若年無業者延べ5万人受講 企業とNPOの協働プロジェクトが政策へ

レポート公開に先駆けた発表イベントには多くの参加があった。(育て上げネット撮影)

昨年度、日本マイクロソフト社との協働事業であるITを活用した若者支援プロジェクト「若者UPプロジェクト」が、厚生労働省の若者支援施策「地域若者サポートステーション」に事業継承された。2010年度に首都圏5カ所で始まったプロジェクトは、2017年度には全国41団体に広がり、延べ5万人の無業の若者に基本的なITスキルの習得機会を提供することができた。

この間、協働団体数の伸び悩みや若者にうまく情報を届けることができないなどさまざまな課題もあった。壁にあたるごとに試行錯誤を繰り返し、プロジェクト開始当初から目指した「日本のどこにいても、若者が機会を得られる状況」を目指してきた。

民間企業とNPOの協働においては、プロジェクトの出口として制度や政策のアップデートを目標におくことも少なくない。若者UPプロジェクトが継承されることが決まった際、多くのNPO関係者から、プロジェクトの開始から終了までの協働プロセスをケースレポートとしてまとめてほしいという声をいただいた。

過去の資料やデータを掘り起こし、ステークスホルダーのヒアリングを経て、この度、ケースレポートを公開させていただくに至った。

若者UPプロジェクト - コレクティブインパクトによる社会的課題の解決」 (レポートDLはこちらから)

「若者UPプロジェクト - コレクティブインパクトによる社会的課題の解決」表紙(筆者作成)
「若者UPプロジェクト - コレクティブインパクトによる社会的課題の解決」表紙(筆者作成)

私たちがプロジェクトを開始した当初、コレクティブインパクトという言葉を耳にすることはなかった。しかし、若者UPプロジェクトはコレクティブインパクトの一つの事例という評価もあり、本レポートではコレクティブインパクトの観点からプロジェクトをまとめた。

いま、個別の努力の限界を超えて、企業を含めた多数のプレーヤー間の協働を通じて、ソーシャルイノベーションを起こそうという新しいアプローチが生まれている。これは「コレクティブ・インパクト」と名付けられ、大きな潮流となりつつある。

出典:Harvard Business Review

どのような事業でも強く問われるのが持続可能性だ。それはNPO活動でも、企業や行政との協働でも常に思考しなければならないものであり、ある事業が先々まで継続できるための仕組みをいかに構築するのか。それは非営利活動であっても同様である。

最近では複数年のプロジェクトも少しずつ増えてきたが、基本的には単年度のプロジェクトであることが多く、「この資金がなくなった

後、プロジェクトの持続性をどのように見込んでいますか?」と、当たり前のように問われるようになった。

若者UPプロジェクトは結果として7年もの長期プロジェクトとなったが、毎年が最終年度になる可能性は常に存在していた。そのため、初年度より問われた持続可能性に対して、どのように予算を活用するのかを関係者で長く議論した。

結論として、無業の若者が基本的なITスキルを習得するにあたって、その講習講師を外注しないことに決めた。それより、支援者が講師としてのファシリテーションスキルを獲得し、「支援者」の視点を重ねることで、持続可能性の担保を試みた。

そのため予算の多くを全国の支援者の集合研修、エリア講習などに充て、横のつながりのなかでノウハウや経験を共有する機会に投資した。これであればプロジェクトが終了しても、講師スキルを身に付けた支援者が現場に残るからだ。

ただし、プロジェクトの広がりに対して、すべてが順調であったわけではない。基本的なITスキルを我流で身に付けた支援者にとって、機能名称を正確に覚え、日常生活のなかでパソコンに触れることが少ない若者にスキル伝承することは簡単ではなかった。

また、事業所によっては、IT講習の環境が脆弱で、支援者は講師としての講習のほか、環境設定も求められることがあった。当初は事務局一か所でサポートしていたが、プロジェクトが広がるなかでサポートオフィスを全国四カ所に設定し、エリア内の団体で集まっての研修や事業所に伺ってのサポートも行った。

全国41カ所に広がったプロジェクトの参画団体には、少なからず前出の地域若者サポートステーションを受託していた。プロジェクト開始当初から厚生労働省の担当課とコミュニケーションを取って来たが、少しずつ成果が認知され、2017年度から本格的に若者UPプロジェクトの政策的継承の議論が深まっていった。

最終的に、全国約170か所の地域若者サポートステーションの受託団体は、ITスキル講習を行うかどうか選択できるようになった。必ずしも若者UPプロジェクトとして実施する必要はなく、それも選択制だ。

企業とNPOの協働の目的は、必ずしも大きな広がりや行政への事業継承なわけではない。しかし、少なからず目標や期待になるのは、プロジェクトが終了しても事業や価値が引き継がれていくこと、自分たちの手を離れて広がっていくこと。それにより課題の解決や個人がエンパワーされることではないか。

2017年度を持って若者UPプロジェクトは行政への政策的継承という形で終了した(定着までのサポートはしている)。少し寂しさは残るものの、プロジェクトの終了が関係者の笑顔で終れたのは、プロジェクトが継承されたこと以上に、関係者の手を離れてもなおプロジェクトの持続可能性が担保されたことによるものだと考えている。