無業の若者に就活スーツを届ける持続可能な仕組み

レナウン社で行われた記者発表(撮影:育て上げネット)

先日、一本の電話があった。

「スーツを貸してもらえませんか」

ある少年院を出院した少年は、スーツを着用して採用面接に臨みたがっていた。実際、スーツ着用の有無が採用面接に影響するのかはわからない。その仕事は、業務上スーツが必要なものではなかった。しかし、わずかでも採用可能性を高めるため、不採用可能性をなくすためにできることをしたかった。

結果は採用だった。

彼は「就労支援」という言葉も、NPOのことも知らなかっただろう。しかし、彼が出院するにあたって、育て上げネットの職員から就職活動で手助けが必要であれば協力をすること、スーツも貸与することができることをあえて伝えていた。きっとスーツなどは持っていないだろうことは彼の話す家庭背景からは想像ができたからだ。

ひとりの知人のために自分のスーツを貸すことぐらいならできるかもしれないが、見知らぬ若者に貸そうとは思わないだろう。ましてや、若者が就活に着用するスーツを持っているか、サイズが合うかどうかは知りようがない。

たかがスーツかもしれないが、これから働いていこうとする若者にとって、少しでも採用可能性を高めるためにできることをしたい。そのなかにスーツなどが含まれるものもいる。

なぜ彼らは、スーツを借りにくるのか? 就職したい彼らが抱えるリアルな実情(HUFFPOST)

そのような若者の窮状を記事にしたところ、一通のメールが届いた。株式会社レナウンが運営するスーツのサブスクリプションサービス「着ルダケ」の担当者からだった。

『着ルダケ』というサービスはお客様に新品のスーツをご提供し、クリーニングと保管も全て当社が行いますので、お客様は「着るだけ」という月額制のスーツレンタルサービスです。二年間でサービスは終了し、お客様からスーツが返却されるのですが、サービスローンチ当初から、返却されたスーツをどうするかということをずっと考えていました。古着として販売することも考えたんですが、わりと状態のいいスーツが返ってくるんです。スーツとして形や役割を保ったまま着て頂くのが、環境負荷もなく良いと思いスーツが必要な方を探していました。

出典:[BRAND TIMES]スーツを「着るだけ」で働きたい人の未来を支援できるプロジェクト“Wear For The Future”とは

状態のいいスーツを環境負荷のない形で生かせるのではないかという想いと、若者に就活スーツを提供できないだろうかと悩んでいた私たちの持つ課題がうまく重なった。

実際、話はとてもスムーズで、「着ルダケ」の関係者はどのような形が、若者が必要とするスーツを、負荷の低い方法で届けることができるかを考えてくれた。

その一方、別の課題の解決方法がなかなか浮かばなかった。育て上げネットにとっては、いただいたスーツをクリーニングして、必要に応じて郵送する費用をどこから捻出するかだった。

一着や二着であればともかく、数百という単位になればコストも大きくなる。だからといって、就活のスーツを必要とする若者がコストを負担することは避けたい。寄付でまかなうことも考えたが、やはり持続可能性を考えた場合に妙案とは思えなかった。

一方、レナウン社としても、スーツの選定はともかく、若者の就活には使えないが状態のよいスーツをどうするかということも考えなければならなかった。

そのときに手を差し伸べてくれたのが、ファッションアイテムの寄付と通販サイトの販売を掛け合わせ、そのアイテムの購入費がNPOの活動資金となる取り組み「FASHION CHARITY PROJECT」(以下、FCP)を運営する株式会社デファクトスタンダードだった。

それぞれの担当者が議論して構築した仕組みはこうだ。

レナウン社から寄付された商品は、FCPを通じて仕訳けられ、育て上げネットへ就活用スーツと寄付という形となる。
レナウン社から寄付された商品は、FCPを通じて仕訳けられ、育て上げネットへ就活用スーツと寄付という形となる。

「着ルダケ」で寄付に回せるスーツをFCPに送ると、FCPが通販サイトでの販売基準を満たす商品を登録する。FCPサイトで販売するが、育て上げネットとして必要と判断したスーツは、就活用として引き取ることができる。

FCPの販売基準に満たない商品でも、就活用で使えるスーツは育て上げネットへ送付される。FCPで販売されたものはレナウン社の名義で育て上げネットへの寄付となり、また販売基準を満たさず、就活用にも活用が難しいものは、FCPが換金し、同じくレナウン社名義で育て上げネットへの寄付となるというものだ。

いま、少しずつ企業が利活用可能な商品、まだ食べることのできる食品などを、NPOと連携して社会的に厳しい状況にあるひとたちに届けていく取り組みが広がっている。

そこでNPO側が直面しやすい課題として、保管や仕分け、配送にかかる人件費を含むコストが議論される。先進的な仕組みの事例としてふるさと納税制度を活用した「こども宅食」などがある。

企業とNPOの二社だけで行うのではなく、多様な主体が知恵とリソースを提供し合うことによって、持続可能な形を創造するようになってきている。

本件は、サブスクリプションビジネスと、リユースビジネス、そして若者支援NPOが協働したモデルであるが、この仕組みに近いものを使って「〇〇は必要か」「〇〇のようなことができるだろうか」という話もいただけるようになった。

就活用のスーツを希望する若者で言えば、靴やベルト、バッグなども貸してもらえないかというニーズもある。ビジネス上の課題も、NPOにとっては解決手段として非常に魅力的なこともあり、さらに別の主体がかかわることで、持続可能性を高められる可能性があり、もしかしたら意識しせずに活用しているサービスが、誰かの支えになっていた。そんなこともあるかもしれない。