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金融政策の車窓に映る「株安」の捉え方=視界が一段と不良になったとき

窪園博俊時事通信社 解説委員
経済の先行きは常に視界不良なのだが…(写真:アフロ)

 内外株式の下落傾向が続く。この株安が単なる調整か、あるいは不況の予兆かは以前の解説記事を参照して頂きたい。このコラムでは切り口を変え、金融政策運営の観点から「株安」を考察する。まず以下の一文を紹介したい。

 「中央銀行とは、前方の曇った窓ガラスとリア・ミラーと、さらに不正確な速度計を見ながら曲がりくねった道路を走る自動車の運転手のようなもの」。

金融政策運営の難しさを車の運転に例えると…

 これは山口泰・元日銀副総裁が2000年の講演で、不確実な状況で金融政策を運営することの難しさを車の運転に例えたものだ。それによると、「経済の先行きは『曇った窓ガラス』に、不完全な経済データは『リア・ミラー』や『不正確な速度計』に対応。そして、経済の直面する様々なリスクは『曲がりくねった道路』に相当する」という。

 中央銀行の世界ではよく知られた比喩であり、これから金融市場に関わる可能性がある方々には、同講演の(特に最後の部分の)一読を勧める。中央銀行が各市場の動向や経済統計などをどのように捉えるのかは、金融取引にも当てはまるからだ。金融政策の行方を占う際の参考にもなるだろう。

 ここで注意深い読者なら「不完全な経済データがなぜ『リア・ミラー』なのだろう」との疑問を持つかもしれない。経済データが「リア・ミラー」なのは、リアルタイムで現在を反映する統計は存在しないからだ。重要指標の大半は月次だが、先月分が最新となる。統計は過去を映しているのだ。

株価は「経済の先行きの『曇った窓ガラス』に該当

 また、経済データが「不正確な速度計」なのは、正しく捕捉するのが難しいからだ。統計作成で迅速性を重視すると正確性が落ちる。得てして多くの統計は速報値が事後的に修正され、確報値とのかい離が大きくなりやすい。つまり、最初に出た数値は正しいとは限らず、鵜呑みにできないのだ。

 金融政策のハンドルを握る中央銀行は、リア・ミラーに映る少し前の経済を見ながら運転。そして、各指標が示す経済の速度は当てにならない。そうした中、株価はどう位置づけられるだろう。山口氏は具体的に述べなかったが、株価は「経済の先行きの『曇った窓ガラス』」に該当する。株価は先行指標として知られるからだ。ただし、先行きをクリアに示すものではない。

 株価は短期間に大きく上下する。その上下動は様々な波を形成する。下がり続けたかと思えば急に上がったり、横ばいが続いたかと思えば、上か下かに大きく抜けたり、まさに「千鳥足」だ。トレンドを形成することもあるが、その持続性は予見し難い。先行指標ではあるが、捉えどころがない。

リア・ミラーに映る経済の姿は絶好調

 株価は約2カ月前から下落傾向が強まった。「曇った窓ガラス」に透ける景色が急速に視界不良となった格好で、恐らく「曲がりくねった道路」の先には「不況」が待ち構えている可能性は否定できない。ただし、前述のように株価の動きは気まぐれなので、新年早々から反発するかもしれないのだ。

 株価の先行性に重きを置くなら、ここで金融政策のハンドルを切った方がいいのだろう。「2カ月も株安が続くなら不況の予兆である可能性が高い」(大手邦銀アナリスト)からだ。だが、中央銀行の金融政策史において、株安だけを理由に緩和方向に政策転換した事例は知らない。多くは経済指標の悪化を確認してからのハンドル操作(緩和)となる。

 忘れてはいけないのは、世界経済をけん引する米国の経済指標は良好なのだ。最重要の雇用統計は空前の水準に失業率が低下している。米連邦準備制度理事会(FRB)のフロントガラスは株安で視界不良だが、リア・ミラーに映る経済の姿は絶好調だ。株安は一時的な現象で、視界が急に開ける可能性もまた否定できず、今の時点で雇用統計の悪化を見込むのは難しい。

不況入りするかどうかは、失業率の反転上昇で判断

 結論的には、金融政策の車窓に映る「株安」は視界がどんどん不良となり、曲がりくねった道路の先に「不況」という障害が待ち受けていることを示唆するが、リア・ミラーの景色があまりに良好なため、ハンドルを切るには至らないだろう。FRBの利上げペースが鈍化する程度だ。不況入りするかどうかは、失業率が反転上昇するかどうかでしか判断できないのだ。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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