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謎の米長期金利の上昇の背景とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 10日に発表された7月の米消費者物価指数は前年同月比8.5%の上昇と6月の9.1%から鈍化した。

 物価のピークアウト感が意識され、米長期金利は米10年債利回りは一時2.67%まで低下した。

 ところがこの日、シカゴ連銀のエバンズ総裁は、7月のCPIを「最初の前向きな統計」と評価しながらも、インフレ率は「受け入れがたいほど高い」と述べたのである。

 つまり米国の物価はピークアウトした可能性はあるものの、引き続き歴史的にみても高い水準にあり、物価抑制のための利上げの動きを緩めることは考えていないことを示した。

 また10日の米国株式市場が大きく上昇していたことで、リスク回避の動きの反動、いわゆるリスクオンも意識されて米債は戻り売りに押された。結局、10日の米10年債利回りは変わらずの2.78%となっていた。

 そして、11日に発表された7月の卸売物価指数は前年同月より9.8%の上昇と上昇率は6月の11.3%から鈍化した。

 11日の米10年債利回りは一時2.90%まで上昇(価格は低下)した。この日の米30年国債の入札が低調な結果となったことも材料視されて売られた側面もあった。

 しかし、それだけでなく物価指数が仮にピークアウトしていたとしても、FRBが来年にも利下げに転じるといったやや気の早い観測が、FRB関係者の発言などを受けて急速に後退していたことも大きい。

 ペロシ米下院議長が8月2日に台湾を訪問すると報じられ、訪問に反対する中国との間で緊張が高まる地政学的リスクも意識され、1日の米10年債利回り(米長期金利)は2.57%に低下した。2日の東京時間では2.54%に低下した。

 米長期金利は2.5%が心理的な節目とされている。7月の利上げによって政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は2.25~2.50%となっていた。ここを下回ると典型的な長短金利逆転現象となる。

 サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は約40年ぶりの高インフレとの闘いはほぼ完了の状況から「ほど遠い」とコメントした。

 ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が中銀目標の達成には「長い道のりがある」との認識を示した。

 セントルイス連銀のブラード総裁は2日、FRBが米経済にリセッション(景気後退)を引き起こさずに高インフレを抑制できるとの認識を示していた。「政策金利の急速な引き上げと量的引き締めの開始で対応している」とも説明した。

 クリーブランド連銀のメスター総裁は、インフレの制御が「健全な経済の基本部分」であるため、米金融当局はそれにコミットしていると述べた。

 これにより米長期金利の2.5%割れはひとまず回避され、2.5%近辺がいったんボトムとして認識されていた。そこから米10年債利回りは徐々に上昇に転じていた。これによるチャートを意識した米債売りも入りやすかった面もある。

 また、10日と11日には原油先物が買われており、これによる物価への影響も意識された可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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