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日銀が日本国債を無制限に買い入れるとはどういうことなのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 10日に日本銀行は10年国債の無制限買い入れを行うことを発表した。これはいったいどういうことなのか。ある程度、金融市場に対する知識がある人にとっては、これが何を意味するのかは理解できるかもしれない。しかし、債券市場や日銀の金融政策について、それほど関心のない人にとっては、これはいったい何事だと思ったのではなかろうか。

 ニュースでも取り上げられ、そこでの説明もあったが、それでも何が起きたのかはわかりづらい。このため、専門外の人にもわかるように説明を試みたい。

 現在の日銀が行っている金融政策は過去の金融政策とは違っている。日銀はお金の価値が大きく変動しないようにするため、金融政策を行っている。日銀の仕事は金融政策だけでなく、円の価値を維持するため、紙幣の発行や流通、資金のやり取りのシステムなどを担っている。

 そして金融政策決定会合においては、貨幣価値の安定、裏返すと物価の安定のために、短期の金利を上げ下げする金融政策を9人の政策委員が決定する。

 昔は公定歩合、その後は無担保コール翌日物の金利を上げ下げすることによって、金融市場参加者の金利観などを変化させ、主に物価上昇を抑制することが大きな目的となった。

 しかし、物価の上昇、つまりインフレに対するのではなく、物価の下落、それはつまり通貨価値の上昇となるわけだが、デフレにも対処しろと日銀に政府が働きかけた。そのあらわれの極めがアベノミクスであった。それに日銀が応え、量的・質的緩和策を決定した。2年で物価を世界標準?の2%に引き上げるというやつである。量的緩和とは中央銀行が国債などを買い入れるという緩和手段である。

 しかし、金融政策で物価を自在にコントロールするのは現実は困難であることが次第にはっきりしてきた。物価はいっこうに上がらず、日銀はさらなる緩和手段を講じてきた。

 その手段としてマイナス金利政策が出てきた。これまでの常識的な金融政策では、政策金利をゼロとするのが最大の緩和策であった。今度は政策金利をマイナスとしたのである。

 これに対して金利差が大きな収益源であった金融界から批判を浴びた。その結果、日銀は本来であれば市場に形成を任せていたはずの長期金利、それは日本国債の10年物の利回りだが、それをゼロ%に押さえ込むという長期金利コントロールを決定した。

 これは長期金利を抑えるとともに、10年より長い期間の利回り上昇を容認して実は国債利回りの上昇を促進するものでもあった。とはいっても10年以下の金利は押さえ込むという異例の緩和策であった。

 この10年国債の利回りを押さえ込む手段に、指し値オペと呼ばれる無制限買入オペを導入したのである。日銀はその後、ゼロ%程度としていた10年国債の利回りの容認できる範囲をプラスマイナス0.25%と明確化した。これにより10日の夕刻に0.25%に10年国債利回りが迫ったことで、無制限買入を提示したのである。

 ただし、これは残存1000兆円の国債を無制限で日本銀行が全部買うとかいうものでは当然ない。あくまで10年国債の利回り上昇を0.25%で抑えるため、10年国債の直近発行された3銘柄だけを限度を設けず0.25%で日銀が買うというものである。

 この3銘柄の発行額や流通量には限界もあり、あくまで3銘柄で売ってきたものは全部買うというものである。これはまた、財政を助けるために行っているものでもない。

 日銀がコントロールしようとしているのは10年ものの金利なので、もっと長い期間の国債利回りについては、いまのところ抑えにきてはいない。こちらは通常の国債買い入れオペでの買入額を増やすといったことで利回り上昇を抑えるということはありうる。

 これで納得していただけるだろうか。そもそも日銀が長期金利をコントロールしてどうして物価が上がるのかは、私も良く理解できない。市場で形成するべき国債利回りを戦時下のように押さえ付けて何をしたいのか。これは財政ファイナンスにも映りかねない。日銀とともに異例な長期金利コントロールを採用したオーストラリアは早々に辞めている。いまは世界中で日銀しか異例ともいえる長期金利コントロールはやっていない。

 日銀が日本の長期金利を押さえ込み、米国では物価上昇などから米長期金利が上昇すれば、金利差拡大で円安要因となりうることもたしかではある。ここから円安が進行すれば輸入物価の上昇を通じた物価上昇圧力となる。果たして消費者物価指数が2%になるまで、このような緩和策を続けて良いのかという疑問も当然出てこよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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