第一原発の中に入って改めて考えた「福島のHAPPY」

熊坂仁美です。地元福島では「ハッピーの熊坂さん」と呼ばれることが多くてちょっと恥ずかしいです。

3.11以降、原発関連の報道で暗いイメージがすっかり定着してしまった福島。実際、避難をされている方はいまだに10万人もいます。しかしほとんどの地域ではみな普通の日常を送っていて、他の地域と変わりません。でもそれがなかなか伝わらず、いわゆる風評被害を生んでいました。

福島のいい面をもっと多くの人に伝えたい。そこで昨年、福島在住の方約200人に協力いただき、ファレル・ウィリアムスの大ヒット曲に合わせて踊る「福島版HAPPY」を作りました

被災地のイメージと真逆の「HAPPY」というテーマ、そして底抜けに明るい市民ダンサーの皆さんが話題となり、国内外のメディアに多数取り上げられました。YouTubeにアップした動画はこれまでで86万回再生。コメント欄には「正気か?」とか「Nuclear(核) Happy」などの茶化しもありましたが、その10倍ぐらい「元気が出た」「福島に行ってみたい」といったポジティブな感想を世界中からいただきました。

原発問題や現状の課題などの報道はマスメディアに任せておいて、一般市民の私はマスメディアでは伝えられない、福島の日常のHAPPYや地域の魅力をソーシャルメディアやブログを使って発信していこう。そう考えて、HAPPYをきっかけに、福島からさまざまな情報発信を行ってきました。

そんな矢先、今度は福島の「課題部分」を直視する機会をいただきました。ヤフー主催の福島第一原発見学会にお誘いいただいたのです。原発の中に入る本格的な視察です。

興味はすごくあるけど、正直重い話だし、専門家でもジャーナリストでもない私に伝えられることが果たしてあるのだろうか。迷いました。

そこで地元の友人に聞いてみたところ、意外なことに、全員「行った方がいい」との答え。「うらやましい」「自分も行きたい」と。考えてみれば福島に住んでいても、原発の中に入る機会はそうはありません。私自身も、これから原発とどうつきあっていったらいいのかもやもやしていたので、考えるいいきっかけにもなります。

震災4年目を目前にした3月9日朝、福島市の自宅を出発して開通したばかりの常磐自動車道を通り、待ち合わせ場所「Jビレッジ」を目指しました。ここで東京方面から来るヤフーのオーサー5名、社員の方2名の計7名のグループに合流し、東電の方の説明を受けた後、バスで40分ほど離れた第一原発に向かいました。

原発に入るのには、身分証チェック、検査、装備など手続きがたくさんあります。

一番時間がかかったのは「防護服」に着替えることでした。正確には「タイベック」と言われる高密度不織布のジャンプスーツ。その下には線量計を入れるためのポケットつきのベストを着ます。ゴーグル、マスク、紙の帽子の上にヘルメット、三重の手袋、二重の軍足、ゴム製の靴、その上に靴カバーといういでたち。もちろん、こんな重装備をしたのは生まれて初めてです。

普通の手袋の上にゴム手袋を2枚重ねてガムテープで留める
普通の手袋の上にゴム手袋を2枚重ねてガムテープで留める
胸ポケットに入れる線量計
胸ポケットに入れる線量計

ちなみに、こういった装備はすべて男性用です。タイベックは一番小さいサイズがL。153センチの私が着ると膝下に股の部分がきてペンギン状態になります。靴も棚においてあるものは25センチ以上なので、特別にその下のサイズをご用意いただきました。当然かもしれませんが、女性の作業員はゼロ。完全に男の世界です。

広大な敷地の中をバスであちこち移動し、時々バスを降りて東電の方から説明を受けます。敷地内には正味3時間、準備や検査も入れて約5時間の視察でした。

気が遠くなる世界

視察で感じたことは、「気が遠くなるぐらいの規模の大きさ」でした。海沿いの広大な敷地の中に、建屋、無数のタンク、大型建築現場用の重機。大型ダンプや作業員を乗せたバンがひっきりなしに通ります。想像よりはるかに荒涼とした世界が広がっていました。

汚染土が収納されている巨大タンク群
汚染土が収納されている巨大タンク群

空間的な規模よりもさらに気が遠くなるのは時間的な規模です。

第一原発は、廃炉に向けて7000人もの作業員が昼夜を問わず作業をしているわけですが、そのほとんどが土木工事。写真のような汚染水や汚染土を入れるタンクの基礎工事をしているそうです。過酷な環境だけど、技術的には一般の工事現場の作業とあまり変わらないのです。

