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オーストラリア準備銀行(中央銀行)によるイールドカーブ・コントロール停止の動きを振り返る

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 オーストラリア準備銀行(中央銀行)は昨年11月2日に3年国債の利回り目標によるイールドカーブ・コントロールを停止すると発表した。政策金利であるオフィシャル・キャッシュレートの誘導目標は過去最低の0.10%に据え置いた。ちなみに、オーストラリア準備銀行マイナス金利政策はとっていない。

 オーストラリア準備銀行は昨年10月22日に、2月以来初めて2024年4月償還国債を額面10億豪ドル買い入れると発表した。つまり利回り目標を維持する動きが出ていた。

 同月27日に発表されたオーストラリアの7~9月期のコアインフレ率は6年ぶりに2%を超えたが、これを受けてのオーストラリア準備銀行による市場への介入は控えていた。

 29日にオーストラリア準備銀行は市場の予想に反し、3年国債の利回りを0.10%前後の目標水準に抑制するための対応を行わず、国債を購入する計画も公表しなかった。

 これを受けて、早ければ11月2日の政策決定会合で、2024年4月償還国債を対象とする利回り目標の撤廃ないし、修正が決定される可能性が市場で意識されたのである。

 オーストラリア準備銀行のイールドカーブ・コントロールは2020年3月に政策金利であるキャッシュ・レートのターゲットを0.25%まで引き下げるとともに、3年物豪国債のイールドに初めて0.25%というターゲットを設定したことでスタートした。その達成のために国債等の買い入れオペレーションが実施された。

 オーストラリア準備銀行のイールドカーブ・コントロールは日銀によるイールドカーブ・コントロールを意識して設定されたとみられる。ただし、対象の国債は日銀のように10年債ではなく期間の短い3年債となっていた。

 このオーストラリア準備銀行によるイールドカーブ・コントロールの停止への動きは今後、日本でも参考にされる可能性がある。

 今年4月以降の日本の消費者物価指数(除く生鮮食料品)は前年比で2%という日銀の目標に接近してくる可能性がある。円安やエネルギー価格の上昇が続き、サプライチェーンなどの問題が長引けば、2%を超えてくる可能性もないとはいえない。

 日銀は2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続するとしている。

 いわゆるオーバーシュート型コミットメントと呼ばれるものだが、仮に欧米との長期金利格差が円安を加速するようなことになれば、日銀に対しオーバーシュート型コミットメントを修正するよう求める声が出てくることも予想される。

 そのあとにオーストラリア中銀と同様の形式でイールドカーブ・コントロールの修正を行う可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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