高校受験、模擬試験を受けてみたいと希望した子どもたちのこと。

子どもたちが受けてみたいと希望した模擬試験結果(撮影:筆者)

都立そっくりもぎ(進学研究会Vもぎ)の結果が返ってきた。育て上げネットの学習支援事業「まなびタス」に通う中学三年生13名の試験結果を見て、担当者は二つの言葉を口にした。

「この時期に受験させることができてよかった」

「中学の内申との乖離が大きい子どもたちが多い」

まなびタスに通う65名の生徒(2018年9月20日現在)の多くが経済的に苦しい家庭の子どもたちで、生活保護家庭や就学援助を受けている家庭もある。いまは高校進学は義務教育の延長のようなもので、子どもたちも全員高校進学を希望しているが、一般的な塾に通っていない。

子どもの貧困という言葉が根付き、厚生労働省の生活困窮者自立支援制度「生活困窮世帯の子どもの学習支援」や自治体独自の支援、民間の取り組みで、多くの子どもたちの学びを支える取り組みが広がっている。多くの場合、学習支援に特化しており、子どもたちに定期的、不定期的に学習機会を提供するものである。

しかしながら、それらを活用する子どもたちは学習支援だけを必要としているわけではなく、食事や他者とのつながり、多くの子どもたちが家庭内で経験するキャンプやスポーツ観戦など、文化資本の形成に不可欠な体験も必要としている。

公的な資金用途が学習機会の提供に限定されることが少なからずあるなかで、その他の経験にかかるコストは、ボランティアや寄付によって成り立っている。私たちも毎年クラウドファンディングや個人・企業からの寄付で多様な経験を子どもたちに提供している。

今回、都立高校受験を希望する中学三年生が受けた模擬試験費用もそこから拠出させていただいている。模擬試験を提供する企業担当者に話を聞いたとき、だいたい中学三年生で3回から4回くらいは受験するという。1回の受験料が4,000円から5,000円かかるので、家庭への負担は大きい。

子どもたちに模擬試験を受ける機会を提供することにした理由は、子どもたちからの「受けたい」「受けてみたい」が発端であった。同級生が当たり前のように受けている模擬試験を受けられないことは本番への不安と同時に、自分は受けることができないというつらい気持ちになるからだと言う。

また、ある高校の校長先生は、進路指導にあたっては、学校での定期テストの結果や生活態度を含む内申だけでなく、民間の模擬試験による志望校への判定は不可欠だと話していた。しかしながら、あくまでも民間のもので任意で受けるものであるため、受験費用の捻出が難しい環境下にある中学三年生にとって、受けられないことは高校受験への大きなビハインドになっている。

あきらめていた模擬テスト(工藤啓)- Y!ニュース

過去にも模擬試験に関して執筆したが、二年目(実質2回目)となった今回は、早いタイミングで初めての模擬試験、その結果を見ることができ、受験生にとっての模擬試験の重要性を強く感じることになった。

体育会系の部活で汗を流し、明るい性格のAくんは教室の中心的な人物である。学校の成績は五段階で4が並ぶ。学校の定期テストも平均点を大きく超え、得意教科は高得点を獲得する。希望する高校は内申点から判断するとやや高めではあるが、まったく手が届かないというところでもない。

初めての模擬試験に対して学習支援スタッフはそれなりの偏差値が出るのではないかと考えていたが、結果は厳しいものであった。偏差値50を超えたのは一教科で、苦手科目は30台と、合格には程遠い判定となった。学校の成績と模擬試験の乖離は大きかった。

全日制普通科の高校に進学したいが、自分は勉強ができない存在であると思い込んでいるBさんは、内申もかなり低い水準となっている。家庭の経済力はかなり厳しいが、家族関係は良好だ。小学校の頃から学習習慣がなく、中学に入って授業についていけなくなった。いまは「何がわからないかもわからない」状態だと言う。

そんなBさんも模擬試験を受けたいと手を挙げてくれた。結果は相当厳しいものであったが、それ以上にスタッフが気にしたのは、志望校をひとつも記載できなかったことだった。高校には行きたいが、漠然と勉強ができない自分にとって、志望校を考え、選ぶというところまでたどり着いていないようであった。もちろん、どこでもいいと思っているわけではないが、志望校選びの前提となる進学志望先に求める希望や期待すら持つことができない状態である。

Bさんは志望校を記載することができなかった(撮影:筆者)
Bさんは志望校を記載することができなかった(撮影:筆者)

初めての模擬試験の結果は、受験者全体的に厳しいものであったが、得意教科で偏差値70を取る子どもや、偏差値60台に手ごたえを感じた子どももいた。また、教科や単元の得手不得手が偏在している子どもも少なくなかった。

高校進学をする子どもたちは、初めて都立受験における自分の立ち位置と志望校との距離を把握し、そこに到達するための道筋や、志望校変更を視野にいれた選択を考えることができるようになった。

前述のAさんは、学校のテストと試験結果の乖離を受け止め、苦手科目に勉強時間を多く割くことを決断した。次の模擬試験をひとつの目標として、日々の受験勉強に取り組んでいる。一方、Bさんは、このままでは全日制普通科に通うことが非常に厳しいことを認識しつつ、次の模擬試験では自分の志望校を記載し、合格判定をしっかり見てみたいと前向きに進路を考えるきっかけとなった。

ご寄付により希望者全員が受験した模擬試験は、学習支援スタッフにも個々の生徒をどのように支えていくのかという羅針盤になったという。

スタッフのひとりは、「学校の先生は頑張ってくださっていますが、ここにいる多くの子どもたちは進路における助言やフィードバックをしてくれるひとたちの質量が不足しているように思います。また、日々の学習支援だけでは、子どもたちの高校受験における学力が把握できず、どの教科、どの単元がどれくらいできているのか、できていないのかがわかりません。今回の結果は、個々の生徒を支え、希望実現に寄り添うための羅針盤になります」と言う。

子どもたちは総じてご寄付くださった個人、企業の方々に感謝の気持ちを持っている。そして、お気持ちに応えるため、毎日、コツコツと机に向かって努力することを始めることができたのは、子どもたちの学びや成長を支えてくださる寄付者の皆様のおかげであり、この場を借りて御礼したい。