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テーパータントラムが再発か、パウエル・ショックとならなければ良いが

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 FRBのパウエル議長は30日の議会証言で、「テーパリングを2~3か月早く終えるのを検討することが適切だ」と述べ、12月のFOMCで議論する考えを示した。インフレについても「(物価上昇要因は)一時的との文言を撤回する時期に来ている」と述べた(1日付日経新聞)。

 物価上昇は「一時的」との文言を撤回する必要はあったかもしれないが、今回の発言はタイミングが悪かったように思われる。原稿は当然ながら事前に準備されていたことで、市場におけるオミクロン・ショックは想定外であったかもしれない。12月14日、15日のFOMCの日程を考えて今回のタイミングだったのかもしれないが、火に油を注いでしまった感がある。

 2013年5月22日に、当時のバーナンキFRB議長は、上下両院合同経済委員会で証言を行い、「経済の勢いを示す徴候がさらに増えなければ緩和ペースを縮小させることはできない」と述べ、時期尚早の金融引き締めは、景気回復をリスクにさらす恐れがあるとの認識を示した。

 ところが、証言後の質疑応答で、景気指標の改善が続けば債券購入のペースを減速させる可能性があると指摘。この日は4月30日~5月1日に開催されたFOMC議事要旨も発表されたが、複数の議員が、早ければ6月にも資産購入を減額したいとの意向を示していたことが明らかになった。

 いずれFRBはテーパリングを行うと思われていたが、市場はバーナンキ議長の議会証言で安堵していた。ところが質疑応答でいわばハト派からタカ派のコメントに転じたことに驚き、これを受けて市場は混乱した。米債は下落し、翌日の東京市場では債券先物でサーキット・ブレーカーが発動した。

 これを市場ではバーナンキ・ショック、もしくはテーパータントラムと呼んだ。テーパリングに対する懸念により、金融市場がかんしゃく(タントラム)を起こしたように混乱したためである。これを受けてFRBのテーパリングはかなり慎重に行うこととなった。

 ちなみにテーパータントラムとは、テーパリング(Tapering)と、かんしゃくを意味するテンパータントラム(Temper tantrum)を組み合わせ、TemperをTaperに変更した造語だそうである。

 2012年6月にジェローム・パウエル氏はFRB理事に就任しており、バーナンキ・ショックのことも十分に把握していたはずである。市場との対話にはタイミングも重要であるが、今回はそのタイミングが悪すぎた。

 オミクロン・ショックによって市場の地合いが急速に悪化しており、株式市場や債券市場だけでなく、外為市場さらには原油先物市場も動揺を示していた。そんなタイミングで米金融政策の正常化を早めるような発言をすれば市場が過剰反応することは想定できたはずである。

 パウエル・ショックを起こさないためにも、市場の動揺を抑えるような発言も必要となろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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