゲーム風にした動画で、主人公のマッチョな平安貴族の主人公が宇治市の観光名所を巡って敵を倒す筋立てになっています。

動画のコメントを見る限り、ターゲット層のファミコン世代にはおおむね好評のようですが、「宇治市のイメージからほど遠い」と市内部から批判も出ているとのこと。しかしテレビのワイドショーでも取り上げられ、少なくとも「宇治市」の存在アピールにはなっていると思います。

数年前から地方自治体のPR動画は話題性を狙った奇抜なものが増えました。話題を作ってメディアに取り上げてもらい拡散させなければ再生数が上がらないからです。

しかし最近ではアイデアも出尽くした感があり、鹿児島県志布志市の「うな子」のようにギリギリを攻めすぎて炎上するケースも見られるようになりました。

そういった「バズを狙う」ようなPRのやりかたが、果たして地方自治体に本当に必要なのかということをそろそろ考える時が来たと思っています。

そしてそういった高予算の動画のお金の出所である国からの交付金の使い方についても、税金である以上もっと考えるべきでしょう。

今回の宇治市の動画は地方創生加速化交付金で制作したとのこと。宇治市に限らず、地方創生交付金を観光PR動画制作に回すケースが増えています。

先日もある自治体で、交付金500万円をそのままPR動画制作に充てたと聞きました。受託した会社は動画以外の分野の有名企業ですが、最近は新しいビジネスとして積極的に全国の自治体の動画制作コンペに参加して、交付金による観光PR動画を多数作っているそうです。

優秀な人材を抱える中央の企業はクリエイティブもプレゼンも優れている場合が多く、コンペに勝つ確率も高いわけです。その結果、地方を活性化させるために国からもらったお金が地元の業者には落ちず、中央の業者にそのまま流れます。

そういうことがいま日本の地方のあちこちで起きているのです。

これから地域の発信力が求められる中で、地方にも「コンテンツ制作力」、そしてそれを支える「クリエイティブ人材」が必要です。にもかかわらず、地方自治体が東京の企業に丸投げするやり方を続けていけば、地方と中央の経済格差だけでなく、地元の制作会社は仕事の機会を奪われ「クリエイティブ格差」はますます広がるばかりです。

食べ物だけでなく、クリエイティブも「地産地消」が必要なのです。

この課題を解決できる方法はないかと考えた結果、あるアイデアが浮かびました。

今回の宇治市を例にとれば、キャラ設定やストーリー展開、この動画のためにゲームを開発するなど、かなり凝ったクリエイティブです。

確かに、地方にはこういう動画を企画し実施できる会社は少ないでしょう。

そこで、せっかく一流のクリエイターに仕事を依頼するのだから、そのチームに地元の人材をからませ、教育の機会にしてしまうのです。彼らはいろんなノウハウ、知見、視点を持っています。ただ発注して成果物だけ受け取るのはもったいなさ過ぎます。

地元のクリエイター、地元の高校生、もちろん市役所の広報課の皆さん。

一部でもいいから関わらせてもらい、仕事ぶりを学ばせてもらうことで、地元のクリエイティブ偏差値を上げていくのです。ワークショップをやってもらってもいいでしょう。そういった活動をすることを条件にプロポーザルを出せばよいのです。

大規模な予算で行われた福島・会津の魅力を動画で海外発信する「会津エクスペリエンスデザインプロジェクト」では、昨年、会津において動画制作を担当する海外クリエイターによるクリエイティブキャンプが行われました。これは参加企業であるアドビ社の好意によるものでしたが、地元のクリエイティブ人材の啓蒙という点では非常に画期的だったと思います。その気さえあれば、決して難しいことではないと思います。

宇治市では以前に高校生の観光PR動画コンテストを行っており、作品がいくつもYouTubeチャンネルに上がっています。

今回のゲーム動画の制作現場などは、これらの高校生はぜひ参加してみたいのではないでしょうか。クリエイティブ人材教育としては最高の場だと思います。

また、せっかくプロが作った完成度の高いゲームキャラを、若い人のアイデアを募集して活用法を見つけるのもいいでしょう。そういった一連の流れを動画にしてYouTubeチャンネルに上げていくなど、これをネタにどんどん次のコンテンツを生み出していけます。

宇治市の今回の動画の目的は、人口減少対策として市の好感度アップということでしたが、外注した動画で移住や定住につながるほど好感度が上がるとは正直思えません。それよりもクリエイター人材育成に力を入れる施策や、そして「クリエイティブ地産地消」の姿勢を見せることのほうが、若者たちの好感度は上がるのではないでしょうか。