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相次ぐ米銀破綻でFRBの利上げ停止観測も。何が起きているのか。安全とされる米国債を売ったことで破綻?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 シリコンバレーバンク(SVB)が10日、日本の預金保険機構に相当する米連邦預金保険公社(FDIC)管理下に入り、事実上破綻した。これは2008年の金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ2番目の規模の米銀破綻となった。しかも破綻した理由が保有していた米国債にあったとされ、安全資産の米国債保有で何が問題となったのか。

 8日に金融のSVBファイナンシャル・グループは大規模な資金調達を発表していた。仮想通貨関連の取引が多かったシルバーゲート銀行の自主清算発表などを受けて、主たる顧客であるスタートアップ企業などが現金の引き出しを急いだ。これに対応するため、210億ドルの米国債など保有する有価証券を売却した。

 シリコンバレーバンクが保有していた有価証券は約1215億ドル。そのうち9割が米国債及び米国政府証券だった。米国は最も安全な金融資産のひとつとされる。また満期まで持てば額面で償還される。それなのにどうして米国債などの売却で銀行が破綻してしまったのか。

 世界的な物価の上昇を受けて、2022年3月からFRBは利上げを開始した、そのピッチは次第に早まり、急速な利上げによって国債の利回りも大きく上昇した。

 国債の利回りと価格は反対に動く。つまり国債利回りが低いうちに購入した国債価格は、利回りの上昇とともに価格が下落する。ただし、満期まで持てば額面で償還されるから問題ない、とはならなくなったのである。

 国債の価格でみると評価損が大きく膨らんでいたところ、預金者の預金引き出しによって、資金を調達せねばならなくなり、このため償還を待たずに米国債などを途中売却せざるを得なくなった。すると買付価格より売却価格が大幅に安くなっていたことで、急速な国債利回りの上昇を受けて、18億ドルもの損失が計上されてしまったのである。保有債券売却の損失計上と増資の発表をきっかけに、預金引き出しが急増した。

 9日に預金全体の約4分の1に相当する420億ドルが一気に引き出された。アクセスが殺到しSVBのオンラインバンキングの不具合を示す画面がソーシャルメディアに出回り、預金者の不安をかき立てた。株価は6割下落し増資に失敗した(13日付日本経済新聞)。

 いわゆる取り付け騒ぎが発生し、これらを受けて当局が介入せざるを得なくなったことで破綻に至ったのである。米連邦議会下院金融サービス委員会のマクヘンリー委員長は「史上初の、ツイッターであおられた取り付け騒ぎだった」と声明に綴ったとか。

 米金融規制当局は12日、米銀シリコンバレー銀行の経営破綻を受け、全預金者の資金を保証するための措置を打ち出した。これによって預金者の資金は保護されることになった。預金保険の対象外の預金についても預金者に返還される。

 そして12日にはニューヨーク州金融監督当局が、同州地盤の米銀シグネチャー・バンクの事業を同日付で停止したと発表した。10日に経営破綻したシリコンバレーバンク(SVB)に続く破綻となる。資産規模で全米29位のシグネチャー・バンクは米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入り、預金は全額保護される(13日付日本経済新聞)。

 仮想通貨関連の取引が多かったシルバーゲート銀行の自主清算発表とSVB破綻を受けて、暗号資産(仮想通貨)関連企業との取引で知られるシグネチャー・バンクの信用不安も高まったことで、預金流出が加速した。こちらでもいわゆる取り付け騒ぎが発生し、これによって流動性が枯渇し、破綻に追い込まれた。

 ゴールドマン・サックス・グループは最近の米銀行システムへのストレスを受け、連邦準備制度が来週、引き締めサイクルを一時停止すると予想し、今後数カ月の金利の道筋を巡る不確実性に言及した(13日付ブルームバーグ)。

 市場では10日に発表された2月の米雇用統計も受けて、3月21日、22日に開催されるFOMCでは0.5%と利上げ幅を再拡大する可能性が後退し、0.25%のままとするとの予測が強まっている。しかし相次ぐ米銀の経営破綻を受けて、市場での不安心理も高まりつつあることから、ゴールドマン・サックスの予測のようにいったん利上げを停止する可能性もありうると思う。

 2000年7月12日に大手百貨店のそごうグループが経営破綻したことで、日銀は7月17日の金融政策決定会合で「ゼロ金利政策」の解除を見送った。この際と同様に利上げそのものを見送る可能性はありうる。ちなみに次回8月の金融政策決定会合で日銀はゼロ金利解除を決定したが、その際に反対票を投じた一人が植田次期日銀総裁(当時、審議委員)であった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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