風評被害をバネに世界の最高賞を受賞した福島の酒蔵、その強さの秘密

ロンドンで行われたIWC授賞式にて、ほまれ酒造唐橋裕幸社長(YouTubeより)

熊坂仁美です。ずっとワイン党でしたが福島に住んでいるせいで最近はすっかり日本酒党になりました。

福島県民の「日本酒好き」は筋金入りです。居酒屋や和食店は言うに及ばず、洋食店や中華料理店ですら吟醸酒や純米酒などこだわりの日本酒が置いてあるのは珍しくありませんし、JR福島駅構内のコーヒースタンドでも日本酒が飲めますし、ホームパーティではそれぞれお気に入りのお酒を持ち寄り酒談義、といった具合です。

ただし、日本酒ならどこの産地でもよいわけではなく「福島県産のお酒」にこだわるのが特徴で、飲食店でも県産銘柄のリクエストが圧倒的に多いそうです。コンビニの日本酒棚も一般有名銘柄より県産銘柄が充実しています。

「福島県の酒を心から愛し、誇りに思い、応援している」というのが正しい?福島の酒好き。蔵元もそういった県民の熱い「日本酒愛」に応えるべく研究を続け、いい酒を次々に出してきました。

その結果、いま「福島の日本酒」の評価が国内外で急上昇しているのです。

福島の酒が世界チャンピオンになった日

今年5月、福島県は全国新酒鑑評会の金賞受賞銘柄数で3年連続日本一となりました。「八海山」「越乃寒梅」などを擁する新潟を押さえての堂々の一位。突出した銘柄で他を引っ張るのではなく、全体的に酒蔵のレベルが高く、味もバラエティに富んでいるのが福島のお酒の特徴です。

そしてつい先日(17日)、ロンドンで行われた「IWC(インターナショナルワインチャレンジ)の日本酒部門で、福島県喜多方市の「会津ほまれ」の「播州産山田錦仕込 純米大吟醸」がチャンピオンに選ばれました。喜多方市と言えばラーメンで有名ですが、人口5万人に満たない小さな町に酒蔵が9つもある、県内でも有数の酒どころでもあるのです。

日本酒:福島の酒が最高賞を受賞…海外最大規模の品評会(7/17毎日新聞)

ワイン界のアカデミー賞、日本酒部門で福島の酒蔵が優勝(7/17 TBSニュース)

「ワイン界のアカデミー賞」とも言われるこのコンテストは、2007年より日本酒部門が設けられ、今年は過去最多の300の蔵元、876もの銘柄が出品し、審査を受けました。

審査方法はラベルを見ないオールブラインド(目隠し)の投票方式ですから、純粋に「味」のみの勝負。

「被災地の酒はいやだ」とか、逆に「被災地福島を応援しよう」といったバイアスなしに、シンプルに「外国人が飲んで一番うまい酒」と世界的に認められたことになります。

原発事故から4年4ヶ月。酒造業界のみならず福島のすべての生産者が受けてきた苦難、戦ってきた経緯を考えると、この受賞はまさに「快挙」と言うほかはありません。

安全をいくら強調しても世界では売れない

福島の復興の最大の課題は、言うまでもなく原発事故による「風評被害」の払拭であり、それはいまなお続いています。

上記のTBSニュースでも会場のワイン業者の女性が「農業が(原発事故の)影響を受けて、まだ5年くらいしか経ってないでしょ。飲むのをためらいます」と言っています。

風評被害がやっかいなのは、不安に思っている人に対していくらデータで証明しても、いくら安全であることを強調してもあまり効果がないということです。

たとえば、福島県内で生産した玄米は、全量・全袋検査を実施し、その上で食品衛生法に定める一般食品の基準値(100ベクレル/Kg)以下であることを確認し出荷していますが、その事実を言ったところで人の心の中の負のイメージはなかなか消えません。

「原発事故直後、ほまれの海外向け販売額は約25%落ち込んだ。海外から『福島の酒をもらったけど飲みたくないから送り返してもいいか』という電話もあった。原料のコメも水も放射性物質検査を徹底している。これまでに一度も検出されたことはない。だが風評は消えない」(ほまれ酒造の唐橋裕幸社長)

今も韓国への輸出はゼロ。中国への輸出も奮わない状況が続く中、唐橋社長はこう考えたそうです。

「今まで我々は安心安全というものを、すごく集中してやってきたが、もうそれだけじゃ、世界の人たちは受け取ってくれないので、本当にいいものを作るしかない」

出典:ワイン界のアカデミー賞、日本酒部門で福島の酒蔵が優勝(TBSニュース)

安心安全をアピールするだけではダメで、本当にいいもの、圧倒的に「美味しい」酒を造らなければ海外では売れない。

確かに、人がお金を払ってお酒を買うのは「美味しい」からであって、「安全だから」というのは購入のモチベーションにはなりません。それは海外だけでなく国内でも同じでしょう。

「安全性」をまず打ち出さなくてはならなかった福島の事情がありましたが、その次の段階に行くという唐橋社長のコミット通りとなりました。

福島の酒蔵「強さ」の秘密

ではなぜ福島の酒がこれほど強いのでしょうか。この記事にその理由の一つがあります。

授賞式後、唐橋社長は、東海林社長(=筆者注:同じく出品し、トロフィーを受賞した喜多方市「夢心酒造」の代表)の姿を見つけると声を詰まらせた。これまでの苦しい日々を思い出し、「切磋琢磨(せっさたくま)している夢心さんがいたからこそ受賞できた」と感謝の気持ちを伝えた。

東海林社長は「自分のことのようにうれしい」と唐橋社長の肩を抱いた後、「来年はうち(夢心)が取らせてもらいますよ」と笑みを見せた。

出典:磨き合い頂点 英国「IWC」世界一 ほまれ、夢心酒造 ライバル手携え(福島民報)

競合他社の受賞を「自分のことのようにうれしい」と抱き合った「夢心」の東海林社長。個別の酒蔵の戦いというよりは、「チーム戦」のような印象すら受けます。一般の企業論理を超えた何かを感じるエピソードです。

ほまれと夢心だけでなく、福島は酒蔵同士の風通しがいいと言われています。本来なら商売敵であるわけですが、争いを好まない県民性からか、お互いに切磋琢磨する「良きライバル」関係にある場合が多いのです。(これは酒造業界だけではなくその他の業界でもしばしば見られることです)

それに加え、福島の復興という大きな共通の目標があったからこそ、世界の大舞台で強さを発揮できたのではないでしょうか。

世界の舞台で戦える「日本酒」という強力な強みを得た福島。これは復興が次のフェーズに入ったサインなのかもしれません。

(3分8秒ぐらいで、唐橋社長の受賞のスピーチがあります。英語で堂々と福島についてお話されています)

インバウンド観光需要にも期待

昨年、海外向けの福島紹介動画「Shoot Fukushima」の撮影のため、米国人カメラマンDave Powell氏と会津ほまれの蔵元を訪れました。1300坪の美しい庭園を眺めながら、おすすめ日本酒の試飲ができるコーナーをDaveはとても気に入り、試飲した酒を買っていました。

試飲コーナーで日本酒を飲むDave Powell氏
試飲コーナーで日本酒を飲むDave Powell氏

喜多方はラーメンや蔵の風景で有名な街ですが、さらに「チャンピオンサケの蔵」を始めとした蔵元めぐりという魅力も加わり、海外からの観光客にとってさらに魅力的なツアーになることでしょう。

今回の受賞によって福島の「酒ツーリズム」での観光活性化も期待しています。