集団的自衛権を考える(2/2)

出演者:秋山昌廣氏(東京財団理事長、元防衛事務次官)

神谷万丈氏(防衛大学校総合安全保障研究科教授)

道下徳成氏(政策研究大学院大学教授)

司会者:工藤泰志(言論NPO代表)

アメリカから見た日本の集団的自衛権

工藤:ここでまたアンケート結果を紹介します。まず、「集団的自衛権の行使を今回容認することの目的について、石破自民党幹事長は様々なインタビューで、日米同盟を強化することで抑止力の向上が実現できる、と主張しています。あなたは、この考えに賛成できますか」という質問です。これに対して「賛成」という回答が49.7%と半数近くありました。ただ、「反対」という回答も32.1%ありました。

集団的自衛権の行使容認の目的として、日米同盟をより機能させるため、という理由は分かるのですが、今の北東アジアの安全保障上のイシューとして、なぜ今そこまでやらなければならないのか。そもそも本当にアメリカは集団的自衛権の行使について積極的に期待しているのだろうか、ということについて若干疑問があるのですが、このあたりについてはどうでしょうか。

秋山:アメリカから見ると、冷戦が終わった後、かえって世界の安全保障環境が複雑になった。特に、北東アジアでは北朝鮮の核開発疑惑から始まる朝鮮半島有事が念頭にある中、何かが起こったときに、アメリカにとってアジアにおける最大の同盟国である日本は何もできないのか、というところからアメリカにとっての日本の集団的自衛権の問題は始まっていると思います。

集団的自衛権の行使というのはある意味で、武力装置の発動です。たとえそれが日本によるアメリカのための後方支援、あるいは、医療援助であったとしてもそれを戦闘行為とみなされれば武力の行使にあたってしまうわけです。

石破さんは、そういう武力行使の問題が起こらないように、アメリカを支援するようにする。それが、戦争が起こらないようにするための抑止力を高めることにつながる、ということを主張しているわけで、これは非常に正しい話だと思います。

では、具体的に北東アジアで何が起こるのか。1990年代以降から考えてみるとやはり、日本周辺での有事だと思います。例えば、中国の海洋進出に伴い東シナ海、南シナ海で起こっている問題について、米国との関係では集団的自衛権の行使ということになると、それは平時の集団的自衛権の行使になります。平時における集団的自衛権の行使であれば、日本の個別自衛権の行使と同様に十分あり得る話です。これは非常に力の発動が薄いケースや、本格的な交戦に至るケースなど色々あると思いますが、それはあり得る話だと思います。石破さんの発言によれば、それを抑止するために、平時における集団的自衛権の行使を認めよう、ということだと思います。

工藤:現在の北東アジアにおける安全保障上のイシューが尖閣問題だとした場合、例えば、有事の際に海上保安庁がいなければどうなるのだ、など色々な議論があります。ただ、これは日本の国内法で対応をどうするか、という問題であって、憲法や集団的自衛権の問題ではないわけです。しかし、こうした問題も一緒くたになって議論されています。こういった様々な問題はなぜ整理されていないのでしょうか。

秋山:東シナ海、そして尖閣諸島の問題について、今、議論されているのは、まず平時における個別自衛権の発動です。現在は、海上警察である海上保安庁が対応しているわけですが、その能力を越えれば海上警備行動として自衛隊の出動があり得ます。しかし、海上警備行動では対応できないだろう、ということが目に見えているわけです。そうすると、自衛隊の自衛権の発動がないと対応できない。これは憲法上の問題ではありません。ただし、そこに同盟国アメリカも関与してくれば、平時の集団的自衛権の行使という問題が出てくる。それでこんがらがっているように見えるのだと思います。

工藤:今まで集団的自衛権の行使は、朝鮮半島などの有事をベースにしており、アメリカのニーズでもあったと思うのですが、今の日本の集団的自衛権の行使は直接アメリカのニーズを満たすものなのでしょうか。最近、国際会議でワシントンに行き、色々な議論をする機会があったのですが、アメリカに対して、アジアにおける平和的な環境づくりにリーダーシップを発揮してほしいという声がかなり大きくありました。

