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子ども・若者育成推進法の基本理念を実現する「子ども・若者育成支援推進本部」設置が進まない理由

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

2015年5月24日の日本経済新聞に「若者の自立支援、広がらず 協議会設置は82自治体どまり」という記事が出ました。

ニートや引きこもりなどの若者の自立を支援するため、学校や児童相談所、保健所などが連携する協議会を設置しているのは、全国の自治体のうち4月時点で82自治体にとどまることが24日、内閣府の調査で分かった。

出典:日本経済新聞

これは2010年施行の「子ども・若者育成支援推進法」において、子ども・若者支援地域協議会の設置が努力義務となったことから始まっています。

本法の目的は、第一条にある通りですが、次代を担う子ども、若者のなかでもさまざまな困難に直面する状況を踏まえ、総合的な支援施策を推進していこうというものです。

子どもたちや、若者たちを支えていくための協議会設置は努力義務ではありますが、実際に設置したのは82自治体と非常に少ないというのが記事の趣旨です。

ネット上で見つからなかったのですが、手元には平成26年11月に内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室がまとめた「地方公共団体における困難を有する子供・若者の支援に関する調査報告書」があります。報告書では、調査の内容が二つあげられています。ひとつは、地方公共団体における困難を有する子供・若者の支援に関するアンケート調査、もうひとつが協議会設置に関するヒアリング調査です。

そのなかで、整備が進まない理由、課題がまとめられています。設置検討・準備中の自治体と、そもそも設置予定がない自治体にわかれていますが、大きな理由・課題は似通っています。

1. 関係機関・団体等の連携や役割分担が難しい

2. 行政内に担当部署を設置するのが難しい

3. 地域にある既存の支援ネットワークとの役割分担が難しい

4. 関係機関・団体等に新たな負担が増す

5. 協議会整備のための予算がない

その他、設置予定がない自治体においては、「地域に協議会の担い手となる機関や人材が不足してるため」(26.5%, N=906)や「特に必要性を感じていない」(17.5%, N=906)が挙げられています。

私も調査のための委員会に関わらせていただき、各地の現状などをお聞きしましたが、2000年代に入ってから注目されてきた子どもたちや若者への支援が自治体によって大きな差異が存在する理由と似通っていると感じます。

まず、担当部署の問題です。縦割りという言葉で片付けてしまえば簡単ですが、これまで「子ども」や「青少年」を広く対象とする部課局がありましたが、新たに「若者」というジャンルが入り、子どもの部局では受け入れられず、若者のための部局を新たに設置する動きも非常に少ないです。また、本法でも「困難」とありますが、医療や福祉、雇用などを総合的に推進するといっても、それぞれ子どもや若者に特化したものではないため、次世代という年代だけにフォーカスした枠組みを作り切れていません。

これはいまでも続いており、特に若者関係の施策は自治体によって担当部局がさまざまであり、産業労働部局が行っているところもあれば、福祉部局が担当していることもあります。総合、包括的な理念を推進するための部局がそもそも不在のまま、どこかの部署が担うことになる、または、担わないまま施策が行われないということがあります。

もうひとつは、既存のネットワークや協議会などの運営で手一杯となり、特に大きくない自治体では、要保護児童対策地域協議会・児童虐待防止ネットワークや、青少年問題協議会(地方青少年問題協議会法)などに参画する組織や部門、地域団体が重なります。新たに協議会を設置しても、顔ぶれは変わらず、会議や書類が増え、負担が増すだけという考え方が大きいようです。

それであればひとまとめにするなり、2時間の会議のために往復2時間をかけるなど、移動コストを下げるためにオンラインでの参加ができるようにすればよいのですが、うまく庁内調整がいかないようです。

協議会設置や運営について国の予算が確保されているわけではないため、各自治体は追加予算を計上する必要があります。首長の強烈なリーダーシップや、力のある行政職員がいなければ、設置へのインセンティブは働きません。この属人性は非常によく聞かれますが、首長には任期があり、力のある行政職員にも異動があります。特定個人が不在となった段階で、物事が動かなくなるという話はよく聞かれます。

最終的には、日本の次代を担う子どもたちや若者たちのために行政が動けるか。そのために地域や社会が動けるか。また、一定の痛みを伴ってでも限りある財源を次代に投入できるかという話に収れんされてしまいます。

子ども・若者育成支援推進法について(内閣府平成25年度版子ども・若者白書)
子ども・若者育成支援推進法について(内閣府平成25年度版子ども・若者白書)

こちらは協議会設置を含めた子ども・若者育成支援推進法についてのイメージ図ですが、中心の調整機関は行政が担いますが、地域のコーディネーションや、そもそもの支援を担う「指定支援機関」は、必ずしも行政が担わなくてはならないものではありません。

いくつかの自治体では、行政が指定支援機関に運営委託をしていますが、委託に寄らない民間活用、または、委託に頼らない(頼り過ぎない)民間からの提案などで設置推進を図る方法もあるはずです。とは言え、既に設置が進まない理由はある程度明確ですので、ぜひ、さまざまな理由で困難に直面している子どもたち、若者たちのため、自治体首長にはリーダーシップを発揮してほしいと思いますし、そのような首長を応援していきたいと思います。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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