海外からの人気急上昇!スノーリゾート白馬村に学ぶ「風評を食い止める情報発信」3つのポイント

パウダースノーが自慢の白馬は今や世界の人気リゾートに。

熊坂仁美です。福島に住んでいるのにスキーもスノボもできない超インドア派ですが、今週はウィンタースポーツのメッカ白馬村に行ってまいりました。ヤフーニュース個人を通じて白馬村観光局から「地震による風評払拭のため取材に来て欲しい」という要請をいただいたためです。

震度5強の地震でも起きる風評被害

「白馬の地震」とは、昨年11月22日に起きた長野県北部地震(震度5強)のこと。

震度5強の白馬村に全壊多数集落、長野県神城断層地震(日本経済新聞 14/11/27)

長野県によると、11月25日午後5時時点で、県内の負傷者は45人(うち10人が重傷)。住宅被害は、全壊31棟(白馬村27棟、小谷村4棟)、半壊56棟(白馬村17棟、小谷村27棟、長野市12棟)、一部損壊は418棟。非住家の全壊、半壊は74棟(白馬村72棟、長野市2棟)だ。白馬村の建物被害が際立って多い。

建物損壊が多かった今回の地震ですが、幸い死者はなく、約3週間後には一部不通になっていた道路も復旧、観光施設はすべて通常通りの営業となりました。

しかし問題はそのあとです。「白馬は地震で危ない」というイメージがついてしまい、なかなか客足が戻らず困っているとのことでした。年末年始のスキー客は前年度と比べて12.8%減。ここ数年白馬村は利用者が右肩上がりで好調だったとのことでしたが、シーズンスタートに出鼻をくじかれた形になりました。

それにしても、震度5程度の地震でも、このような風評が起きるということに驚きます。地震大国日本ですから、いつでもどこでも震度5クラスの地震が起きてもおかしくありません。天災は避けられませんが、そのあとの風評というのは腹立たしい限りです。なんとか避けられないものなのでしょうか。

10年で世界的な人気スノーリゾートになった白馬村

というようなことを考えながら、新幹線とバスを乗り継いで白馬村に到着。やはり同じ目的で白馬にやってきた2名のオーサーの方とともに岩岳スキー場に向かいました。ちょうど年に一度の「岩岳感謝祭」を開催中で、利用客に豚汁やお餅を振る舞ったり、ゆるキャラたちが総動員で写真撮影に応じたりと、平日にもかかわらず盛り上がっておりました。

大人気の白馬のゆるキャラ「ヴィクトワール・シュヴァルブラン・村男III世」
大人気の白馬のゆるキャラ「ヴィクトワール・シュヴァルブラン・村男III世」

白馬に来てまず驚いたのは、外国人客がものすごく多いことです。極端な言い方をすればすれ違う人はほとんど外人。10年ほど前から、時差のないオーストラリアに絞ったスキー客誘致が大成功し、いまや「HAKUBA」はニセコと並び世界の人気スキーリゾートになっているそうなのです。成田から白馬までの直行バスが出ているので、東京に寄ることなく白馬だけに滞在して帰国する観光客も多いとか。逆に白馬をベースにして東京への日帰りツアーなども行われているそう。時代は変わりましたね。

さて、外国人の何人かに今回の地震についてインタビューしてみましたが、みな異口同音に「地震のことは知らなかった」「知ったとしても気にしない」と言っていました。どうやら日本人より海外の人のほうが楽観的で、地震に影響されなさそうです。

ちなみに外国人客は長期滞在型で平均は7泊から10泊だそうです。日本人が土日のみに集中するのに対し、外国人は平日にお金を落としてくれるありがたい存在。なんと、一人一日平均32,000円(日本人は2万円弱)も使うのだとか。

国も外国人客の受け入れや活性化に力を入れているようです。

観光庁、スノーリゾート活性化へ検討会設置(観光行政 15/2/7)

シドニーから来たスノーボーダー ティムとダイアン
シドニーから来たスノーボーダー ティムとダイアン

3度目の白馬だというシドニーのティムはテレビ局勤務の24歳。今回の滞在は10日間。隣にいたガールフレンドダイアンはIT会社勤務、二人ともスノーボーダーです。全般的に客層がよく、リピーターも多そうです。お土産ショップの店員さんに聞くと、平日買い物するのははほとんど外国人で、アップルパイなどの箱菓子やニンジャなどのフィギュア、キティちゃんグッズなどがよく売れているとのこと。

風評被害と聞いて、ゲレンデも閑散としているのかなと思いきや見事に裏切られました。十分に賑わっているし、しかも国際色豊か。少なくとも私が見聞きした限りはネガティブな要素はみじんも感じられませんでしたが、実際はどうなのでしょうか。

岩岳を後にし、白馬村観光局に行って職員の方に話を伺いました。

「守りの情報発信」3つのポイント

白馬村観光局 局次長 松沢晶二氏(左)総務 新路拓也氏(右)
白馬村観光局 局次長 松沢晶二氏(左)総務 新路拓也氏(右)

まず気になったのは、地震のあと、実際どれぐらいキャンセルが起きたかということ。

白馬村のあるホテルでは地震後数日間で約60%のキャンセルが出て220万の損失。大町温泉では12月1日までに16施設、1130人、計890万の損失があったそうです。特に修学旅行や子どもキャンプなど保護者なしの行事のキャンセルが相次ぎました。やはり相当の打撃を受けていたのですね。