道下:アメリカは今まで、どちらかというと単独でアジア全体の面倒を見ていたわけですが、やはり単独では難しいから、日本とアメリカが共同のリーダーになって、全体を役割分担して協力しながらやりましょう、という方針に転換したと思います。つまり、日本がよりアジア地域全体の安全保障にコミットすることによってアメリカの負担が減る、という意味での対米協調であって、アメリカの軍事オペレーション、作戦に直接協力するという1990年代の朝鮮半島シナリオにあったものとは違うものであると私は思っています。

工藤:日本人が、平和憲法下で軍事に関する問題をあまり考えなかったために、色々な安全保障上の歪みとなり、色々な問題を放置したまま来てしまった状況の中では、この集団的自衛権の行使容認には非常に意味がある、という神谷さんのおっしゃることは分かります。しかし、このロジックは、積極的平和主義でもそうなのでしょうか。何を目的としているかなかなか分からないところがあります。

神谷:目的はアジアにおいて、今あるようなタイプの国際秩序が守られないと困る、ということだと思います。「今あるようなタイプ」というのは、よく言われるように、自由で、開かれていて、そして、ルールを基盤にする、ということです。ルールを基盤にする、ということは、先日、オバマさんが来日した時に明確に発言していました。強い国が勝手なことをしていては困るではないか、と言っていましたがまさにこれです。強い国もルールを尊重する、といった秩序を守らないといけない。そのために、この前の日米共同声明では、日本の積極的平和主義と、アメリカのアジアへのリバランスという2つが日米同盟の強化に貢献するということを明確に謳ったわけです。それは、先ほど道下さんがおっしゃったことに関わってきます。アメリカはアジアのことを真面目に考える、ふらふらしない。ただ、財政難で全部やることはできませんので、その分は同盟国、あるいは友好国にお願いしないといけない。特に、日本は一番重要な地域の同盟国としての役割を果たしていく。そのキーワードとして積極的平和主義というものがある。さらにその中に、集団的自衛権というものがある、ということだと思います。要するに、同盟というのは結局、お互い様ということがあって、日本にとっては集団的自衛権がなくても何とかなりますが、アメリカ側から見て日米同盟が魅力的な装置であるか否かという点は、日本では見逃されがちです。日本にとって日米同盟は柱ですが、アメリカから見てもアジア政策の柱だということを言い続けてもらわないと、抑止力が持たないわけです。日本のコミットメントが弱いと、日米同盟がどうしてもふらふらして見える。そこが立て直されると、石破さんがおっしゃるように、抑止力の強化になると思いますが、中国は喜びません。中国は、日本が安全保障面でこれまでよりも何か新しい積極的なことを行えば何で、あれ喜ばないのですが、問題は、中国が喜ばないことをしないで、今ある秩序を今あるようなかたちで残していけるか、というと少々疑問だということです。

中国に対しては「抑止」と「対話」の両輪が必要

工藤:もう一つのアンケート結果を紹介します。「あなたは、日本が集団的自衛権の行使を可能とすることが、現在、緊張が高まる北東アジアにどのような影響を及ぼすと思いますか」と質問したところ、意見が分かれました。先ほどからお話に出ている「抑止力」に関連して「抑止力が高まるので、平和的な環境づくりに寄与する」という回答が41.2%でしたが、それよりも多かったのが「近隣国と政府間外交のチャネルが十分機能しておらず、かえって北東アジアの緊張が高まる」という回答で42.7%でした。つまり、抑止のジレンマという状態になって、逆に軍事拡大をしてしまうととらえられているのだと思いますが、いかがでしょうか。

道下:もちろん、そういうリスクはあると思います。したがって、日本が集団的自衛権を行使する、ということを踏まえて、共同の安全保障のための行動を地域の諸国とともにとる。その際にはバランスを考えながら、刺激的な行動を控えることが大事だと思います。最初は東南アジアの国々に対するキャパシティビルディングや共同訓練などを、一つひとつ積み上げていく。例えば、中国がどこかの島を襲ってくるのに対して、日本も一緒になって守る、ということは非常に難しいわけです。いずれにせよそんなに重要性の高い行動はとれないと思います。

