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米長期金利の上昇はどこまで?=いずれにせよ「天井は近い」

窪園博俊時事通信社 解説委員
上昇してきた米長期金利もそろそろ天井圏か。(写真:アフロ)

 米長期金利が3%台に乗せてきた。日本の長期金利もなびいて上昇し、住宅ローンを借りようと思っている方々には気になる動きであろう。そこで単純に水準感だけを知りたい向きに、金融政策運営の観点から考察すると、「そろそろ天井が近い」(大手邦銀)とみられる。さらに上昇が加速していくとは考えにくい。

 

 米長期金利は3%を超えて2011年7月以来約7年3カ月ぶりの高い水準につけた。このところ良好な経済指標が続き、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを継続する、との見方が広がったためだ。財政赤字拡大が懸念されたイタリアが赤字削減に取り組む、と報じられ、安全資産として買われた米国債がやや売り戻されたのも金利上昇につながった。

 さて、長期金利の動向だが、厳密に解説を行うと、債券の価格と利回りが逆であるかのような表記となり、一般読者に分かりにくい。「金利は上昇(価格は下落)」となるからだ。そこで単純な構図として、景気が良い=中央銀行は利上げする=長期金利は上がる、と理解してみよう(現実は複雑だが)。前述のように、景気が良い、利上げが続く、との見方から金利は上昇してきた。

 ここで金融政策運営の観点に着目すると、「FRBはあと何回利上げするのか」が長期金利の上限を判断する上で手掛かりとなる。FRBは9月26日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決定したが、その際に今後の政策金利見通しが示され、20年の利上げ打ち止めが示唆された。

 具体的には、今年が1回、来年が3回、再来年が1回の計5回である。一回の利上げが0.25%とみなすと、合計で1.25%。長期金利も同じ幅で上がるなら、4%台半ばが天井となる計算だ。ただし、これはFRBが予想した通りに経済・物価が好調に推移し、利上げシナリオが完璧だった場合の話だ。

 実際は、得てして中央銀行は将来を楽観し過ぎる傾向があり、順調にはいかない。また、利上げとそれに伴う長期金利の上昇は、経済に逆風となり、利上げするほど腰折れリスクが高まる。さらに、米国の金利上昇は、新興国からの資金流出を強め、世界経済の混乱を招きかねない。

 従って、米長期金利の3%台という水準は「やはり天井圏」(銀行系証券アナリスト)とみるのが妥当であろう。日本の長期金利も上がったとしても程度は限られ、住宅ローンが一方的に切り上がる可能性は低い。

 実は、金利が天井を付けた後の方が住宅ローンどころではない深刻な事態となる恐れがあるのだが、それは別の機会に考察してみたい。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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