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FRBの利上げは妥当なのか=反対したメンバーの「正論」

窪園博俊時事通信社 解説委員
利上げに反対したミネアポリス連銀のカシュカリ総裁(写真:ロイター/アフロ)

米連邦準備制度理事会(FRB)が先週の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切った。景気回復が続く中での利上げは妥当に思えるが、「市場との対話」や物価情勢に照らすと、やや無理があるのは否めない。むしろ、FOMCのメンバーで利上げに反対したミネアポリス連銀のカシュカリ総裁の言い分の方が正論と受け止められる。

事前の利上げ示唆は「市場との対話」として褒められたものではない

今回の利上げは、事前にFRBの高官らが講演などを通じて示唆を行ったため、金融市場には織り込み済みだった。この手の事前の示唆は、利上げがサプライズとなって金融市場を混乱させないために必要な措置と思われるかもしれないが、あるべき「市場との対話」としては褒められたものではない。

理想的なパターンとしては、金融市場が経済指標の改善でインフレ圧力が高まりを感じ取り、利上げを自発的に予見するのが望ましい。金融市場が経済指標をそしゃくした結果として利上げのサインを送るわけだ。これは中央銀行にとって政策変更の重要な手掛かりとなる。まさに未来を映し出す鏡として金融市場を利用できるのだ。

なぜ、そうすべきかと言うと、中央銀行は神ではないので未来は分からないからだ。経済指標が改善し、インフレ期待を高めた金融市場が利上げを織り込む。中央銀行もその織り込みに納得すれば、金融市場と解釈が一致し、より間違いの少ない利上げが可能になる。もし、金融市場のインフレ期待が高まらなければ、その理由を探るべきだ。

ここで安易に利上げを示唆すると、金融市場は経済指標より中央銀行に注目する。中央銀行は政策金利を動かせる主体で、金融市場はそれに反応せざるを得ないからだ。その反応は、経済指標をそしゃくしたものではなく、中央銀行の言動に反応したものにすぎない。金融市場は経済ではなく、中央銀行を映し出す鏡となってしまうのだ。

参考になるカシュカリ総裁の利上げ反対理由

FRB高官らが利上げを示唆する前の金融市場では、特にインフレ期待は高まっていなかった。経済指標の改善は続いていたが、将来のインフレが高進するとの見方は少なかった。利上げ期待が乏しい中で、FRB高官らの示唆が相次いだことで、利上げをやむなく織り込むことになった、という色彩が強い。

もとより、FRBの利上げは、将来の物価上昇を見込んだものだ。ただ、その判断が正しいとは限らない。金融市場が正しい可能性も十分にある。この点で参考になるのは、FOMCのメンバーで唯一利上げに反対したカシュカリ総裁の言い分である。ミネアポリス連銀のホームページに掲載された反対理由を要約すると以下の通り。

「前回会合から指標な経済指標は改善していない」「物価と雇用の目標をまだ達成していない」「市場のインフレ期待は歴史的に低い水準にあり、それほど高まっていない」「他国のインフレが低い中で米国のインフレが急進する可能性は低い」「リスク管理的には、引き締め過ぎるより、緩和し過ぎた方がよい」など。

カシュカリ総裁の反対理由は「米経済・物価の先行きに非常に慎重であり、金融市場の見方に沿っている」(銀行系証券アナリスト)と評価される。また、FOMCの大勢が今年、さらに2回の利上げを見込むのに対し、「カシュカリ総裁の利上げを急がない考えは正論」(大手邦銀)とされる。今後のカシュカリ総裁の発言が注目される。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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