石油備蓄放出発表でも原油価格は下落どころか上昇したのは何故か
バイデン米政権は23日、今後数か月かけて戦略石油備蓄(SPR)を5000万バレル放出すると発表した。日本や中国、インド、韓国、英国と協調して備蓄を放出する。日本の国家備蓄の放出は初めて。原油価格の高騰を受けたガソリン高を抑制するための異例の措置となる(24日付日本経済新聞)。
これを受けて23日の原油先物価格は下落せずにむしろ上昇した。その理由として指摘されたのは、今回、米国の放出量は5000万バレルと6億バレルの備蓄の約8%に相当するものの、予想よりも少なかったためとの指摘があった。
事前にどの程度の放出が予想されていたのかは確認できないものの、5000万バレルでは少なすぎるとの見方が出たようだ。ちなみに、日中韓など他国の放出量は明らかになっていない。
さらに米国では大部分が将来SPRに戻すことを前提に放出されるため、需給は先行き引き締まるとの見方が浮上したとの指摘もあった。日本などは危機対応のために石油を備蓄しており、それを全部放出することなどはできないし、いずれ備蓄量を元に戻すことも十分に考えられる。
しかし、それよりもやっかいな理由が存在した。原油供給の鍵を握る産油国の動きである。産油国にとり原油価格の下落により、政府の歳入や国内経済にとって負の影響が当然出てくることが予想されるためである。
原油備蓄の放出は産油国の増産意欲を削ってむしろ価格の一段の上昇につながるとの見方も出ていた。OPECプラスが12月以降に増産停止や減産復帰に転じるとの見方もある。
米中は安全保障や経済で激しく対立するが、今回の戦略石油備蓄の放出では協調するなど意外性の部分がある。それだけ原油消費国は価格上昇を危惧しているという表れだが、消費国側が原油価格の上昇を抑えることは容易ではないことも確かであろう。
24日の午前に岸田首相は、米国と協調し、石油の国家備蓄の一部を放出することを決めたと明らかにした。
24日朝の東京商品取引所では、石油備蓄放出に踏み切る米国などと主要産油国が対決姿勢を強めるとの見方から、中東産原油の先物が大幅反発していた(24日付共同通信)。