それから、日本はかなり重要な政策変更を行うわけですから、アジアの国々、特に、韓国、中国などは懸念を示してくると思います。ただ、この点について、私は楽観的な見方をしています。なぜかと言うと、今まで日本は「自分が地域の安全と平和に資する国である」ということを説明するときに「何もしないから安心してください」と言っていました。これは非常に危険なことですし、説得力もない。なぜかと言うと、「何もしないから安心してください」というのは、「本当は私は危ない可能性があるけれど、でも、何もしないから大丈夫ですよ」という説明になってしまうからです。その結果、「実は日本は危ない国である可能性がある」という印象を与えてしまっていたわけです。ですから、今後は「きちんと責任のある行動をとる。それによって多少は小さなミスもあるかもしれませんが、地域の安全保障に資する、そして平和と繁栄に資する行動をとっていく」ということをしっかりと証明していく。それが長期的にも日本の国際社会における名声を高め、平和愛好国家としての地位を強めると思いますし、地域の平和と安定にも資することになると思います。

これは中国の国益にも資することだと思います。というのは、戦前の日本は、今の中国のようにどんどん台頭してアジアを侵略し、最後には太平洋戦争に突入したわけですが、その当時、残念ながらアジアには日本を抑止できる国家がなかったわけです。日本の国内政治が混乱し、政策決定プロセスもおかしくなったときに、誰も止められなかった。中国の最近の行動を見ると、国内にかなり危険な思想を持っている人間がいるのではないか、という懸念があります。これを周辺諸国がきちんと止める力と意思を持っていれば、中国の国内でも「平和的に台頭しよう、平和的に発展したい」と考えている人も多数いるはずですので、「軍事力を背景として台頭していくことはやめよう、平和的な共存共栄を図っていくべきだ」という声が、中国国内でも高まっていくと思いますし、そういったことが理想的な流れだと思います。

工藤:アジアが不安定化する、緊張がさらに高まるのではないか、という懸念の最大の要因は、日本と近隣国との政府間外交がほとんど機能していない、という状況があるからです。機能していない状況で、抑止をベースにしたかたちだけを進めれば、人間関係と同じように緊張が高まるのも当然だと思います。このあたりをどううまくマネージメントしていくべきなのでしょうか。

秋山:率直に言って、アンケートで緊張が高まるのではないか、という回答が多いのは、割と自然なことではないかと思います。やはり、平和や安全保障の秩序維持のためには力が必要だという話の関連で集団的自衛権の行使がありますから、そういう意味で緊張が高まるという回答は間違いではないと思います。

それから、日本とアメリカの間で、日米防衛ガイドラインがありますが、その中の一つの大きな柱が、要するに役割分担です。先ほどから議論にあるように、アメリカから見た場合に、アジア太平洋地域における平和と安定のために、もっと日本の役割があるのではないか、消極的平和主義ではどうしようもない、積極的平和主義で日米ともに一緒にやろう、ということが背景にあると思います。緊張が高まるという要素もあるかもしれませんが、それによって新しい平和のためのシステムをつくっていこうということなのだと思います。

工藤:そのための外交上の努力が必要ですよね。抑止の前には外交がなければ話になりませんよね。

道下:中国は今、「日本やアメリカ、そして地域の各国が対中抑止力を高めるような行動を取ったら対話はできない」と言っています。ただそれは、抑止されないための牽制行動です。実際は両方やるべきです。つまり、抑止をするけれども対話もする。中国も本当に戦争をしたいと思っているわけではないでしょうし、偶発事故が起こって、それが思いがけない方向に進んでしまうことは中国の平和的発展にも大きなマイナスになります。ですから、地域の国々と協力を深めながら抑止をやっていく一方で、日本では特に言論NPOさんには頑張っていただきたいのですが、中国と対話をやっていくことが必要です。

神谷:勝手なことをさせない。その代わり、勝手なことをしないという前提の下で、力ではなく対話でいこう、という両輪が必要だと思います。

工藤:今日は非常に難しい問題を、一般の視聴者を意識しながら分かりやすく解説していただきました。ただ、このテーマはやはり、もっとやらなければ、と思いましたのでまた議論したいと思います。ということで、皆さん、今日はありがとうございました。