肝心要の「廃炉」にはまだまだ手を付けられていない状況で、その廃炉にしても、今後どうするかの方向性も確定していませんし、いつ終わるか誰もわからない。30年、40年、もしかしたら半世紀以上続くかもしれないのです。

50年もたったら私はもちろんこの世にはおらず、この問題は子どもたちの世代へ引き継ぐことになります。そしてもしかしたらその次の世代まで。

つまり、私たちはこれから孫子の代にわたって原発問題とつきあっていかなければならないのです。

頭ではわかっていたことでしたが、目の前の風景はそれが現実であることを示していて、愕然とするほかはありません。

原発内の問題だけではありません。いま福島では、そこかしこに野ざらしになった汚染土処理の問題や、被災者の方の保証格差の問題、農業や漁業の風評被害の問題など、問題が次から次に出てきて、すべてが解決されることはきっとないでしょう。もし解決されたとしても、今は見えない新たな問題がまた起きてくるかもしれません。

ポジティブな面に目を向けよう

しかし、そんなふうにネガティブなことばかりを考えて一生終わってしまうのは嫌です。ネガティブなところではなく、ポジティブな面に目を向けていきたい。

「廃炉」がこれから半世紀続く一大産業になるのなら、この産業を地元の発展につなげ、地元に利益を還元していってほしい。

いま、無人ロボットやドローンが世界的に注目されていますが、その開発拠点を浜通りに作るという「イノベーション・コースト構想」があります。危険を伴う除染や廃炉作業をロボットが行う、その最先端技術の研究開発を行うのです。

福島・イノベーション・コースト構想 推進会議が発足(福島民報 2014/12/19)

史上最も過酷な原子力事故を経験した地域だからこそ、世界の原子力安全研究の中心地・メッカとなり得るのではないか。世界的にも"Fukushima"と言えば、多くの人が知る地名となっている。

最大のチャレンジを最大のチャンスに変えるために、福島県浜通り全体を、原子力廃炉に伴って生じるさまざまな研究、すなわち、廃炉、放射性廃棄物処分、環境技術、放射線医療、ロボットといった分野の世界最先端の研究開発と教育地域とすることを提案したい。その研究開発から新技術と新産業が創出し、企業の集積が進み、雇用を生み出し、人が集まる、という好循環をつくるのだ。

出典:【内閣府 その7】 福島の未来~「イノベーション・コーストふたば市」構想の実現を!

ピンチをチャンスに変えて地元に利益と活気をもたらすこの構想はすばらしいと思います。ぜひ、これを絵に描いた餅で終わることなく、国主導で迅速に動いていただき、地元にしっかり還元していただけるような仕組みで実行して欲しいと思っています。

こんなにひどい目にあっている福島が、これからいい目にも合うようにならなければ割に合いませんから。

原発内では放射線をどれぐらい浴びるのか

最後に放射線について。

今回チェックしたかったのは、視察によって「どれぐらい放射線を浴びるか」ということでした。

原発内の線量については常にチェックが行われていて、きちんとコントロールされています。結果、視察によって受けた線量は0.02ミリシーベルト。

常に放射線を意識していない方は、基準値がわかりにくいと思いますが、0.02は歯科で検診を2回受けた程度。

ちなみに飛行機でNYを往復すると0.1。原発視察の5倍の放射線を浴びることになります。

画像

また、内部被爆を検査する「ホールボディカウンター」を受けたことは、私的には今回の視察でよかったことの一つです。

福島に引っ越して1年半。毎日福島の空気を吸って、食材は地元のものを買って日常的に食べていますが、内部被曝の数値は東京からの同じグループの方のちょうど平均ぐらい。私より高い数値の人もいらっしゃいました。

いずれにせよ、個人差の範囲であって、福島に住んでいるからといって内部被曝が多いということはないということ。

これからも福島で暮らしていく

福島は暮らしやすくていい町です。

自然に恵まれていて、野菜も果物も、お酒も美味しい。どこにいくにも車で15分以内のコンパクトな町。東京にも1時間半、楽に日帰りができます。そして何より人がのんびりしていて、あたたかい。そこが最大の魅力です。

あのとき福島版HAPPYで表現したかったことは、今も何も変わっていません。

そんな福島のよさを少しでも伝えられる情報発信を、これからも自分なりに続けていこう。

今回、改めてそう思いました。

これまでずっと心の中で「魔の山」のような存在だった原発をこの目で見て、私の中で何かひとつ区切りがついたような気がしています。

(写真はすべてYahoo!ニュース 個人オーサー代表撮影)

2015.3.11.23.38 訂正

視察での被ばく量 0.02マイクロシーベルト→0.02ミリシーベルト