これは大変ということで、行政、観光関係者、事業者が一体となって風評被害を防ぐ施策を徹底的に行うことになり、今もその途上にあります。

注目すべきはその施策の幅広さと行動範囲です。「風評対策のためのプロモーションプラン」という内部資料を見せていただきましたが、オンライン、オフライン、イベント、キャンペーンなど施策は全方位にわたり、スケジュールがA3用紙裏表にびっしりと書かれているのです。

「思いつくもの、やれることはすべてやる」という意気込みがびんびん伝わってきます。さすが、わずか10年であそこまでの国際観光地にした白馬村、観光への力の入れ方が違います。そこには「風評対策」だけでなく「風評を起こさない」ための知恵もありました。

「守りの情報発信」という言葉が浮かびます。話を伺いながら、これは観光業のみならず、何かトラブルが起きた際の企業のメディア対策として多くの人の参考になると思いました。

ということで、なるほどと思ったポイントを3つにまとめてみます。

1, 最初の3日間はネットでの発信に力を入れる

「正確な情報を発信することが大事」と職員の皆さんは異口同音に言います。特に、地震直後の3日間は旅行予定者などが検索して確認するためホームページのアクセスがぐんと上がります。このタイミングで検索者に必要な情報を提供することが大事。そのあとはマスメディアが報道するため利用者はそちらを参照するようになるからです。

白馬では今回、地震直後はとてもホームページに情報を載せる余裕がなかったとのことでしたが、もしすぐに被害状況、道路状況など正確な公式情報をネットで発信できていれば、「危なそう」「なんとなく心配」といった風評を少しでも緩和できたのではないでしょうか。

2, 地図や動画などで情報をビジュアル化する

状況をわかりやすく伝えるために観光局が作成した被害状況の地図
状況をわかりやすく伝えるために観光局が作成した被害状況の地図

報道関係者向けの情報で一番効果的だったのが被害状況を書いた地図でした。「○○地域」「国道○号線」という表現だけでは土地勘のない外部の人は位置関係がつかめません。通行止めの部分、被害地域、スキー場との位置関係などをわかりやすくまとめた「白馬村の被害・復旧状況」の地図(右図)は正確な報道をしてもらうのに大きな役割を果たしました。

また、利用者に道路の通行状況を伝えるため、GoPro(小さな動画カメラ)を車載して実際に車を走らせて録画したものをYouTubeにアップ、それを白馬村観光局のFacebookに投稿し好評だったとのこと。たしかに、車利用の観光客にとって、一番わかりやすい情報ですね。

3, マスメディアに協力をお願いする

ニュースを伝えるのがマスメディアの使命ですが、逆にそれが風評を生むきっかけにもなります。福島のケースもそうですが、インパクトのある被害映像(画像)が繰り返しマスメディアで流れることによってイメージが固定されてしまうのです。「被害状況」は大きなニュースですが、「復旧状況」は全国ニュースになりにくく、ローカルニュースどまりで全国にはほとんど流れません。そのため県外の多くの人は「白馬は地震で大変だ」という情報が更新されないまま止まってしまうのです。

実際、「福島では白い防護服や、マスクをした人が歩いている」といまだに思い込んでいる人が国内ですらたくさんいるのです。

そういったネガティブイメージを塗り替えるには、ポジティブな情報をそれ以上に発信していくしかありません。発信に使うのはソーシャルメディアが手軽ですが、影響力、リーチ力という点ではまだまだマスメディアにはかないません。

白馬村はそのあたりをよくわかっていて、まずは東京で記者会見の場を作って記者たちを集め、復旧したことをアピールしました。地方の観光地が東京に出向いて記者会見などなかなかできることではありませんが、これが非常に効果的だったそうです。

さらに、県にも協力を仰ぎ、全国を行脚して新聞、ラジオ、テレビなどマスメディアを訪問し、時にはゆるキャラも連れて風評払拭のため頑張っていることを記事にしてもらうようお願いしたのです。

また、メディアに取り上げてもらいやすいように、スキー客の売上が「被災者への義援金」となる社会性のあるキャンペーンにするなど知恵を絞りました。努力は功を奏し、訪問したメディアはみな好意的で記事にしてくれたとのこと。

あらゆる手段で正確な情報を伝え、誤解を解いていく

「あらゆる手段を使って正確な情報を伝え、地道に誤解を解いていく」という白馬村の情報発信のスタンス。観光地の情報発信というとつい誘客のための「攻め」にウェイトを置きがちですが、いざというときの「守り」の情報発信は攻め以上に大事です。そしてそれは、災害が起きたときにいきなりできるものではなく、常日頃の実践があるからこそなのです。

風評がひどいわりにはあまり目立った施策のない福島から見ればうらやましい限りです。むしろ過剰かなと思うほどの白馬の風評対策。しかし観光で食べている村ですから、やりすぎるぐらいでちょうどいいのかもれませんね。

これは私の予想ですが、この勢いならば今シーズンが終わったとき白馬村の観光客の入りは、減少どころか増加しているのではないでしょうか。その際にはぜひ、「風評」という名の鬼退治のお手本として、白馬村観光局にはまたいろんな形で情報発信をしていただきたいと思っています。

岩岳感謝祭にて、観光PR用写真のモデルをしていた地元の皆さん
岩岳感謝祭にて、観光PR用写真のモデルをしていた地元の皆さん

※今回の取材は、昨年の地震による風評被害払拭を目的に、白馬村観光局がYahoo!ニュース個人編集部を通して「白馬村の今を発信してほしい」という呼びかけを行い実現したものであり、交通費・宿泊費の実費について白馬村観光局が負担しています。

※記事に対する謝礼や対価はなく、また、記事内容についての制約や取り決めは一切ありません。