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1998年のロシア国債のデフォルトの際に起きたこと

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 1998年5月にロシアでは1997年のアジア通貨危機の影響や、ロシアの輸出の8割を占める天然資源、なかでも原油価格の下落により、国際収支が悪化し、それまでの財政の悪化にさらに拍車をかける結果となった。通貨ルーブルが急落し、ロシアからの資金流出が発生した。

 これを受け超高金利政策を打ち出すものの効果なく、ロシア政府は8月17日にルーブルの目標相場圏を拡大し、ルーブル建て国内債務の不履行を宣言し、対外債務を90日間支払い停止とした。いずれもデフォルト(債務不履行)と定義される。しかし、むしろこうした措置が不安心理を煽る結果になり、ルーブルはさらに急落した。

 ロシアが資本主義体制へ移行して間もないことから、ロシアの銀行の多くは海外から米ドル建てで資金を調達していたことで、ルーブルの暴落と共に破綻した。

 ロシアの金融危機がユーロに影響を与え、またメキシコが大幅な金融引き締めをせざるを得なくなったように中南米へと影響が広がり、資金の貸し手となっていた欧米などの債権者は大きな損失を蒙った。これにより先進国で唯一、景気がしっかりしていた米国にも影響が及んだ。

 ロシアの通貨危機はヘッジファンドにも影響を及ぼし、とりわけノーベル賞受賞者が設立に関与したLTCMが1998年9月に破綻に追い込まれた。

 巨大ヘッジファンドであったLTCMはロシア危機によるロシアの債券や株の急落に対し、その反動を見越して買い向かう。しかし、アジア通貨危機とロシア財政危機などから、質への逃避といった動きがむしろ強まり、安全な米国債などに資金が向かい、すぐにロシア市場が反発することはなかった。

 レバレッジを生かして、市場に大規模な金額で入り込んでいたヘッジファンドは、あまりに予想外の金融市場の変動によって巨額の損失を発生させた。

 特にLTCMは先進国の債券を空売りし、ロシアや中南米などの新興国の債券を買い増していた。つまり最悪のポジションを組んでしまっていたことで破綻に追い込まれた。

 LTCMは特に米国の金融機関から巨額の融資を受けており、この破綻に伴い金融危機に繋がりかねない深刻な事態となり、米国の金融当局が救済に乗り出した。

 LTCMの破綻がさらなる金融システム不安へと転化することを恐れたニューヨーク連銀のマクドナー総裁は、直ちに欧米の16の大手金融機関に声をかけ、LTCMへの緊急融資を実施させたのである。

 さらにその後、FRBは9月17日から11月17日まで3回に渡り積極的な金利引き下げを実施し、日欧の中央銀行も政策金利を引き下げた。この機動的な金融緩和措置によって、米国の金融システム不安はとりあえず払拭されたのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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