Yahoo!ニュース

「物価安定の目途の『目途』が『目処』とならなかったのは、ふにゃっと感が要因か」

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日銀は29日に2012年1~6月に開いた金融政策決定会合の議事録を公表した。

 2012年2月14日の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途(The Price Stability Goal in the Medium to Long Term)」を示すことにすることを決定した。

 「中長期的な物価安定の目途」とは、消費者物価指数の前年比上昇率で2%以下のプラス領域にあるとある程度幅を持って示すこととした。その上で、「当面は1%を目途(Goal)」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした。実質的なインフレ目標策を導入したことになる。

 どうして2%なのかについては西村副総裁(当時)が下記のように発言していた。

 「最近Fedが彼等のデュアル・マンデートと整合的なロンガーラン・ゴールとしてPCEデフレーターで2%と明示し、欧州中央銀行も長期の目標としてHICPの――2%以下だが――2%に近いと明示していることは、十分に考慮しなければならないと思う。長期の正常状態を想定する時、主要国の多くが共通の物価上昇率を目指しているならば、それと同じ上昇率を目指す必要がある」

 本当に2%で良いのか。これについてはあらためて議論する必要はあると思う。

 そして、白川総裁(当時)は下記のような発言をしていた。

 「政策姿勢の明確化である。具体的な話に入る前に、この議論の位置付けについて、私自身が感じることを申し上げたい。政策姿勢の明確化というテーマで、取り敢えず今申し上げたが、これはある意味で、中央銀行の行う金融政策をどういう原理で行っていくのかという、ある種中央銀行にとって──ややオーバーな言葉かもしれないが──憲法のようなものであって、非常に大きな話である。非常に大きな問題を議論しているという認識のもとに、これは議論した方が良いと思っている」

 その憲法にしばられてしまうとどうなるのか。それが現在の日銀の姿である。

 それはさておき、中長期的な物価安定の目途(The Price Stability Goal in the Medium to Long Term)の「目途」の漢字を使った理由が面白かった。

雨宮理事(当時、現副総裁)

 それから、もう一つ確認したいのが、「めど」の漢字をどうするかである。

石田内閣府副大臣(当時)

 普通は、「めど」は「目処」である。「目途」は「もくと」である。

宮尾委員(当時)

 「目途」は「めど」とも読む。

雨宮理事(当時)

 ぎりぎり言うと、確かに「目処」が「めど」で「目途」は「もくと」であるが、辞書には「目途」も「めど」と書いてあって、一般的にはこの「目途」という漢字は少し慣れないかもしれない。

白川議長(当時)

 実際に、この「目途」という漢字を使ってルビを振るということではなく、私自身は「めど」と発音したい。勿論、「目途」を「もくと」と読みたい人はそう読んでも構わないが、「目処」の方は何となくふにゃっとする感じがあると思う。

 この際に中長期的な物価安定の「目途」としたが、どうしてこの漢字を使ったのかというのが長年の疑問であった。雨宮理事(当時)の発言のように、この漢字は少し慣れてないと思った。結果として目処を使わなかったのは、何となくふにゃっとする感じがあるためだったようである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事