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日銀審議委員にリフレ派が選ばれなかったのは何故か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 文藝春秋2022年9月号の記事のなかで次のような記述があった。

3月1日、岸田政権は日銀の審議委員に岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創を充てると発表した。この人事はリフレ派審議委員の後任を選ぶもの。関係者によるとこの直前、安倍(元首相)は岸田(現首相)に「この人がいいのではないか」とリフレ派のエコノミストを推薦した。しかし、岸田からの答えは「もう決めちゃいましたよ」。(文藝春秋2022年9月号「どうなる? 日銀総裁人事」より)。

 政府は3月1日に日銀の審議委員に岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏と三井住友銀行上席顧問の田村直樹氏を充てる国会同意人事案を衆参両院に提示した。任期は5年。昨年10月に発足した岸田文雄政権が行う初の日銀政策委員会人事となった。

 7月23日に片岡剛士審議委員と鈴木人司審議委員が任期満了となることで、特にリフレ派の片岡審議委員の後任の人事案が注目されていた。そこに安倍元首相が何らかのかたちで関与していたであろうことは想像に難くない。

 そもそも日銀にリフレ派と呼ばれる人達を半ば強引に送り込んできたのは、安倍元政権や菅前政権のときであった。黒田総裁を含めればリフレ派で金融政策決定会合の投票権のあるメンバー9名(政策委員と呼ばれる)のうち過半数となる5人を占めるに至っていた。

 それに対して岸田政権がどのような人物を特にリフレ派の片岡剛士審議委員の後任に据えるのかが注目された。三井住友銀行上席顧問の田村直樹氏は、やはり銀行出身の鈴木人司審議委員の後任なので、これはいわば銀行枠といえた。

 もしこの記事のとおりであるとするならば、いくつかはっきりしたことがある。リフレ派に押されて、安倍元首相経由でリフレ枠の後任の人事案を岸田首相に推薦しようとしたこと。しかし、タイミングからみて、やや遅かったように思われることなどである。

 日銀の役員ともなる審議委員人事も含めた人事権(指名権)は、当然ながら現役の首相にある。自民党での影響力が大きいとはいえ安倍元首相が何と言おうと決めるのは岸田首相となる。

 安倍元首相の推薦のタイミングが遅かったようにみえたのは、この記事にもあったように安倍元首相が日銀の金融政策への関心が薄れていたからとの見方もできるかもしれない。それ以前に、岸田首相はこういったことも見越した上で、事前に人事を決めていた可能性も高い。

 これによって日銀の政策委員のうちリフレ派は総裁も含めると4名となった。これで日銀が政策修正に動けるとの過度な期待は禁物かもしれない。しかし、その環境作りの一環とはなる。それをも見越した人事と言える。むろんこの記事の主題にあったように日銀にとっては、そろそろ固まってもおかしくない次期日銀総裁人事の行方が最大の焦点なのではあるが。

 ちなみに7月23日に日銀の審議委員を任期満了で退任した片岡剛士氏は、8月1日付でPwCコンサルティングのチーフエコノミストに就任した(8月1日付日本経済新聞)。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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